⑦
学校の最寄り駅から、電車に乗って約二時間ほど。リュックサックを背負った流架は、その海に程近いところに位置する町の駅のホームに降り立った。
流架の後を追うように相棒の輝、李と枢。そして依頼人である卜部と稲葉も駅に降り立った。
「着いたか」
風に乱された前髪をかき上げて、流架は都市とは違う、妙に広々と視界の通る駅周辺の景色を見回した。空気が違っており、ほのかに潮風が匂っている。
「で、森とやらが行方不明になった海は?」
「ところであなた誰ですか?」
「おいら五十鈴輝」
「こいつ元暗殺者だ」
「「元暗殺者!?」」
「もう足洗ってるけどな!」
「はぁ……」
「で、森とやらが行方不明になった海は?」
輝の問いかけに対し、卜部はスマホを輝に見せた。
「この海岸です」と、指差した先には、海の写真が写っていた。
「なるほどな。ここから歩いて行けるのか?」
「はい。この駅には、バスも出てますし、タクシーも使えるので」
「そうか。それじゃあ、行きますか」
そう言いながら、輝はグッと両手を伸ばす。
そして流架達は駅を出ると、海岸に向かって歩き始める。
しばらく歩くと目的の場所である海岸へと到着した。
「ここが、森が行方不明になった海か……」
ポツリと呟く輝の横で、流架は、目の前に広がる青い海をジッと見つめて、岩場に目を移したその時───そこに不意に現れた光景は、まさに『悪夢』そのものだった。
《《全身鱗に覆われた少年が、立ち入り禁止区域である岩場の上に立っていた。
》》
少年の姿は、上半身は人間で、下半身は魚のようであり、その下半身には、鱗がビッシリと生えていた。
ぺた、
と岩場に足を着く。
「───────え?」
流架達は、その少年を見て、言葉を失う。
「……」
少年は、流架達の存在に気がついた。少年は岩場から降りようとしていた足を止めると、ゆっくりと口を開いた。
「あはぁ……仲間……増ヤス」
にたぁ……
と笑った少年は、まるで流架達が来たことを喜ぶかのように嬉しそうに声を発した。
ゾッと、凄まじい悪寒と共に、全身から恐ろしい量の冷や汗が噴き出した。
「おい待てよ……卜部、この声……」
「……まさか……嘘、だよね……」
卜部と稲葉は、目を見開きながら互いに顔を見合わせた。ふたりは異形の姿をした少年の声に心当たりあったのだ。そうこの声こそ、行方不明になった森の声そのものだった。
「……増ヤス……」
森だったモノの口から呟きが漏れる。
「増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤス増ヤスフヤスフヤスフヤスフヤスフヤスフヤスフヤヤヤヤヤヤ……!!」
「「うわぁぁあああああああああ!!」」
恐ろしいうわ言が耳に流れ込んできて、卜部と稲葉は恐ろしい悲鳴を上げた。
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