第10話side柚希

 今の世の中は圧倒的に男性が少ない…。500:1…ううん、1000:1の比率だとテレビでは言っていた。男性のハッキリした総人口が分からない為曖昧だけど私はそれ以上の比率だと、そう思う…。だって物心が付いた時から男性に会った事なんて一度も無いのだから…。


 だからだと思うんだけど創作物は女性にとって男性への憧れを表現する一つとなっている。創作物は素敵な男性との恋愛が描かれている作品が圧倒的に多い。それを見て自分もこんな素敵な恋愛してみたいなと世の中の殆どの女性が思っていると思うし、私も憧れている。実際の男性はそんな素敵なモノじゃないと冴子ちゃんは言うんだけど、乙女の夢は壊さないで欲しいと思っている…。


「はぁ~……この漫画の男性かっこ良すぎない!?何壁ドンって…そんな事…素敵な男性にされたら私絶対に気絶しちゃう自信があるよ/////?」 


 学校は土曜日なので休み。部活のテニスも本日は休みという事で朝から無性に甘い物が食べたくなり近くのコンビニへとデザートを買いに走る…。そのついでに雑誌を物色。すると『素敵な男性とのシチュエーション特集』という特集本が出ていた。手に取り本をパラパラ捲ると壁ドンのページが目に入った…。こんなの…想像するだけで顔が赤くなるのが分かる。こんなけしからん雑誌は買うしかない…。雑誌とスティックケーキを3種類購入。スティックケーキを食べながら雑誌を見るという私の今日の予定が決まった瞬間だった。


 


 ホクホクしながらコンビニから自宅への帰り道の事。公園の前を通りかかるとブランコに座ってキョロキョロしている人が視界に入った…。どうしたんだろう?何か困った事でもあったのかな?私はその人の元へ近付いて行く…。


「ちょっ…ちょっと待って…もしかして…男性な…の?」


私の本能が激しく男性だと訴えかけてくる。でも…男性なら男性警護官が必ず傍に付いている筈なのに…辺りには見当たらない。私は意を決して声を掛けてみた…。


「あ、あの~…?」


 その人の近くに立って分かった。やっぱり男性だ…。初めて男性に会った。私が声を掛けると周りを見渡している…。どうやら自分に話しかけられるとは彼は思ってなかったみたい…。キョロキョロする仕草がとても可愛い♡


「え~と…僕に用ですか?」


そんな事を思っていたもんだから帰ってきた言葉に私はあたふた…。首をブンブン振ってそれに応える…。


「え~と、どうかした?」


彼をマジマジと見つめてしまう…。中性的なイケメンな男性が私の印象…。そんな素敵な男性に男性警護官が居ない筈ないよね?ね?


「あの…その、男性警護官の方は?」


「…えっ?」


えっ?って何?えっ?って…


「だ、だから男性警護官の方は何処にいらっしゃいますか?」


必死に声を絞り出す私…。


「ゴメンだけど…男性警護官って?」

「…えっ?」


今度は私の番だった…。私の口から自然とえっ?が出てきていた…。男性警護官を知らない!?いやいや…そんな事あるわけ…ないよね?


「…え~と…男性を警護する方が必ず傍に居ると思うんですけど…?」

「…そうなの?何で?」


「…えっ?えっ?」


知らないの!?本当に知らないの!?何で?と、言われちゃったよ(汗)



「…がこんな所に…しかも私と同じ歳位ですよね?1人で居ると絶対に拐われますよ?」


年齢は同じ位だよね?簡単に拐われちゃうよ?


「…え~と…どうしてここに居るのか、僕にも分からなくて…」


んっ?聞き間違いかな?


「…分からない?」


「うん…分からない」


ま、待って!?本当に分からないの!?


「…じゃあ……取り敢えず名前を教えて貰っても良いですか?」

「…名前?……豊和とよかず。名字は…え~とえ~と思い出せない…歳は…15歳……だね?」


年齢はやっぱり同じ歳だった…。でも思い出せ無いって…もしかして…。


「…思い出せないって?」

「…うん。思い出せないね…」


「…もしかして記憶喪失?誘拐されてて逃げて来たとか?」

「…事件に巻き込まれたとは思え無いけど…。うん。記憶喪失はあってるかも。何処に住んでいるとかそういうのも分からないし…」


彼を放ってなど置けない!そう思った私は…


「…そんな…もし…もし宜しかったら…その…うちに…うちに来ませんか?お母さんも妹も居ますけど…家で詳しい事聞きますから…」


「マジか!?得体の知れない男にそんな風に声を掛けてくれるなんて…本当に優しい女の子だな…。見た目通りの美少女天使か!?」


い、今…私の事天使って言った?美少女天使って言ったよね!?


「ふぇっ/////!?」


こんな素敵な人にそんな事言われたら…。


「てててててててて、天使なんて…そんにゃぁ//////////」


─誰だってこんな風になっちゃうよ/////


「…え~と…お願い出来ますか?」


「ひゃい…ま、任されました!」


ううっ…噛んじゃったよぉぉ…


「あっ…そういえば名前って聞いても大丈夫?」


「も、勿論だよ。わ、私の名前は天使柚希あまつかゆきだよ…」


私が名前を伝えると…


「…あまつか…って天使って書くんだよね?」


「…そ、そうだけど…」

「やっぱり天使さんって天使じゃん?」


そんな事言われたら、私……私…惚れちゃいます/////チョロいと言われてもこれは仕方無いですよね?こんな事言われて惚れない女性は居ないと思います!そう考えると私はチョロくないです!普通です、普通!


「ぴゃあっ/////あまりそういう事言わないでくれると有難い…です」

「何で?」

「て、照れちゃう…から/////」


 も~…こんなのホント反則だよ…/////反則だよね?豊和君を家に連れ帰ってからも色々あった。思い出したくもないのが私を誘拐犯だと疑ったお母さんと梓希…。失礼しちゃうよ!


 でも色々話をして豊和君と一緒に暮らせる様になったのは本当に嬉しい。異様に行動が早かったお母さんを素直に崇拝するとしよう!お母さんナイスゥ~!


 そんな風に思っている私に更なる衝撃な展開が待ち構えていた…。お母さんが豊和君の上半身を見せて欲しいと言ったのだ…。私はその時心の中で「このエロエロ魔人」と思ったのはどうか許して欲しい。だって虐待とかの傷の確認とは思わなかったんだもん…。


 豊和君が服を脱ぎ出すと梓希が横から実況を入れてくる。分かってる、分かってるから黙ってて!脱ぐ時の衣服の擦れる音の破壊力の高さ…。私はなんとか鋼の精神で耐えていたんだけど豊和君の細い引き締まった裸体を目にした所で意識が途絶えてしまった…。そして気が付くと半裸で抱き抱えられている惨状に鼻血が止まらなかったのは言うまでもない…。


 そして話はそれだけでは終わらなかった。男性の手料理に男性の歌声。ここは天国だろうか?料理は美味しく歌声も素晴らしい。梓希…私の生姜焼きを隠れて取った事はバレてるからね?後で覚えていなさいよ?御飯を食べ終えて暫くするとお風呂に入るという事で豊和君が一番風呂へと向かう。そこから負けられない一発勝負の戦いが始まる…。次にお風呂に入る人をジャンケンで決めるのだ。勝負は一瞬で決まった。私の勝ちで幕を下ろしたのだ…。


 勝負を終えた後、直ぐにお母さんは豊和君の布団を敷きに行く二階へと向かうらしい。豊和君の部屋は私の隣の部屋らしい…。ドキドキして今夜は眠れないかも♡そんな事を思っていた私にリビングを出るお母さんが爆弾を投げ付けてきた。


「…そうそう、柚希」


「な~に、お母さん?」


「豊和君着替えなんだけど…」


「あっ…そういえば男性物の着替えってうちにあったの?」


「あるわけないでしょっ?柚希のパンツと寝間着を替えにだしておいたわよ?」


「……………はっ?」


一瞬脳がフリーズ。再起動迄数分の時が必要だった…。その時には母の姿は消えていた。


「わ、私の下着や服を豊和君が着るとな?」

「良かったねお姉ちゃん?羨ましいな…」

「そんな事言ってる場合じゃないわよ!恥ずか死ねる案件だよコレっ!?」


私は慌てて席を立ち…

「ちょっとお姉ちゃんどこに行くの?」

「決まってるでしょっ!」


まだ間に合う筈…。私は声も掛けずに脱衣場へと入ると、そこには私のショーツを着た下着一枚の豊和君の姿……………………………

……………………………………………………

……………………………………………………

どうやらあまりの衝撃に私の時が止まっていたようだ…。芸術とも言えるその姿。私の大事な所を隠すショーツが豊和君の大事な所を隠している…。えっ…これって実質性行為だよね?ヤっちゃった!?ヤっちゃったよね!?妊娠しちゃう!?妊娠しちゃうよ!?と、思ってしまうのは致し方無い事だと思って欲しい…。私がエッチな訳じゃないんだからね?そして私はまた気絶。憧れだったお姫様抱っこ迄経験してしまう…。悔やむのは気絶してしまいお母さんに豊和君の後の風呂を取られた事だろう…。勝負に勝ったのに…ぐすん…。明日は譲らないんだからね?


 とにかく色々合ったけどこれが今日1日で起こった事全部…。こんな出逢いがあるなんて正直信じられない…。狐や狸に化かされた気分だ…。でもこれって最早運命だよね?私はこの出逢いを神様に感謝しながらこの日は眠りについた…。


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