第6話 達くんvs凛ちゃん

 対戦!? なんだろ、これ!? いやいや、対戦ってことはわかるけど、え、そうなの!?

 興奮しちゃった私はグループにメッセージを送る。


"なんか、レベル5になったら対戦できるようになったんだけど!"


 今は自室で寝る前の時間をぼんやり過ごしていただけ。もし、対戦できるんだったら、今からのんびり楽しめるんだけど。


"凛ちゃん:え、マジで!? だけど、私、レベル4なんだよなー"


 あ。


"達くん:俺もまだだな……"


 あああああああ!?

 そうだった。ドラゴンくんが強すぎるのと、夜のHP回復のおかげで、私はみんなよりも探索で稼ぐ経験値が多いのだった。

 そんなわけで、みんなのレベルが上がるのを待ったあと、対戦で遊んでみることにした。

 その日、放課後に私の家に集まってもらった。

 対戦なんだから、顔を見ながら遊べたほうが盛り上がるよね? 両親は働きに出ているので、気兼ねなく遊べるのだ。


「じゃあ、まずみんなのモンスターを見せ合おうぜ?」


 凛ちゃんの提案に乗って、3人ともモンスターを見せ合う。

 凛ちゃんのウサギちゃんはこんな感じだ。


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氷跳兎 Lv5

力:6+5 素早さ:11+6 体力:6+5 精神力:7+5


<<スキル>>

使用可能:忍び足、フィギュアスケート

音感知

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「あ、フィギュアスケート覚えたんだ!」


「おう、でも、使ってるのみたことないんだけどな。対戦だったら使えるんだったらいいけど」


 華麗に舞うウサギさんを見てみたい!

 続いて、達くんの鳥さんだ。


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眠眠夜鳥 Lv5

力:7+5 素早さ:8+5 体力:7+5 精神力:8+5


<<スキル>>

使用可能:風の矢、眠りの風

遠視

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 ちなみに、どんなモンスターかというとフクロウさんだ。

 物知りだけどおっとりした感じの達くんにはお似合いだね。

 で、次が私のやつなんだけど……。


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黒暴竜こくぼうりゅうの幼体 Lv6

力:13+6 素早さ:4+5 体力:12+6 精神力:10+6


<<スキル>>

使用可能:破滅の爆裂砲、絶望の咆哮

滅殺の重撃

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「「むっちゃ強くない?」」


 達くんと凛ちゃんにそんなことを言われた。

 う、うん……私もそんな気がするんだよね……。


「ま、まあ……レベルが2人よりも1高いのもあるから……とりあえず、対戦してみようか?」


 対戦の手順は、アプリによると『フレンドコード』を交換したプレイヤ同士でできるらしい。フレンドコードはスマホを互いに向け合って、アプリの『交換』ボタンを押すと簡単にできる。


 はい、3人分、完了っと。


 対戦を選ぶと『誰と対戦しますか?』というメッセージが出てきて『タイヤ』と『ムック』の2人が表示されている。2人のアプリには私の『ジョブズ』が表示されていることだろう。


「誰と誰から対戦する?」


「まず僕とタイヤでいいんじゃない? なんか、ジョブズのとは普通の戦いにならなそうだし……」


「それはそれで楽しみだけどな! むっちゃ強そうだし!」


 そんなわけで、凛ちゃんと達くんの対戦が始まった。

 対戦は円形の――スタジアム風の場所で戦う。その中央でフクロウとウサギが向かい合っている。

 画面の上には2本のバーがある。端にある『自分のHP』『相手のHP』と書いてあるので、どちらかがゼロになれば決着がつくんだろう。


「ええと、ああ、コマンドを選ぶのか」


 達くんが画面には、以下のコマンドが出ている。


・通常攻撃

・防御

・スキル


「さて、どれを選ぼうかなあ……」


 そんなことを言いつつ、達くんは『スキル』を選ぶ。そして『眠りの風』を選んだ。表示された効果は『命中すれば相手を眠らせることがあるぞ!』だ。

 凛ちゃんが選択すると、画面が動き出す。

 最初に動いたのは凛ちゃんのウサギだ。


『氷跳兎:忍び足を発動した! クリティカル率が上がった!』


 ウサギがそろそろと歩き出す。

 相手が目の前にいるのに忍び足して意味があるの? と思ったけど、ゲームの世界の話だから!


「なんだ、クリティカル率って?」


「ゲームでやったことない? バトルで威力の高い攻撃が決まるやつ。あれの確率が上がるんだよ」


 次は達くんのフクロウ。フクロウは大きく両腕の翼を広げて、バサバサと羽を振った。


『眠眠夜鳥:眠りの風を発動した! 眠りの風が氷跳兎を襲う!』


 ふわっーっと青くてキラキラした空気がウサギの周りに絡みつく。ウサギは逃げようとしたけど、どうやら無理だったようで、その風に囚われて――

「げ、寝た!?」


 凛ちゃんの言葉の通り、ウサギは地面にばたっと倒れて眠りについた。

 2ターン目が始まる。


「寝ているから、コマンドが入力できない!?」


「うふふ、殴っちゃおうと」


『眠眠夜鳥:風の矢を発動した! 風の衝撃波が氷跳兎を襲う!』


 フクロウが再びバサバサと羽を振るう。今度は勢いのある風が飛び出して、眠っているウサギに命中した。ウサギは衝撃で後ろへとすっ飛んでいく。

 凛ちゃんのHPバーが2割ほど減っていた。


『氷跳兎:眠りから目を覚ました!』


「起きただけぇ!?」


 凛ちゃんがそんなことをぼやく。一方、達くんの表情は冴えない。


「ただ、攻撃が先の相手だとあんまり微妙だなあ……」


「どうして?」


「やっていることは、2ターンかけて『タイヤの攻撃、僕の攻撃』ってだけだからね。それなら最初のターンで『タイヤの攻撃、僕の攻撃』とやっても同じだよ」


 あ、確かに!


「使えないことはないけどね……」


「どんな感じで!?」


「ふふふ、ジョブズには教えない。ジョブズへの切り札だから」


 もう、意地悪だなあ!

 そして、3ターン目が始まる。


『氷跳兎:フィギュアスケートを発動した! 回避力が上がった!』


 ウサギさんの両手両足に氷のエフェクトが発動、軽やかにぴょんぴょんと飛ぶ。


『眠眠夜鳥:風の矢を発動した! 風の衝撃波が氷跳兎を襲う!』


 再び風の矢を放つフクロウ。

 だけど、今度は軽やかな動きでウサギがそれをかわした。足元に氷の軌跡を描いて、フィギュアスケートチックな動きで軽やかにかわす。


「お……さすがは回避力アップだなあ……」


「反撃だ、いくぜ!」


 4ターン目。


『氷跳兎:通常攻撃で襲いかかった!』


 体当たりを敢行、フクロウにダメージを与える。おまけに『クリティカル!』の文字が出たので、どうやら威力が大きくなったようだ。


「どうして通常攻撃なの?」


 私の素朴な疑問に、凛ちゃんは鼻の頭を描きながら答えてくれた。


「いや、こいつな、実は攻撃スキル持ってないんだよな……」


「まだ覚えていない、もう一つのスキルは?」


「聞き耳って言ってな、なんか、そっちも回避力が上がるんだよなあ……地味だわああ……」


 凛ちゃんは嘆いているけど、達くんの表情は渋い。


「形勢不利だなあ……」


 ぼやきながらも達くんも風の矢を 発動する。今度は命中して凛ちゃんのHPを削った。

 5ターン目以降は、4ターン目の繰り返しだった。ひたすら凛ちゃんが通常攻撃で殴り、達くんが風の矢を連射する。

 一発の威力はスキルである風の矢が大きいんだけど、凛ちゃんは高い素早さとフィギュアスケートによる回避力アップで結構な頻度で回避しつつ、小刻みに通常攻撃を入れていく。そして、何発かはクリティカルとなって達くんに大きなダメージを与えた。

 やがて――

『勝者、タイヤ! おめでとう!』


 ばたりと倒れたフクロウ、そして、ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ぶうさぎの姿。


「ああ、負けたかああ……」


「よっしゃあ、勝ったぜ!」


 おめでとう、凛ちゃん! 残念だったね、達くん!


「意外と、素早さは重要だね」


「そんなにか?」


「行動順が常にタイヤからだっただろ? 行動順はおそらく素早さで決まる。それと、回避力にも影響を与えていると思うんだ。結局、外しちゃうとノーダメージだからね。重要だと思うよ」


「へえええ! 私のウサギ、強いじゃん! 攻撃スキルがないから、微妙だと思っていたわ!」


 なるほど、素早さが大事なのね。

 私のドラゴンくんは――9!?

 二人のモンスターに比べるとダントツな遅さだ。


「ひょっとすると、意外とドラゴン、弱いかもな……」


 ニヤリと達くんが笑う。なんか、企んでる……?


「どうやら対戦は終わるとHPが全快に戻るっぽいね。連戦できるよ。じゃあ、僕と戦ってみようか、ジョブズ?」


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