最強のモンスターを育てよう!

三船十矢

第1話 神様がくれたゲーム

「ええと?」


 気がつくと、私は白い空間の中でぷかぷかと浮いていた。

 あれ……ベッドで寝ていたと思うんだけど? しげしげと着ている服を眺めると、寝巻きだったので間違いない。

 はて、それじゃあ、これは夢?


「りんご? りんごじゃない?」


 振り返ると、幼馴染のくるまりんちゃんがいた。ちなみに、りんごは私の名前だ。

 凛ちゃんは保育園からずっと一緒で同じ中学校に入学した、ボーイッシュで背の高い女の子だ。スポーツ万能で空手まで習っている。凛ちゃんもTシャツにハーフパンツというリラックスした服装だった。


「寝たはずなんだけど……ここはどこなんだよ?」


「ううん……夢、なのかな?」


 謎空間で凛ちゃんと会う。変な夢だな。

 そんなときだった。


 ――急にお呼び出して申し訳ありません。


 心の中に響く、という感じ? いきなり女性の声が聞こえた。凛ちゃんもびっくりしているから、同じなんだろう。

 ぴかーっと光が現れて――

 おさまったときには、金色の縁取りが綺麗な白い服を着た女性が現れた。胸元に白猫ちゃんを抱えている。ちなみに、むっちゃ美人だ。

 というか、周りがピカピカ光ってる? 後ろから光も差してる?


「すごい、なんだか神様っぽい!」


「はい、神様です」


「本当に!?」


 私の言葉に、自称・神様がにっこり微笑んで頷く。うんうん、わかってるよ、ノリツッコミがくる……くる……くる……え、こない!? てことは、冗談じゃないの!?


「ああ、そうそう、もう一人、お連れしますね」


 神様が右手をひょいと振ると、


「うわあああ!?」


 そんな声をあげて、寝巻き姿の男の子が不意に姿を現した。


たつくん!?」


 彼の名前は六芸ろくげい達くん。凛ちゃんと同じ私の同い年だ。


「ええと、ここは……? え、ジョブズにタイヤ!?」


 私たちを見るなり、そんなことを言う。

 達くんには仲良くなった子に妙なあだ名をつける変わった趣味がある。ちなみに、私がジョブズ。もうちょっと可愛いのがいいんだけどね?


「手違いがありまして、ごめんなさい。皆さんと一緒に呼んだはずなんですけど。次元の狭間に引っかかってしまっていました」


 すごいところに引っかかっちゃったね。


「僕って、次元の狭間の帰還者なんだ!?」


 そこ、テンション上がるところなんだ。私も上がっちゃうけど。

 そんな場所があるのなら、きっとここは神様が用意した不思議世界なのだろう。


「さて、皆様をお呼びだてした理由をお話ししましょう。今日、この猫を助けてくれましたね?」


「ひょっとして、公園にいた子猫ですか?」


「はい」


 私の言葉に、神様が頷く。

 確かに今日、私たち3人は子猫を助けた。高い木から降りられなくなってたんだよね。

 で、達くんの肩に登った凛ちゃんが「ほらほら、こっちおいで!」と手を伸ばして――

 恐怖した子猫ちゃんは枝から見事に落ちた。

 そこに飛び込んだのが私で、子猫ちゃんを胸元でナイスキャッチ! いやー我ながら二度とはできないスーパープレイだった。運動神経、そんなに良くないので……。

 子猫ちゃんは、いつの間にか現れた親猫ちゃん――たぶん、毛並みが同じなのと懐いていたからね――に連れられて帰っていきましたとさ。めでたしめでたし。

 ……終わりじゃなかったんだ!?


「助けてくれたお礼です。皆さんに素敵なプレゼントを贈りましょう」


 そこで不意に、神様と私たちの間に四角い映像が現れる。

 おや?

 それは真っ赤なドラゴンが描かれたイラストだった。


「これは『最強のモンスターを育てよう!』というゲームのアイコンです」


「最強!?」


「ゲームゥ!?」


 凛ちゃんと達くんが大きな声で反応する。

 ええ、神様がゲームくれちゃうの? どんなのだろう?

 アイコンはくるくると回ると、ひゅうんと消えていった。


「あなた方のスマートフォンにインストールしておきました。仲良く遊んでくださいね」


 ……あれ?

 神様の言葉が遠くなって――いや、それだけじゃない。見えていた世界がぐにゃりと歪んで、暗闇に染まっていく。

 あれ、あれあれあれ? 用事は終わったってこと?

 完全に暗くなる直前、神様のこんな言葉が聞こえてきた。


「ああ、そうそう……そのゲームの存在は誰にも教えないでくださいね。もし、知られたら――」


 ぶつっ。

 そこで音は消えて、世界は闇に没した。

 ――

 ――――

 ――――――――


「――ううん……」


 私は目を覚ました。ベッドのすぐ近くにある窓から柔らかな日差しが差し込んでいる。ちゅんちゅんと雀の鳴き声が聞こえた。

 上半身を起こす。


「……ええと……何か変な夢を見たような……」


 思い出せそうで思い出せ――

 ないなんてことはなく、あっさりと思い出せた。

 なんだか不思議な夢だった。夢というわりに現実感があった。まるで起きていたかのようにはっきりと思い出せる。

 一部始終をしっかりと思い出してから、私はボソリと呟いた。


「いやいやいや! バレたらどうなんの!?」


 神様の最後の言葉、綺麗に消えちゃってたよね。そこ、一番大事だから! ええ……どうなっちゃうんだろう……。

 まあ、わからないものはいいとして――

 私はベッドサイドで充電中のスマホに視線を向けた。


「……本当に……?」


 神様は言ってたけどね、スマホにゲームをインストールしたって。スマホって……なんかもう、やたらと現実に染まった神様だなあ……。


 まあ、いいや。

 じゃあ、見せてもらったアイコンが入っているか見てみよう。


 スマホを手に取ってスリープ解除。


 ……うん? おや? あれ?


 スマホの画面を見てみたけど、そんなアイコンはどこにもなかった。

 神様、入れ忘れちゃった?

 そんなわけない。夢だもんね……夢だった、というわけだ。まあ、そうだよねえ……。神様がスマホのゲームくれるなんて、ちょっと威厳がねえ……。私の願望、入っているよねえ……。


 夢だった!

 そんな感じで、私はこの件を終わらせた。


 凛ちゃんや達くんに連絡しないのかって? だってさー、私の個人的な夢だからね。そんな話をしても、2人にすれば知らんがな、同じ夢を見ているはずもない。

 さて、と……あんまりのんびりともしていられない。


 実は、今日、その2人がうちに遊びにくるのだ。


 私はお菓子を作るのが趣味で、たまに2人を招いてお菓子パーティーを開く。今日はその約束をしているので、私は支度で忙しいのだ。

 そんなわけで、私はすっかり昨日の夜のおかしな夢を忘れたのだった。


「「お邪魔しまーす」」


 昼ごはんを食べた後、凛ちゃんと達くんがやってきた。

 ちなみに、私の両親はお出かけしているので、家には3人しかいない。


「いらっしゃーい!」


「腹八分目できたぞー」


「僕も僕もー」


 2人がにこやかに部屋に入ってきてリビングのテーブルに座る。

 テーブルにはあらかじめ用意しておいたたくさんのクッキーとチョコレートケーキが用意してあった。

 ふふふ、私が午前中のうちに作っておいたのだ。


「おおお、うまそう!」


「紅茶を淹れるから、もうちょっと待っててね」


 興奮する凛ちゃんに言って、私はキッチンへと向かう。

 お湯を沸かしていると、2人の会話が聞こえてきた。


「あ、そうだ。昨日さ、変な夢を見たんだよ」


 凛ちゃんの声に達くんが反応する。


「神様が出てきて、最強のモンスターを育てよう! ってアプリをくれた話?」


「そう、そうそうそう!」


 凛ちゃんが興奮した声を上げる。

 え、え、え、え!? みんなも同じ夢見てたの!? 本当に!? 私も話に混ざりたいんだけど、あ、お、お湯がもう少しで、わ、沸きそう……!?


「……え、あんたも見ていたの? もうちょっと驚けよ!」


「ええ!? だ、だって、別にみんな見ているって思ってたからさ!?」


「だ、か、ら! どうしてそう思ったんだよ。肝心のアプリは入ってなかったし――」


「え、アプリなら入っているよ?」


 へ? 

 私はぽかんと口を開けた。なんだか、とんでもない展開になっているんですけど!?

 あ、お湯が沸いた。は、早く紅茶を淹れて……!


「ほら、これ」


 たぶん、今、むっちゃアプリ立ち上げてるー!


「あ、ホントだ。マジかよ……」


 ホントなのおおおおおおおおお!?


「アプリが入っているってことは、夢も本当だと思っていたんだよ」


「アプリ、見つけられなかったぞ?」


「ああ……アプリはね……ホーム画面にはなくて、アプリ全部のところにあるんだよ」


「ええ!?」


 ええ!?

 そ、そんなところがあったのか……中学生に上がってから買ってもらったばっかりだったから、知らなかったよ!?


「アプリを検索するか、全体で――ほら、こうやって」


「うわああ、あった!」


 ええええええええ!? 凛ちゃんも見つけちゃった!?


「立ち上げよう!」


 紅茶を淹れ終わった!

 私は丁寧な手つきで紅茶をトレイに乗せて――うう、焦るな、霧島りんご! 丁寧な手つきで、でも素早く、手早く……!

 私はトレイを持って、慌ててテーブルへと向かった。凛ちゃんが握っているスマホには『最強のモンスターを育てよう!』というタイトルがまさに表示されていた。


「お願い、私にも見せて!」


 神様がくれたゲーム――

 なんだか、すっごくワクワクするんだけど!?

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