第9話 魔の都市。
桂華の遠い日の記憶が、ぼんやりと脳裏に浮き上がってきたが、今一つ、確信に思える事はなかった。何かを思い出そうとする桂華の隣で、希空が機関銃の様に話し出す。
「ここってさー。戦国武将が、街を守る為に敷いた6角の一点って知っている?」
歴史お宅の希空が続ける。
「呪術物の舞台は、京都が多いんだけど、この地も同じで、戦国武将が街を守るために、六芒星をモチーフに守護陣を敷いたのね」
「そう言うのは、普通、神社仏閣で、結ぶんじゃないの?」
桂華が、反論すると、希空は、笑顔で、図書館の裏にある蔵を指差した。
「戦時中に、空襲で、ここにあった神社が全焼したのよ。何回も、建て直したんだけど、何回たっても、焼け落ちてしまう。それで、立てるのは、諦めて、新物だけ、あの蔵に収めてあるらしいよ」
桂華が、目をやると蔵の所だけ、ぼうっと、青白く浮いて見える様だった。
「更に、陣の中心から四方には、獣神を置いたって、話があるのよ」
「この街に?」
「陣が今も起動しているかは、わからないけど、大空襲の時も、多くの被害も出なかったし、あの震災の時も、不思議な事に、被災の大きさの割には、死者が出なかったのよ」
「そうなんだ・・・」
科学では、説明のつかない事がある。桂華は、誰よりも、わかっている筈だったが、自分の生活している足元に、そんな陣が敷かれていたとは、知らなかった。
「その戦国武将は、どんな人だったのかしらね」
「そうね」
もはや、希空の声は、上の空だった。ここが陣の一点だとしたら、あの現れた男は、誰だったのか?あの女性は、飛行機の中でも、逢っている。忘れていた記憶が、桂華の中で、形を取りそうになるが、何かが、引っ掛かり、蘇ってこない。
「どうしたの?」
頭が痛くなり疼くまる桂華。希空は、驚いて覗き込む。
「ちょっと、目眩が・・・」
「え?」
思い出したいが、思い出そうとすると、記憶の箱の蓋が、何か、鍵が引っ掛かるのか、開こうとしない。思い出しては、行けない事があるのか?
「大丈夫?ですか?」
覗き声を掛けてきたのは、1人の男性だった。
「日差しが強い様ですね。あちらの木陰に行きますか?」
「あ!すみません」
お調子者の希空が差し出された手を握る。
「あ・・あなたではなくて、こちらの方」
向き直る男性が、桂華を覗き込む。その左目は、髪に隠れてよく見えないが、どこかで、見た記憶があった。
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