第17話本部突撃⑦
不幸は、いつだって確実に予兆を知らせる。
どんな不幸かも、全てをその予兆は教えてくれた。それが真実で、現実で、決して揺るぎ変わる物の無い物、神の定めた掟と言っても良い。
だが___
____神はどうもその掟に飽きたらしい。
「クソ、絶対に回避する。して見せる!」
マイクはただひたすらに北壁近くのテント群をを走っていた。マイクの思う不幸の結果___即ち、死を回避するためにただひたすら走る、
逃げる。いままでは諦めていたが、今回は彼には結果が変えられる気がした。悪寒が引いて行き、手の震えがおさまりつつあって、それがその"気"につながっているようだった。
テント群を抜ける、西の壁前に出た。
目の前には2人の帝国兵が屯していて、周囲には王国兵の死体が大量に、12、3人ほど転がっていた。恐らくちゃんと死んでいるかの確認だろう。
「蛮族が…」
だが、この惨状を招いたのは帝国兵達ではなさそうだった。鎧には血がついていなかったからだ。背後にはあの炎の女の姿も気配も無い。
帝国兵よりもこちらの方が装備も良い。
「人数差など、問題はない。」
2人がこちらに気づいたようだ。
ブロートソードを持った帝国兵がマイクの喉笛を狙って剣を突き出す、それは素早い一撃。
「…ッ!?」
途端、身体中の悪寒が背中に集中する。
まるでマイクの背中が裂かれるような冷たさ。
マイクは体を逸らしながらツーハンドソードで背中を縦に背負うように守る。
ブロートソードの帝国兵の一撃は空を突く。
そして、背後から別の帝国兵の戦斧が振るわれる。鎧の無い、腰のベルトを狙った一撃。
だが、背負うように守ったツーハンドソードにそれは阻止された。
「なっ!」
戦斧の帝国兵は驚いたようで、声を上げた。
マイクは前のブロートソードの帝国兵を左足で側頭部を蹴る。帝国兵はそのまま倒れる、そして右足を軸に振り返り左足を着きの勢いのまま腰を使いツーハンドソードを戦斧の帝国兵の右脇を狙い、腕ごと叩き斬る。右の二の腕に叩きつけられたツーハンドソードはそれを切断し、胴体の正中線まで深く斬り込んだ。
「…___ 」
声も上げず、力無くその場に跪く。
それを引き抜き、反対の左鎖骨に叩き込んだ。
勢いの無いせいかあまり深くは斬り込めず、
肋骨までに終わる。それを全力で引き抜くと、左にそのままゆっくりと、血溜まりを広げながら倒れた。
転倒した帝国兵の方を振り返る。
頭を抑えながら中腰でこちらに剣を構えていた。それに合わせてマイクも構える。
「ギフト…なのか?」
わからない。
今までは走っていた全身の悪寒が一点に集中する事も無いし、悪寒も収まったりと今までのそれとは、これもまた違っていた。
これから起こる自身の不幸を予感する力…第六感で感じ取るその危機に、強く強くマイクは抗い願った。
その力と思いの先、第六感と心の延長線上のその景色は__
(暖かくて心地良い…)
___不思議と、そう感じた。
ブロートソードの肘を狙った右からの横薙ぎの一撃。マイクの左肘には悪寒が走った。それを左肘当てと左膝当てで挟むように防御する。マイクは隙を与えず右手のツーハンドソードで防具の無い鎖骨の上の肉に突き立てる。
「ぐフっ」
帝国兵は血を吐いてブロートソードから手を離し倒れる。マイクもそれに合わせて元の体制へと戻っていく。ついに手に入れた人智を超えた超常の力の一角。自身に降りかかる殺意や攻撃、不幸を予知する未来視に似たその感覚。
それはマイクに、凄まじい勇気と希望を与えた。
視界の端で地面に倒れたはずのブロートソードの兵士がわずかに動くのを捉えた。
「クソ、死にきってなかったのか___」
「敵だァァァァァァァ!」
帝国兵は顔を上にたげ叫んだ。
マイクはツーハンドソードを右肩に乗せるように構え、叫ぶ帝国兵に兜割を叩き込もうとするが振り被った時点でそれをやめた。
「…優秀なわけだ。」
帝国兵はぐったりと地面に寝そべっている。
どうやらこの帝国兵の断末魔はさっきの叫びらしい。死にゆこうとも味方に繋ごうとするこの帝国兵にマイクは畏怖を抱いて___
___瞬間、熱気を感じた。
背後が明るく染まり、大きな影がマイクの横の影に映った。マイクは振り返る。
「見つけたぞ、貴様。」
火に照らされ煌めく金髪の髪、強靭な大きい体、闘牛のような角を前後反対にしたようなカチューシャ、つまりアメリナだ。
彼女はマイクにとって、ギフトの取得に手を貸したと言っていい存在。それを踏まえてアメリナの第一声にマイクは言葉を紡ぎ返す。
「…遅かったじゃないか、お前に感謝するぞ。
ついに俺はギフトを手に入れた。今のお前など、敵では無い。」
最後の言葉は強がり、マイクはアメリナには敵わないことがわかっていた。
だがアメリナにはそれが刺さる事をマイクは知っていた。最初の、テント群でのアメリナとの戦闘で。
アメリナはマイクを睨みつけながら言い放つ。
「…ならば焼き刻んでやる、アメリナ・ドラゴン・サリー。貴様を焼く、竜血の騎士の名だッ!」
アメリナは右半身を引き、両手で握るクレイモアの剣先をマイクに突きつけるように構え、大きく踏み込んで喉を狙い突き出す。
マイクは、不適な笑みを浮かべた。
ギフトを瞬時に手にした時からそのギフトの本質を知っていた。
それは相手に先手を打たせる事。
敵わぬ相手にも蝶のように舞い蜂のように刺す。そしてその獰猛な獣を沈黙に陥れる。
その獣が、たとえ奇跡の炎を纏ったとしていても。
~~~
目の前に草原が広がっている。
空は曇りの一つもない快晴。
風に靡く草と髪、撫でられる肌。
右手に感じる、柔らかい感覚。
横を向く。
自分の手を握る、風に靡く銀髪の少女。
こちらを向いて微笑んでいる。
不思議だが見覚えのある顔だ。
ここはどこだろう。
わからない。
でも、すごく居心地がいい。
ここは断末魔も、叫び声も聞こえない。
あれ___
___断末魔?叫び声?
僕はなんの話をしているんだろう。
銀髪の少女は僕の手を引いて歩き始める。
少し盛り上がった所の上に立つと畑と家が見えた。
初めてなのに見覚えのある、畑と家。
___火の香りも、血の赤も無い。
おっとなんでこんな言葉を出しちゃうのだろう。
家のドアが開く。
中から緑の瞳の茶髪の女性が出てきた。
屈託のない微笑みをこちらに向けている。
まるで、母さ___
___母さん…?
なんで立っていられるんだ?
だって、あの時、あの日、クローゼットに僕を隠して、男の人に刺されて___
___ここはどこだ。
母さんがいる、家がある、畑がある。
僕の手を引いていた少女は、もしかしてメネなのか?
なんでここに…
ここは、僕の幻なのだろうか。
デイビッドは、後ろを振り返った。
焼け野原。広がる限りの草原につけられた火。
その中心で煙を上げる村。
「僕は、何を見ていたんだ。」
これは幻。現実はこの焼け野原に広がる奪われた故郷に似た戦場の景色。
戻らないと、メネを取り戻さないと。
少女の手を離し、一歩デイビッドは踏み出した。すると少女は言った。
「戻っちゃうの?奪わないと奪われるだけの現実。」
ストロベリーブロンドの髪色の女が言った。
「奪うのが、奪われるのが怖いんでしょう?ならここにいましょう。」
デイビッドはもう一度踏み出した。
2人は言った。
「もう奪ってることにも気づけないなんて可哀想。」
デイビッドはその言葉を聞いて気づいた。
自分は人から奪う事を恐れていた。
でも取り戻すにはそれしかないと思って、でもそんなのは嫌だから、認めなたくないから、奪ったことがないように頭の中を掻き回して__
つまらない茶番だった。
もう命を奪うだけの力があるなら、奪われないだけの力があるなら、取り戻すだけだ。
「奪われるくらいなら奪うさ。僕は奪うことができるらしいから。ヨーストもハイミルナンも、メネも、誰にも奪わせない。」
自身の都合の良い幻想は消えて、今度こそ現実の景色が目に映った。
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