第15話本部突撃、⑤

日が暮れ始めようとしていた。

デイビッドは敵本部陣内のテントとテントの間を全速力で駆けていた。

そのデイビッドを血眼になって追いかける薄緑の髪の王国兵、ジョシュアードはデイビッドに石突のあたりに紐を巻き結んだジャベリンを後頭部めがけ投げる。

「死ねぇ!」

デイビッドは後ろに振り向き、大きく右に跳び躱し、再び前に振り向きまた駆け出す。

「もっとこっちに来い!」

デイビッドは呟く。

彼はどうやらジョシュアードを孤立させ、1対1の状況を作りたいらしく、誘い出すためにいきなり走り出した。味方を殺されて怒り心頭のジョシュアードは案外その誘いに乗りデイビッドを追ってきた。

デイビッドは走りながら周りを見る。

ジョシュアード以外、王国兵の姿は見えない。

デイビッドは立ち止まる。

ジョシュアードの方へ振り向きロングソードを鞘から抜いた。

「はぁ、はぁ、はぁ、」

「やっと諦めたか!」

息が上がる。

対してジョシュアードは息をあげるどころか汗一つ書いていないようだった。

デイビッドはそれだけでも自分の倍以上訓練されているのが感じ取れた。

そして、間合い外からの攻撃をも可能にする

再投擲を可能にするジャベリン。

これほど厄介な飛び道具兼近接武器は厄介だ。

対してデイビッドの装備は、ミレス帝国製の鎧一式と、多少普通の物よりも刀身が長い程度のロングソード一本、勝るのはあてにならないほどの僅かな経験___

たが、その僅かな経験は勝利につながるだろう。あてにこそしないが、大きな鍵となる。


ジョシュアードは縄だけを持ち、ジャベリをだらんと右手側に垂らさせ、左手には縄を束ねて持っていた。

すると右手に握る縄を回し始めた。ジャベリン

は縦に円を描くようにそれに従って回る。

そして、デイビッドとジョシュアードの距離は約5m。踏み込んだとて、届く距離ではなかった。勝つには自分の間合いである3mに誘い出す必要があった。

「さぁ、教えてもらおうか!」

ジョシュアードはその勢いのままこちらにジャベリンを投げる。凄まじいスピードだが、避けれないわけではなかった。デイビッドは左に跳ねると、ジャベリンは空を突く。

「よし!」

デイビッドは歓喜の音をあげる。先程逃げる際に避けた経験が活きた、がジョシュアードはそのジャベリンを引き戻す事なく、それに繋がる縄をデイビッドの方へ振った。

それに連なり鞭のようにジャベリンの矛先がデイビッドの右腕肘関節に向かう。

デイビッドは手甲ですかさず防ぐが、火花と金属音に混じり入って、折れるような音と痛みを感じた。弾けたジャベリンをジョシュアードはすかさず自分の元に引き寄せた。

「ふぅっぐぅ!」

腫れるような痛みにデイビッドは思わず唸る。右手首が挫けた。デイビッドはロングソードを左手に持つと、横のテントの陰に隠れる。

ジョシュアードはまたジャベリンを回転させながらジリジリと歩き迫っていた。

デイビッドは考える。

(まともにやっちゃダメだ、どうする?

ここで退いても時間の問題だし、距離を詰めようにも投げられたり引き寄せられたり、寄せられたりしたら終わりだ…!

恐らく

そうだ、目眩し、目眩しで怯ませて仕留める!)

迂闊だった。デイビッドは実践こそ経験しているが、それが実践に活かされるにはまだ頭数が少なすぎたのだ。

デイビッドはロングソードを口に加え、左手に土を一掴みほど持ち___

___飛び出す。

投げられたりジャベリンは正確にデイビッドの

左足内太ももを貫いた。




~~~



「これでぇ!最後ぉ!」

そう言いハイミルナンは折れたパルチザンの穂先を押し倒した王国兵の喉に刺し、ゆっくりと捩る。

「あがごごごがこかかかっ!」

王国兵は喉を鋭利な刃物でゆっくりとかき混ぜられ、枯れるような、枝が折れるような悲鳴にた悲鳴を上げ息絶える。

ハイミルナンはそのまま横に転がる。

体は文字通りボロボロで、刺された左目は開かない。防具の無い所は傷だらけで、血が流れている。だが、どれも致命傷ではなかったのが不幸中の幸いであったろう。

「終わりか」

ヨーストはハイミルナンの隣に倒れた。

彼の体も同じくボロボロ。当然2人はもう戦える状態ではなかった。

幸い、王国兵が増援に来る気配は無かった。

が、一つだけ足音が近づく。テント群からだった。巨人がまるで走るような、重い足音。

その足音は地面を揺らすほど。

「やばい!」

「んな、クソが!」

2人は上体をおこして座ったまま身構えると同時に人影がテントから飛び出る。薄い銀髪、闘牛の角を前後反対にしたようなカチューシャ。

その正体は___

「「なんだぁ、団長か。」」

2人はそうほっとすると、また地面に倒れた。

団長はそんな2人の様子を見ると心配そうに口を開く。

「お前たち、大丈夫か?分離隊が敵小隊群を突破した、東の壁に行くといい。」

団長はそう言うと、誰かを追うように別のテント群へ走って行った。


________________________


オマケ:団長の身長/体重


団長…アメリナの身長は210cm、体重は150kg(ほぼ筋肉)だゾ!

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