11話本部突撃、①
「総員、馬車から降りろ!」
団長の声が、兵団全員の耳中はへひびく。
ドラゴ兵団は食料や包帯、少しの武器などを持ち、無事にベルム地区にテントを張るルーズリ中隊本部に合流した。団員の一部は馬車から積荷を下ろすなどしている。
アメリナはテントの中から出てきた鎧姿の青い髪をしている強面のアメリナよりも一回り小さい大柄の中隊長らしき人物と握手をした。
「やぁ、今回はありがとう、私はルーズド・リリウス。ルーズリと呼んでもらって構わない。」
その話し方は、強面に似合わぬフランクさでアメリナはなんだか腑抜けした。
「あ、ええ、わかりました。ルーズリ中隊長殿、今の状況は?」
アメリナは本題を切り出す。
ルーズリは振り返るとテントの幕を捲る。
中へ入ろうとした時背後に立っているアメリナを手で中へ誘う。
アメリナはそれに従い、テントの中へ入って行った。中には待機中の小隊長らしき人物たちがそれぞれ3人立っていて、こちらを見つめていた。
さらに、四角の卓がありその上には地図が。
アメリナはそれの隣に立つと口を開いた。
「ドラゴ兵団団長、アメリナ・ドラゴン・サリーです、以後お見知り置きを。」
「ええ、よろしく、お願い、します。」
3人の中のマスクをしたうちの1人は酷い発音で、カタコトに喋る。
アメリナは疑問に思ったのか首を傾げる、そこへルーズリがやってきた。
「そいつはこの前矢で口をやられたもんで、聞き取りずらいかもしれないが許してやってくれ。」
アメリナは「いえ、全然」と返す。
ルーズリはアメリナの横に立ち、地図に指を差しながら話す。
「前線だと斥候の小隊と長槍隊、弓隊が敵の主力戦力とやり合ってる。拮抗こそしているが、数じゃ負けてるから崩壊も時間の問題だろう。まぁ、あと数日は持つかもしれないが。」
「つまりは、私たちは前線の援護を…?」
アメリナの問いにルーズリは不適な笑みを浮かべて答える。
「…いや、ちょうどそう言う戦力が欲しくてな…右側面から単身で切り込んで敵本部を殲滅をしてもら___」
〜〜〜
ベルム地区最前線、ドラゴ兵団は敵右側面へ向けて隊列を組んで進軍していた。
「___殲滅する。」
団長は言った。前方には敵の小隊規模の王国兵がいくつか迫る。
デイビッド達団員は固唾を飲みながら武器を取る。団長はそれを見ると大きく息を吸い、声を張り上げた。
「突撃ィィィィィィ!」
理性を必要としない体のぶつかり合い、それは時代を超え、形を変えて行った。目の前にあるもの全てを奪い去って、焼き尽くして。
ヨーストにファルシオンを持つ敵が走り迫ってヨーストに横一文字の薙ぎを、それを斧頭で逆さに受ける。そのまま斧を上へ振り上げるとファルシオンは弾かれたように上へ飛んだ。
「オラァ!」
そのまま斧刃を王国兵に持ち、兜割を見舞う。
斧は兜を薪のようにカチ割り眉間まで到達した。ヨーストはそれを手前に引き抜いて、横のデイビッドと鍔迫り合うブロートソードを持った王国兵の鎧の隙間である腰のベルトに向かって振り下ろした。
「うぐっ…ふっ…」
捻り出すように喘ぐと、地へ沈む。
「ヨーストありがとう!」
「おうよッ!」
デイビッドはヨーストに感謝すると別の敵の元へ行った。
続いて来たのは、全身を重厚な鎧に包み腰にはブロートソードを差すパルチザンを持った王国兵…恐らく小隊長なのだろう。
「雑兵、来い!」
そうヨーストを罵倒するが、ヨーストは耳を傾ける事なく迫った。
王国兵はその動きに合わせてパルチザンをヨーストの喉へ突き出す。ヨーストは体を左へ逸らすが、首元の帷子にその刃が擦れる。
そして王国兵にできた僅かな隙を狙い、パルチザンの柄先を開けた右手で掴むと、左手で斧を振り上げ王国兵の鎧の隙間である右手首の根元を狙う。が、王国兵は右手をパルチザンから離し、振り上げそれを阻止。
ヨーストと王国兵は一歩ずつ下がり、武器を構えて睨み合った。
「雑兵が、図に乗りおって…」
野太い声でそう言った王国兵はパルチザンの穂先で足首を狙い右から薙いだが、ヨーストは左半身を出して柄先を踏みつける。パルチザンをの刃はヨーストの足首手前で止まっていた。
ヨーストはすかさず両手で戦斧を持ち、パルチザンに振り下げる。
パルチザンの切り落とされた穂先は衝撃で中を待った。
「なっ!」
王国兵は驚くと同時にブロートソードを抜きヨーストに突き出す。
「うぉっ」
ヨーストは大きく下がりそれを回避。
2人はそれぞれ構えると静かに睨み合った。
ヨーストの右足の横にはパルチザンの穂先が落ちている。血で汚れているが、使えないわけではない。
王国兵は兜割をヨーストに見舞う。ヨーストは
パルチザンを拾おうと伏せた。
「あがっ!」
「殺ったぁ!」
躱しきれず、ブロートソードはヨーストの肩甲骨のあたりを斬りつけるが、鎧にそれを阻まれた。だが衝撃はダイレクトに伝わっていた、苦痛の表情と共にヨーストは顔を歪める。
「なっ!」
ヨーストはパルチザンの穂先を左手で拾い上げ、王国兵の喉へ突き立てる。口から泡を出しながら小隊長は力無くヨーストの喉に掴みかかる。ヨーストは右手の斧をパルチザンの刺さった首を、力いっぱいに薙いだ。
首とわかたれた胴体は鮮血を溢れ出しながら地に沈む。
「木こりを舐めるんじゃねぇ!」
落ちた首にそう吐き捨て、雄叫びをあげた。
王国兵立ちは小隊長がやられたのを見て、慄き、徐々に敗走して行った。
一瞬の喜び。だが、次の王国小隊が配送した兵達と合流し、こちらに迫っていた。
〜〜〜
どうやら団員の1人が小隊長を討ち取ったらしい、アメリナは次の敵を見つめる。
きっとまだまだ進行を阻んで来る王国兵達も多い。前線の兵士の一部はこちらに勘付いているようだった。
(キリが無い…どうする、どのみち足止めは必ず喰らう___足止め?)
アメリナは何かを閃いたように叫んだ。
「本体はこの場で待機!、他は前線で敵兵を惹きつけろ!」
アメリナはそう言い体を前進させた。
その場に残ったベイビットやハイミルナン達を含めた15人に言った。
「我々本体は迂回し、側面から本部を殲滅する。」
〜〜〜
「___本部を殲滅する。」
「なっ」
ハイミルナンは驚いた。団長がいくら強くても、他のメンバーが強くても、たかが15人でそこまでできるとは思えない、無謀すぎる。
周りを見ると皆んな驚きもせずに、慄きもせずに、ただ武器を握っていた。
どうらやら分離した隊達は敵小隊達と交戦を始めたようだった、悲鳴や雄叫びが聞こえる。
「では迂回するぞ!」
団長達は走り出した。
やるしか無い、逃げても逃走した兵士は皆んな処刑されるだろう。この場は乗り切れても危険は付き纏う、それは嫌だった。
「死んでたまるか!」
団長達に続いてハイミルナンは走り出した。
本部まではここからは約700メートル。
大きく迂回して回っているため、その分も含めると900mほどはあるだろう。
大丈夫、まだ気づかれた様子は無い。まだ、死なない、自分だけでも生き残る。
残り300メートル地点、前方に数人の兵士がいた、鎧を脱ぎ捨て側面とも前線とも関係の無い方向だ。
「まさか、敗走兵!」
敗走した一部の兵士は、他の小隊と合流する事なく、戦意を喪失したからである?
「轢き殺すぞ、掛かれ!」
団長はそう言い敗走兵の1人に迫る。
「く、来るな!」
敗走兵はダガーを抜くが、団長のクレイモアによって胴体を上下二つに両断されるに終わる。
ハイミルナンはその横のトマホーク…投げ斧を持つ敗走兵へ近づく。敗走兵はハイミルナンに投げるがハイミルナンはそれを穂先で払うと、右手だけでパルチザンの石突の近くを持ち、敗走兵の喉へ遠間から突き立てる。
そのまま両手で持つと右へ薙ぎ投げる。
他の敗走兵達も本隊メンバーによって潰されていたが、離れている所に1人敗走兵がいたようでドラゴ兵団本隊のその様を見ると、本部へ泣き叫びながら逃げた。
「気づかれましたよ!」
誰かが言った。
切り離した隊とは別の小隊がこちらに気付き、走ってくるが本部に近いのはどうやら団長達のようだった。
「このまま突っ切るぞ、走れ!」
そう言い団長は走る速度を早めて行った。
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