第9話奪うのは___、①
ごめんなさいちょっと改稿しました。
「…、…」
デイビッドは目を開ける。
木の骨組みが見える、石造りの天井。
一度、見た事がある気がする石造りの壁と、木の床。上体を起こすと、あたり一面に列のように敷かれている白い布の上には、切り傷や四肢の一部が欠損した帝国兵が横たわっていて、白衣を着た医者らしい人物たちが、包帯を巻くなど治療に当たっていた。
すると、後ろから声がかかる。
「目覚めたか、デイビッド。」
デイビッドは座ったまま振り返る。
立っていたのは団長だった。団長はこちらに近づき、デイビッドの前で屈む。
「大丈夫か?どこかおかしなところは無いか?」
デイビッドは何か、気持ちの悪い恐怖を団長から感じとった。
「今のところないのですけど、その…記憶がメネとの会話の最後に何が頭に覆い被さって、それとは別の何かが頭を強く叩いたところまで覚えているんです。」
「…」
デイビッドの言葉に団長は何か言うわけでもなく、ただ黙り込んでいた。
ほんの数秒の沈黙ののち、団長は話す。
「…投げ槍が飛んできて、お前の頭に当たった。幸いにも兜で無事だったがな。」
目を合わせずに言う団長、なんだか様子がおかしい。団長は話す時必ずと言っていいほど相手と目を合わせる癖がある。
デイビッドと団長はあまり話したことがないけれど、先程の戦闘などで助けてもらった際などに団長の鋭い目つきと度々合わさっていたからか、なぜか確信を持っていた。
「…あの、なんで目を_____________」
そう団長に問おうとした時、左から聞き慣れたようにも感じる大きな声が二つデイビッドの言葉を遮った。
「デイビッドー!よかった、生きてたか!」
「ちょっと、医者さんが手当に集中できないじゃない!ボリュームさげなさいよ!」
ハイミルナンも大概ではある。
デイビッドは振り向く。
2人がデイビッドの元へ駆け寄ってきていた。
「…お仲間が来ているみたいだしな、私は失礼するぞ……」
「あ、ちょっと!」
デイビッドがようとしているうちに団長はどこかへ行ってしまった。
「デイビッド、投げ槍が頭に当たったって聞いたけど、大丈夫なのか?」
ハイミルナンはヨーストのその言葉を聞くと同じようにこちらを見る。
団長はそう言っていたし、周囲の認識もそうなのだろう。だとしたら、最後に見たあの"大きな何か"は、なんなのだろうか。
「…よく、わからない。」
そうデイビッドは俯きながら2人に答える。
ヨーストはそうか、とだけ答えた。
「…生きてるからいいじゃない、終わった事だし。」
ハイミルナンは言った。
そんなアバウトに終わらせて良いのか?
でも確かに生きていればなんとかなるけども…
デイビッドは思った。
3人はの元へ白衣を着た茶髪の男…レイジェナードの時にデイビッドが世話になった男が歩いてきて、屈むと口を開く。
「ちょっとどいてもらっても、いいかい?」
「「あ、すみません」」
ヨーストとハイミルナンは息を合わせて言うと、白衣の男の背後へ回った。
「あ、また会いましたね!あの時はお世話になりました!」
「あれ、お互い初見じゃない?」
「え」とデイビッドは言う。
だがよく考えれば仕方ないのかもしれない。
数百、数千と居る負傷者がいるというのに、いちいち人の顔などを覚えるのは無理なのは残念でもないし、当然だった。
「あはは、そうみたいです、勘違い…です。」
デイビッドは苦笑いをすると、そう言った。
男はデイビッドの体に触れると、目を瞑る。
三拍子の沈黙ののちに目を開くと、
「体に異常は無いみたいだね、もう行っていいよ。」
「わかりました、ありがとうございました。」
デイビッドは立ち上がると、ヨースト達に「行こう」と言うと2人は立ち上がった。
「おう、とりあえず宿行こうぜ。」
ヨースト達は医務室を出た。
〜〜〜
曇の無い綺麗な夜空が広がる。
アメリナはテントの幕を捲り、蝋燭一本のみが着いた薄暗い中へ足を進めた。
あの3人が暗い顔をしながら、国境地図の広がった長方形の角卓へ着席していた大隊長、ロビン、ジャック。そしてアメリナは開いている椅子へ腰をかけ口を開く。
「陽動の、口止めをしておきました。さあ、始めましょうか。」
口止めというのは、デイビッドに言ったあの嘘のことだ。アメリナの開始の言葉を聞くと、大隊長が言う。
「払暁が出てくるだなんてねぇ…最後に出たのは400kmも離れてる西のヘイレズン街だってのにさ。」
「ありえないです、馬車でも四週間はかかるのに。」
「払暁に常識は当てならんな考えた方げいまであっともんね。」
2人は大隊長に続いて、言葉を口にする。
大隊長は椅子にもたれると上を向き、眉間をつまむみながら、ため息を吐いた。
「それに、トルミアの執行騎士まで来たとは、
この領土を巡った欲の炎はどこまで燃え上がるのですかね。」
ロビンは言った。
本来はこの戦争にはいないはずのトルミアが姿を現した。なぜ参戦したのかは未だわからないが、自衛以上の力を持つ執行騎士はこれまでに無いほどの障害と当たり前に言える。
「執行騎士ん"一矢んアン"、"黒か悪魔"、"払暁"、胃が蜂ん巣になりそうじゃなあ…」
「そこに残りの執行騎士6人も追加しといてくれ。」
「冗談じゃなか…」
顔を歪めながら、ジャックは大隊長に言葉を返した。それらの話を他所目にアメリナは地図を見つめている。
(レイジェナードと、テリウス。
執行騎士、トルミア、デイビッド。
少なくとも、これらの要素は以後絶対に脅威になる…特にデイビッド。使い次第では黒い悪魔を単身で、殺せる___)
「ああ、あとアメリナ。」
大隊長は姿勢を前に戻して、アメリナに話しかける。
「アメリナ、お前は南東のベルム地区のルーズリ中隊の援護に行け。」
「は?…なぜ…」
唐突な移動指示に、アメリナは驚く。
「やってみてわかったけどさぁ、デイビッドは黒い悪魔の囮に"今は"不十分、なんだよね。
ま、捨て駒程度なら十分なんじゃ無いの?」
〜〜〜
デイビッドは宿の一室のベッドに大の字に寝転んでいた。
("奪われたら奪い返す"、か。)
こと戦場・戦争においては、正論である。
デイビッドにはわからない、割り切れない、できない。現に彼女は人を殺せるようになってしまった、平気で奪えるようになってしまった、彼女は、メネでは無いのかもしれない。でももし、彼女の言うその言葉を真に体現できたのなら。きっともう、デイビッドはデイビッドではなくなるのかもしれない、こんな事考えるのはやめよう。
デイビッドはベッドから起き上がると、窓から外の景色を覗く。
閑静な住宅街、曇り一つ無い夜空。
(…メネを取り戻せたら、一緒に土いじりでもしようかな。)
「今日はもう寝よう。」
奪うとは、なんなのだろうか。
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