第6話:テリウス砦攻略戦、②/黒い剣士

「あ、アメリナどん予定より突撃が早か!

しかもないごてか投石器に居場所がバレちょっし…やっぱいギフトけ?」

ジャックは驚く。

10分後に行くとジャックも聞いていたものだから、まだのんびりしていられるとつい思っていた。ジャックは自身の怠け癖を呪う、それはともかく、ジャックは予定よりも6分早いドラゴの突撃にどう対応するかを頭からをフル回転させで考えていた。

(どうすっ、待機すっか?それとも横に散開して投石器ん被害を収めつつ続っか?いやそれじゃと当たった時に戦力差がでて負くっ…)


「総員構えぇ!」

先に行動したのはロビンだった。

ロビンは左手に持ったグレイヴを掲げ、手綱をはたく。

「あ、ちょっと待ちもん…」

ジャックは止めようとしたが、すっかり戦闘態勢に入った他98騎を見てそれを諦めた。

「右舷49騎は俺と共に右側面へ!、左舷49騎はジャック副騎兵長と共に左側面に!」

そう言い砦の右側面へ走り出したロビンとその愉快な仲間達、後ろに立つその同胞達は今にも駆け出そうとしていた。

「…僕らも行っど!、乗りかかった船とはゆどん、乗せらるっと気が乗らんなあ!

突撃イィィィ!」

砦の左側面に駆け出した。


〜〜〜


草原を横断するように人の進む影が出来ている。

「はぁ、死にたく、無い!死に、たく無い!

はぁ、はぁ___」

ハイミルナンは息を切らしながら叫ぶ。

かなりのペースで飛んでくる岩に怯えながらも、その叫ぶ願いを叶えるには走るしか無いのだ。

足がもつれる、上がらなくなる、肺に焼ける感覚がこびりつく、息が吸えない、身に纏う鎧、手に持つパルチザンがそれらを加速させた。

それでも何が何でも生きたい。



_____こんなに生きたいと思ったのはいつぶりだろうか。

そこらの農家の家に生まれて、ただ土いじりに勤しんでいた、9歳のある日。

戦争の火の手が迫り父を失い、母は食い扶持を作るために娼婦になった。

娼婦は戦争で身寄りを無くした女の最終手段とも言われる。ここまでは、よくある話だ。

ハイミルナンが17になる頃、母が体を壊し娼婦を続けられなくなると、生活が続けられなり一度空腹で死にかけたことがあった。

母もハイミルナンも無事だったが、強く、強く「死にたく無い」とハイミルナンは願ってしまった。

そして、ハイミルナンは志願兵になる。

徴兵とは違い、志願兵には多額の援助金が贈られる。

右も左もわからない田舎少女にはこれ以外は思いつかなかった。

死ぬかもしれない、殺されるかもしれない。

それでも母のために、自分のために


絶対に死にたくなんて、なかったのだ。


_____砦は目前に、未だ駆け続ける。

ライカードの斥候達が砦から出て、

こちらに槍を突き刺そうとする王国兵の穂先を

パルチザンで左下から斬りあげる、切り上げた落ちた穂先を左手で拾い相手の左腕の二の腕に捩じ込む。相手は顔を歪めた、右手のパルチザンをその歪んだ顔の頬にさらに突っ込む。

「私は、絶対にィ!生きてやるゥ!」

そのまま左に投げ、投げた勢いでパルチザンを引き抜く。

続いて来たのは戦斧と盾を持った敵兵。

「エ"ア"ア"ア"ア“ァ"!」

17の少女とは思えないような叫びに慄きながらも、敵は斧を袈裟斬りのように振り下げる。

左肩に迫る戦斧を左小手で横に弾き、両手に再び持ったパルチザンで足首を刺して右後ろに引き上げた。

砦はあと少し、あと少しで着く。

そうすれば休める、まだ生きれる。


その時、眩い白の光が真横の味方達を包んだ。


〜〜〜


「何ですか、今の!」

「知らん!今は突撃することに集中しろ!」

敵の攻撃が当たったのか兜を抑えながら並走するデイビッドの問いにそう返すアメリナだが

本人は白い光の事で頭がいっぱいだった。

突撃して来た槍兵の槍を右半身を逸らして避け

戻す勢いで兜ごと殴る。

「ぬごッ」

怯んだ相手に反対の手のクレモアで左鎖骨を叩く。重厚なその刃は鎧をそのまま押しつぶし、右腰骨までざっくりと割った、即死だ。

無惨に別れた体は血を撒き散らしながら

地に沈み、友軍達の足に潰されて行く。

砦まであと700メートルほど、門や城壁が見える、その上に立つ1人の銀髪の弓取_____銀色の鎧、各部位のふちには銀のメッキが照り輝く太陽によってまばゆく光る。ライカードでもミレスでもないその鎧は異国の騎士であろうか。

(あの光はあの弓取のギフトで間違いないはず…!異国の戦士か?こちらを狙ってこないのは友軍を巻き込んでしまうからか?…あれほどの実力者であれば他の弓取はいらな_____)

考えていると、また弓取りはまた弓を構えた。こちらに向けてはいない、だが遥か右____

「騎兵隊か!」

勘付いた時には遅く、光の筋が一瞬出来たと思えば、いきなり紐解けた。数々の断末魔が聞こえたアメリナはクソと悪態をつく。今度はハルバードを持った敵兵が斧刃を右下から首筋を狙いながら振り上げてくる、アメリナはクレイモアの刀身を掴み柄と鍔で受けると、左に流し鍔の丸まった先で右側頭部を殴る、鍔は鎧に粘土のように突き刺ささり、そのまま振り抜くと

中身が外に溢れ出しながら右へ飛ぶように倒れた。

あと300m、目前だった。

斥候達が引いて行く、門は閉まろうと大きな音を立ててゆっくりと動き始めていた。

アメリナは銀の弓取を見た、くっきりと見えた

鼻に出来た横一文字の傷跡、獣の彫り物の出来た鎧と風に靡く青の縦のラインが入ったマント

そして目が合う、蒼の瞳。

「トルミアの、執行騎士か!」


〜〜〜



「何だあの弓取!何なんだあの弓取!」

ロビンは驚く。

光線、悲鳴、危機感…二手に別れるよう指示を出した。

だが、その指示は半分正解で、右舷騎兵隊の勢力の半分強を喪失するだけで済んだ。

そして半分の不正解は、散り散りに分けなかった事だった。

そして光に包まれた騎兵隊は、消滅した。

地面には抉られた跡が見られる。

ロビンは頭を回す。

(恐ろしい破壊力のギフト…連発はしてこないのか…いや、出来ないのか?)

砦まではあと250mほどでもうすぐ、着く。

「一射ごとのクールタイムは大体5分、さっきのからもう2分経ってる…」

(どうする?散会しても被害は確実に出る…)

すると横に並走した騎手がロビンに話しかける。

「ロビン騎兵長!ドラゴ兵団が門に接近できたようです!」

「本当か!」

歓喜したロビン。

ロビンはテリウス砦の門を見ると、無数の歩兵がわらわらといた。

すると門の前から炎が上がった。

アメリナが破門を成功させたようだ。

「よし!各員門全速で門に進め、この地獄から抜け出すぞ!」

「「「はっ!」」」

大きく迂回したルートを正面に変える一行。

門の10m手前まで接近した。



〜〜〜



目の前の門が焼け、大きく穴が空いた。

煙が上がる

デイビッドは煙の中へ身を投げた。

煙から出ると目の前には、待ち構えていたロングソードと短剣の二刀流の敵兵がこちらにロングソードを顔に突き出した。

「クソっ!死ねぇぇぇ!」

デイビッドは小悪党のような台詞を吐くと、頭を下げながら相手の脇に自身のロングソードを

叩き込む。

デイビッドは装備していた兜に当たるも、右に滑るだけに終わり、体勢を崩した。

デイビッドのロングソードも身を逸らされ、相手の胴鎧に弾かれた。

「デイビッド!先行しすぎだ!」

アメリナ団長がデイビッドの脇から出て来た。

出て来た団長は際ほどの二刀流の兵士にクレイモアの兜割をお見舞いする。

体勢を崩した兵士は短剣で受けようとするも、そのまま臍の辺りまでクレイモアに両断された。

「ありがとうございます!」

「礼を言ってる場合か、敵は多いぞ!」

デイビッドは両断された兵士を横目に左のメイスを持ったバケツ兜の兵士の喉を狙いロングソードを振るうが、メイスの柄に上に受け流された。

「どりゃぁっ」

敵兵はメイスをデイビッドの右腕を狙って振るう。デイビッドは伏せ、メイスをかわすと防具の守りがない左うち太ももに刺す。

だが体勢を崩すことなく相手はメイスをデイビッドの脳天に落とそうとする。

「まずっ!」

横から影が飛び出す。

ひし形の穂先はバケツ兜の首を刎ねた。

それと同時に女の叫び声が聞こえた。

「死"ね"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"!」

ハイミルナンなのだが、様子がおかしい。

血走った目で、次々と敵兵を刺し屠る。

返り血で赤黒いその毛はより真紅に近づいてた。

「あんな狂戦士がいたとは!本隊に入れておかねば…!」

「関心してる場合ですか!それにもう本隊入れてますよ!」

関心しながらも跪かせた敵の頭を左に吹き飛ばすアメリナ団長。

思わず聞きれてもないのに突っ込んでしまったデイビッド。

「デイビッド!私は城壁の上の始末に行く、お前は引き継ぎ下を頼む!」

左の城壁上へつながる塔へ団長は押しかけて行った。


_____途端、殺気を感じた。

正面を向く、血が舞う、首が二つ飛ぶ。

突入した仲間の物だった。

飛ばした本人を向くと笹笠を被った、黒い東洋服と"袴"を身に纏い、腰に鞘を差している。

中腹から曲がった片刃の四角形の鍔がついた、細長い剣を持つ男が立っていた、鎧の類いは一切付けていない。

「造作もナイ。」

黒い剣士は呟く。

一度聞いた事がある、東洋には優れた剣士がいる、自らをサムライと呼ぶ傭兵が。

続いて、槍を持った兵士が飛びかかる。

綺麗な突き、相当な手だれの兵士なのだろう。

だな槍は空を突く。

だが黒い剣士は身を左に回し、振り向くように槍を躱す。

振り向く勢いのまま首を切り飛ばす。

飛ばした隙を逃さまいと他の王国兵がツーハンドソードを袈裟斬りのように後ろから叩き掛かるが黒い剣士は今度は反対に右に躱す。

黒い剣士は剣先を喉元に向け、胸元の前で柄頭を右手で押すように構え、突き出す。

「甘イ…」

その動作は速く、空振った王国兵は回避もガードもまに合わず、片刃の剣は兵士の喉を貫く。

悲鳴を上げることなく、兵士は口から血のあぶくを出す。

「いい剣士でしたヨ。」

そう讃え、剣を右に抜くと兵士は跪くように左に倒れた。

剣士は肘の裏にかかった東洋服で血と油を何食わぬ顔で拭う。


一瞬の光景にデイビッドは戦慄する、噂程度にしか聞いた事のない剣士、それが実在し今まさに目の前で赤子をの手を捻るように仲間達が

屠られて行った。

黒い剣士がデイビッドを見る、笹笠の間から見える黒の瞳と目が合う。

「殺される…」その言葉が体を内から恐怖で染め、急ぎデイビッドは剣を黒い剣士に構える。

今、殺らねば、殺られるだけだ。

すると左後ろから足音が聞こえた。

「おーい、そりゃあ俺の獲物さんだぜぇ。」

振り向くと、うっすら青髭を生やす老け顔の男が歩いて来た。

「あ、貴方は…」

「ん?あぁ、ミレス軍直轄中央大隊大隊長だ。"大隊長"とでも呼んでくれや。」

「正規兵の大隊長…」

デイビッドは驚く。

大隊長クラスであれば後方の安全圏から指示出しが普通だというのに、この男は少し異質だ。

大隊長は手に分厚いロングソードほど長くはなく、鍔元から剣先にかけて扇形の刀身。

ブロートソードだ。

大隊長は手甲でブロートソードの刃を研ぐような仕草をしながら黒の剣士に近づく。

「聞いた事がある、遥か東の"日の本"と呼ばれる国から来た"サムライ"と名乗る戦士が居る。

その戦士は無敗を誇り、"ついた側の軍はどんなに差があっても圧勝してしまう程の強さを誇った"」

そこまで言うと、大隊長は不適な笑みをうかべる。

「言葉通りの一騎当千、都市伝説に等しい戦士が実在し、ソレを戦果として討ち取ったら_____」

大隊長は黒い剣士に手を伸ばし、握る仕草を見せた。

「フヘヘッ、どれくらい俺ぁ上に登り詰めれるのかねェッ!」

…その瞳は、獣を宿す

「上ん奴はさァ!アメリナが行っちまったからヨォ、諦めようとしてたんだがぁ、こんなのが居るなんてなァ。」

大隊長と黒い剣士は同時に構えた。

「この際、お前でいいよねぇ…!」

大隊長は低い声で呟く。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る