告白
連喜
第1話
*虐待などの残酷な描写があるためご注意ください。
民主主義社会では一応万人が平等という建前がある。それがいったん組織などに所属すると、陽キャのような上層の人間と陰キャのような下層の人間に分かれてしまう。時たま、それが社会的な地位だったり経済力だったりする。あるいは、その組織にどのくらい長く所属しているかという年功序列に近いシステムが暗黙の了解で存在する。少年院や児童養護施設などはその最たるものだ。
あるグループがあるとして、そこで生じる階層が支配者の単なる偏愛、または依怙贔屓であることも珍しくない。人は生まれながらにして平等で、AとBに優劣などないはずだ。
Aが小学生の子どもでBが中年の重罪犯だったとして、AとBの命の重さは等しいはずである。しかし、二人が海で溺れていたとして、一人しか助けられなかったらほとんどの人がAを選ぶだろう。Aの子どもの将来には可能性があるのに対し、Bはもう十分生きているから後輩に道を譲るべきと言えるかもしれない。
しかし、もし仮にAが家族皆殺し事件の犯人で公正の余地がない場合はどうだろう。重罪犯に区分されるBがやむを得ない事情で事件を起こして服役している場合は。しかも、塀の外では家族が待っている。
***
私はある家庭で育った。その家族がどんな風だったかというと、母親の支配のもとに組み上げられた歪な空間だった。底意地の悪い母親とそれに同調する父親。母親の忠実なコピーである子どもたちで構成されていた。母親はスーパーでパートの仕事をしていた。両親は二人とも高卒で平均的な世帯よりも年収は下の方だったに違いないと思う。父親は何度か転職を繰り返していた。住んでいたのは母親がその両親から受け継いだ古い一戸建てで、築年数は四十年くらいは経っていたようだった。子どもの頃から住んでいると聞いていた。その家自体も忌まわしいほど呪われていて、夢も希望もないただの汚れた箱だった。
母親は自分は勉強ができたというが親が大学に行かせてくれず、工業高校出身だった。夫はそこで知り合った人だ。社会の不条理さや不公平についていつも口をこぼしていた。確かに大卒の仕事と高卒の仕事のどちらが大変かと言えば、どんな仕事でも似たようなものだろうと思う。
しかし、学歴社会なのだから、それに見合った学歴や職歴がない場合はどうしようもない。嫌なら起業するか資格でも取るしかない。日本社会では、高卒でも弁護士にだってなれる。欧米と比べたら日本はまだチャンスのある国なのだ。
だが、両親は不満のベクトルをどちらにも向けることはなかった。そういうメンタリティーのある人なら、そもそもそういう人生を歩んでいないだろう。結果として外の社会でのうっぷんを家庭内で発散していた。
そう。私を家族の中で一番下層のランクに置くことで、何とか精神的な安定を保とうとしていたのである。
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