嵐の後

 魔族の世界へと戦争に行ってから、早くも一か月が経った。


「時間が経つのは早いものね」

「そうでございますね」


 あの戦争で負った怪我もようやく完治し、つい先日退院できたばかりだ。


「まったく、病室で過ごす日々は退屈だったわ」

「そうでございますね」


 私が今すぐにでも知りたいこと、やりたいことができなかったのだ。

 

「...そうね、あなたが私のところに来れば、話を聞いたりとかできたでしょうにね」

「そうでございますね」

「...」


 この侍女。私が入院している間に、たったの一回も私のところに来ることがなかった。

 私の侍女で、幼馴染で、家族みたいな友人なのに!


「...申し訳ございませんでした」

「どうしたの?私はなんにも怒ってないわよ?」


 適当に謝ればいいと思ってるな。

 私に喧嘩を売ったのが悪いんだ。どうなるかよく考えてみるべきだったな。


「案内したい場所があります」

「あら、一体どこへ?」

「透禍様が知りたいことが分かる場所です」

「行きましょう」

「...」

「行きましょう」


 そういうことだったら、あなたの犯した罪は許しましょう。



 ♢



 さて、そろそろ来る頃かな。

 ここへ人を招くことは滅多にない。

 そんな場所に今までで一番緊張する人物を呼ぶんだ。

 一度は決めたこと。俺の全てを、隠していたことを全て教えると言ったのは俺だ。

 

「...」


 自身の手が震えていることが分かる。

 俺は結局、自身のことを信じることが出来なければ、俺のことを信じてくれている仲間のことさえ信じることができないままでいる。

 だけど、それは俺の勘違いだったんだ。

 俺は俺のことも、仲間のことも信じている。だから、ここまで黙っていても大丈夫だと思い、ここまで来たんだ。

 ここから始まる本当の物語を開くために。


 コンコン


 部屋につけられているドアがノックされる。


「...どうぞ」


 俺はノックをした者へ、入室の許可を出す。


 ぎぃ...


 錆びれた蝶番が鳴り響く。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る