噂話と作戦

 幸糸が教室から出て行った後、僕たち四人はあることについて話し合っていた。


「はぁ、またどっか行っちゃった」

「なぜだか、学校だと避けられまくるよね」

「まぁ、そりゃあ周りを見てみたらね」


 悠莉と紅璃が話していた通り、周りを見てみると教室にいるだいたいの生徒が同じ内容を話していた。


「”最弱”も大変だよな。まさか一緒になった班が開花や緋瑠とかの上の位に分類される術士とだなんて」

「”最強”と”最弱”の術士だもんな。先生や軍の人にちゃんと評価してもらえるのかな」

「まぁ、元気そうだし大丈夫だろ。”最弱”なら今後戦うこともないと思うし」


 など、全員が幸糸について語っていた。

 別にその言葉に悪意は感じられず、逆に心配しているように感じた。

 しかし、聞いていていい思いはしなかった。


「はぁ、なんだろう。別にいじめたり、陰口を言ってるわけでもないんだけど...」

「なんかいい気がしないね」


 やはり、皆もそうらしい。

 なぜだろうか、初めて彼と出会った時。彼と同じ班になった時には今の周りと同じようなことを思っていたのだが。

 彼と試験で戦う前。戦っている最中。そして、彼に敗れる寸前まで。

 その後からはそんなことを思わなかったし、今ではそう思うと、返って失礼だと思う。

 確かに、彼と戦ったことで、彼の強さを知ったから、そう思うのかもしれない。


「まぁ、だからと言って幸糸の強さを喋るわけにもいかないしな」

「そうなんだよね~」


 まぁ、これについてはしょうがない。

 彼の家の事情だ。無暗に干渉するのも失礼だろう。

 だからと言って、この状態はどうにかしなければならない。


「明日もまた幸糸をお昼に誘おうか」

「そうしよっか」


 ちょっとずつ変えてくしかない。

 今、僕たちができることはこれくらいだろう。

 


 ♢

 


 教室から抜け出すと、俺は鏡だらけの部屋にいた。

 ここは学校が鏡月用に特別に明け渡した空き教室。

 今は鏡月もおらず、誰もいない。

 今はこういった空間が欲しかった。

 教室の壁中に鏡、空間の殆どを埋め尽くすように置き鏡がある。

 そのため、光をあまり入れると反射しまくってしまうため、カーテンは閉められ、電気も基本つかない部屋となっている。


「考え事をするには打って付けだな」


 教室の真ん中あたりにある椅子に腰かけ、目を閉じる。

 先日の実戦訓練での出来事。魔人がついに姿を現した。

 しかも、確認しただけでも二人はいた。やはり、目的は魔術士の回収か。

 こちらも気づくのが遅れた。魔術士が軍の中に潜入しているとは予想もしていなかった。

 だが、まぁ、それくらいはまだなんとかなる範囲。

 逆に、軍の中だけを調べればいいと考えれば、気が少しは楽になるだろう。

 それに、このまま授業を通して、あの四人の潜在能力を引き出すことができれば、勝算はある。

 ここまで彼女ら四人を推す理由。それが、彼女らが持ち腐れしている力。

 彼女らはそれぞれがそこら辺の術士、軍人に比較にならないほどの力を保持している。

 俺はそれを知り、軍の力を借りて、こういった状況を作りだした。

 だが、当の本人たちがその力の使い方、もしくは、その存在を理解していない。

 ここから先、魔族との戦いは苛烈さを増していく。

 そのなかで生き残るためにはそれらを引き出す必要がある。


「だけど、時間が全然足りねぇんだよな~」


 あまり無茶をさせて、力を使用させると、膨大な霊力に耐えられず、魂が傷ついてしまいかねない。

 魂は霊力と深く関係しており、この世で生まれた魂でなければ、霊力を扱うことができない。

 逆に、霊力を扱うことはできるが、その負荷は魂に深く圧し掛かる。

 そのため、魂を成長させる。術士としての意志や力を強く鍛えなければならない。

 だが、その時間があるのか分からない状態だった。

 そんな中で、今後、最低でも二回の大戦が開かれる。

 一つは情報を盗んだ魔術士の奪還。二つは本腰を入れた、大戦争。

 一つ目はまだ被害は少なくできるが、二つ目にもし入った時、こちらの情報が渡れば、こっちの負けは確定してしまうだろう。

 これだけでも頭を悩ましてくるのに、厄介なのが、”あの男”もいること。

 先日の戦闘で出くわしたローブの魔人。前回は退いてくれたが、もし、次会うとしたら、確実に戦うことになる。


「はぁ~。...はぁ~」


 溜息しか出ん。

 だが、頭の中では冷静にこの先のことを考えていく。

 パズルのように、一つ一つ丁寧に組み立てていく。


「...よし。とりあえずは魔術士の確保が優先だな」


 俺の中で作戦が一部始終、組み立て終わった。

 自分で言うのもあれだが、俺は頭がいい。そう、頭がいいのだ。

 まずは、一つ目の大戦で鍵となる、情報を盗んだ魔術士を魔族に取られる前に見つけ出す。

 とは言っても、かなり骨が折れる。魔人であるかは、直接、この”眼”で見なければ、判別することができない。

 が、地道でもするしかない。

 

 トゥルルルル...


『もしもし...』

「あ、鏡月?」

『なんだ、幸糸か。なにか用か?』

「あぁ、一つ頼みがあるんだけど...」


 俺は鏡月に電話し、これから行う計画のために動いてもらう。


『...あぁ、分かった。そっちも無理はするなよ』

「分かってる。じゃあ、頼んだぞ」


 まず、これで懸念点は去った。

 その段階で、俺も本腰を入れよう。


 トゥルルルル...


 またもや、電話で違うところにかける。

 起きてるといいんだが。


『...はい』

「おぉ、起きてた」


 やはり、粘って、十分間かけ続けた甲斐があった。


『なんだ、お前か』

「仕事だ、起きろ」

『...はぁ、分かった。仕事なら仕方ない』


 話が早くて助かる。

 

「それじゃあ、また事務所で話そう」

『うい、分かった』


 さてと、この会話履歴も消しておこう。

 魔術士がどこでどんな情報を見ているのか分からない状況。

 できる限り、こういったものは残さない方がいい。

 まぁ、そんなものがなくても癖になってるから、勝手に指が動いてしまう。

 

「いい加減、この仕事にも慣れてきたな」


 だが、間違いなく今回はうちの仕事で一番の山となるだろう。



 ♢



 

「...と、言うことで。暫くの間、私があなたたちの授業を担当するわ」


 昼食を食べ終わり、私たちは午後の授業、実習授業を受けるため、担当教室に来たのだが、普段先に来ている幸糸がいなかった。

 そういう日もあるかと思って、四人で話しながら待っていたのだが、十分以上待っても彼は来なかった。

 そして、遂に教室の扉が開いたかと思うと、入ってきたのは予想していなかった人物だった。

 越智 鏡月さん。本来、私たちの授業を担当するはずの軍人。

 越智さんが授業をする方が正しいのに、逆に違和感がある。


「越智さんが担当ですか。幸糸はどうしたんですか?」

「さぼった」

「...え」


 私たち四人は呆けてしまった。『いつも通り』、もはやそれではただで済まされないところまで彼は進んでしまったらしい。


「なんか、授業面倒だから代わりにやってだって。ちょうど私も暇だったから来てみたの」

「とはいえ、それでいいんですか!?」

「まぁ、もともと私の担当だし」

「はぇ~...」


 この人の対応を見ると、いつもの先生面しらあいつがゴミか何かに思えてきた。


「まぁ、安心して。人に教えを施すのは経験がないけど、多分そういうこと得意だと思うから」


 なぜだろう。とてつもない安心感がある。

 軍の中でも最年少で上位に君臨している人物だ。発言の重みが違う。


「それじゃあ、早速始めていこうか」


 ただ、すでにニ十分近くの時間が消費されている点から、時間にルーズという噂は本当なのだと知り、がっかりしている自分を抑えつける。

 完璧超人はこの世に存在しなかった。

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