第7話

少女は驚いた顔でぼくを見た。


「なんすか!自殺っすか!?学校で?」


走ってくる。

このまま彼女のことを気にせずに飛びこめば

…って、駄目かぁ


身を乗り上げていた体をもとに戻し、目の前の少女のほうを向く。

目線は同じくらい。

………身長


「待った、待ってください!今日は駄目っす」


ぼくの意見なんて、聞く気ないだろうな


「えっと、今日は、虹叶くんの好きな美術があるっす。それに、精霊様も来るらしいっすから」


無理やり、微笑みながら


「そっか」


と呟く。

…失敗、よりによって、クラスメイト。


「だ、だから!今日は諦めてくださいっす!」

『そうだよ!諦めてくださーい!』


目の前の少女と同じようなことを、後ろに憑いた子供は言った。


「…君たち…本当……はぁ、ごめんなさい、ちゃんと授業参加するから。大丈夫。…自殺じゃ…ないよ。」


「?それは良かったっす。それでは行きましょう!」


無理矢理腕を引っ張られ、連行される。

教室の前につくと、目の前の少女は、思いっきりドアを開けた。


「美少女探偵!平樹悟利ひらきさとりの入場っすよー!」


クラスメイトたちが一気にこっちを見た。

平樹さんのほうよりも、ぼくを見る人のほうが多かった。


…異物を見るように見るやつもいれば、恐怖の目で見るもの、全くの無関心な目でぼくを見つめているやつもいる。


それはしょうがないんだろう。

いじめられていたんだから。

ぼくは、邪魔物なんだから。


「…平樹さん……声…大きいよ」

「ごめんなさいっす…」


やらかしてしまった、という顔をしている。


…平樹さん。


平樹悟利


目の前の少女の、クラスメイトの名前。

黒糸が死神に殺されてから、ぼくによく絡んでくるのだ。きっと、なにかぼくに絡む意味があるんだと思う。水月くんとも仲良いし、話しかけられてもこの子は無視できない。

威圧感が怖い。

単純なはずなのに、感情の読めない顔の平樹さんに、なぜか恐怖を感じるのだ。


もしかしたら黒糸を殺したのはこの人じゃないのかな?

…なんて、こんな簡単だったら良かったなぁ、と思いながら、考えていた邪念をはらって、でも、違うんだろうなぁ、と、なんとなく考える。


平樹さんに、どんなに闇の深いところがあろうがなかろうが、この人は違う。


この人はバカ真面目で正直だ。だから、単純だって思った。顔からはのはかわらないけど。喋り方や仕草で正直さが読める。


それに、黒糸を殺した死神とは、違うっていうのが感覚的にわかる…っていうか?

…何て言えばいいかわからないけれど、どっちにしろ結論は同じだ。


「もうすぐ一時間目の授業、始まるっすよー。理科の化学の移動教室っす。」


ぼくのロッカーに入っていた教科書やら参考書やらを一式、持って渡してくる


「はやく、行くっすよ」


彼女はぼくの手首をつかんで引っ張っていく。

嵐のような人だなぁ…と思いながら、ついていった。


『キミ友達いないの?』


子供は宙を舞いぼくについてきながらながら聞いてくる。

急になに?


「…二人いた。その友達で、好きになった人が死んだんだよ」


平樹さんに聞こえないように小さく返す。

多分普通の人なら聞こえてると思うけど、平樹さんだから…はは、は


子供は少しビックリした表情をした。


『…へ、なんかごめんって』


申し訳そうな声で言った。

顔は少し笑っている。


なぜなのかは分からない。

気持ち悪…

て言うか、なんで笑ってるの?


「虹叶くん、前みてくださいっす」


子供の方を向いていたからさすがに危ない。

階段を踏み外さないように下りていく。


「あ、はい…」


平樹さんは、ぼくの手首をつかんだままだ。

離してくれなさそうだ。





─そのまま理科室に連行され、とりあえず授業をのりきった。

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