ぼくを彩る君は

中田えむ

第1話

本当に突然だけれど、

本当に、誰に言ってるか分からないけど。


…ぼくは死のうと思う。



きみがぼくのかわりにあの死神に殺されたから。

今になって…きみが好きだったことを思い出しちゃった。


だからさ、おんなじ場所に行こうと思って。


自殺の用意しようっと。

椅子に座っていた体を立たせる。


制服のハンガーを掛けるレール。手を伸ばさないと届かない高さ。

ちょうどいい。


子供の頃に使っていた台にのる。

洗面台とか、高いものとるときにつかってたなー

懐かしい。


家にあったロープを結んで、円形の部分に首を通す。


…手足が震える。

顔がこわばる。

死ぬことが怖い?

生物としての生存本能?


もう覚悟は出来てる。

準備もした。

遺書も書いた。

内容なんて覚えてない。


もう、どうでもいいんだ。

君のいる世界へ行ければいいんだから!


「…は…ぁ……」


息を吐く。


台を強く蹴る。


「ガッ、!…」


勢いと急な苦しさに声が出る。


足は地面につかなかった。

計画通り、だ、けど。



苦しい。

苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい苦しい!


…く…るし、い、


だれか…た、す…


いや、…これ、で、いいん…だよ。


苦しい、け、ど、


もう、

もう、意識が、…無くなり…そ、


う、



…だ、



















































真っ白でなにもない世界で。


君がこっちを見ている。

何かを叫ぶきみの声は、聞こえない。

あれ?きみはどんな声だったっけ?

美しいはずのきみの声が思い出せない。


数日前、きみが叫んだそれが思い出せないんだ。


でもこれは、そうだ。




ただ、ぼくが、妄想して…

夢を見ている、だけだ。


そうだ。


…?


待って?



…夢?


待ってくれ、

少しだけ。


きみが、ただただ、叫んでぼくは近寄ろうとするけど、届かない、



届かない、この手は。


だって、夢だから。


ゆめ…なのだから?


夢、…なの?


あれ、ぼくは…


死ねてない?


嘘だ。

嘘だ嘘だ嘘だ!

夢なんかじゃない。


現実なはずだ!

ぼくは、君と同じ場所に行けたはずだ!


なんで、夢だと認識してしまうんだ?


どうして?どうし…


『君はまだ、こっちに行っちゃ駄目だ。』


…!


きみじゃない誰かの声が脳内に響く。

きみは、その声とほぼ同時に、安心したように微笑む、


なんで?

なんで…?



そして、目の中に光が入り込んだ。

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