君のウインドチャイム、僕のエキゾストノイズ

天城らん

第1話 風鈴嫌い

 ※本作はフィクションです。病状、ならびに、病院の構造などおかしいところなどありますがご了承ください。



 1


 チリン……。


 高く澄んだ風鈴の音色。


 ガラスの奏でたささやかな音は風に乗り、ヘルメットもまだ脱いでないとおるの耳へ届いた。



(人間、嫌いなものには敏感に反応するのかもしれない)


 病院の駐輪場に、バイクを止めながら透はそう思った。

 彼は、風鈴もその音色も嫌いだった。


『あんな薄くて割れやすいガラスを、窓辺に下げるなんてどうかしてる。音を聞くだけで鳥肌が立つ』


 と、あまりにも強引な理由に賛同してくれるものなどいなかったが、頑なに毛嫌いしているのには訳があった。

 小学生の頃、母親が大切にしていた風鈴を、野球ボールで見事に粉砕してしまったのだ。


『すげー! ジャストミートだ』と喜んだことがさらに母親と姉の怒りをかい、大目玉をくらった。

 母親は一週間これ見よがしにめそめそと泣きまねをし、5つ違いの姉は母の味方とばかりに透のおやつを奪い、続きを楽しみにしていたマンガを貸さないなどして彼をいじめたのだった。

 彼の風鈴恐怖症(?)は、そこから来ている。


 十年経った今でも、風鈴事件の弱みにつけこんで母や姉に、こき使われることがある。

 現にここ三日、彼が病院に通っているのは出産した鬼姉おにあねの使い走りのためだった。


(俺も、もうおじさんか……)


 透は、ガクッと肩を落とした。


 追い討ちをかけるように、彼の嫌いな風鈴の音がチリンと鳴った。

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