呼んで

鈴乱

第1話

 あたたかい物語を描きたかった。


 あたたかくて、うっとりとまどろむような。


 楽しいことばっかりじゃないこの世界で、それでもせっかく出会えたんだから、せめて共にある時間は幸福で彩っていたかった。


 それが綺麗事なんだってことは、よく分かってた。


 でも、綺麗事でも願いたいじゃないか。


 幸せだと、君が笑う未来。


 みんなで笑い合える未来。


 今に叶わないなら、少し先の未来に。



 しょうがないよ。そう祈ったんだ。


 そう、祈ってしまうんだ。


 それぞれの人生だから、放っておいて、気にしないでいた方がいい。


 そうも思うけど。


 でも、僕は、自分がぼろぼろになっても、自分よりも君が幸せであってほしいと、そう思う。勝手に、そう思う。


 その思いが負担になってるかもしれない。

 そんなことは先刻承知の上で、傲慢にも君の幸せを思う。


 だって、出会えたんだ。


 いくつもの偶然の中で、たくさんの奇跡が起こって、それで、出会えた。


 君にとって、この出会いが、積み重ねた日々が、どうだったのかは分からない。


 君はすぐに黙ってしまうから。


 よく、下手くそな嘘もついてたよね。

 バレバレなのに。


 強がって、平気なフリをして、一人で大泣きしてるの、知ってるよ。


 今頃だって泣いてんじゃないの?


 どう? 当たり?


 もっとそうやって、見せていいのにさ。


 もっとそのまんま表現すればいいのに。


 寂しいじゃないか。


 ……寂しいよ。


 取り繕うことなんて、ないのに。


 少なくとも僕の前では。


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