トークバック

坂門

Take 0 テイクワン

 カチャっとトークバックをオンにすると、防音ガラスの向こうの声がヘッドフォン越しに届く。


『どう?』

「このクリック消して貰っていいですか? 慣れないから気になっちゃって。あともう少し、ギターを下さい」

『了解。じゃあ、リズムはドラムに合わせて行こうか』

「はい」


 緊張を解そうと体を伸ばし、大きく息を吐き出す。20畳ほどのスタジオとしてはそう大きくない部屋に、僕はポツリとひとり、鍵盤を前に座っていた。

 音を吸い込む壁が、あらゆる雑音ノイズを吸い込み、静寂だけが僕を包む。

 ガラスの向こうでディレクターが少し大きく手を上げる。


『テイクワン、行きます』


 ヘッドフォンに届いた声に、僕は無言で頷き、トークバックをオフにした。

 ゆったりしたカウントがヘッドフォンを震わすと、僕はそっと鍵盤に手を置く。

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