絶望が絶望を呼んで

 カイルは、先ほどの放送を見て、考えていた。10年で魔物壁が完成した。それも全く人のいなくなったツリー王国以外?ここは半分も完成していないのに?どういうカラクリなのだろう。いや待て、さっきあのヒステリックになっていた女性が言っていた。隣のデザート地区は、永久帝国市民権が付与された?そうか。オズモンド皇帝陛下の子を産んだことで、親族になったってことだ。それが効率の良い取り込み。しかも、ここ以上に兵たちへの当たりが強くなかったとしたら?いやそんなわけないか?少なくとも5年前の放送以前は酷い扱いだったはずだ。変わったのは、5年前の放送の時か?成程、国民たちも率先して魔物壁の建設に携わるようになったんだ。人が増えれば仕事効率が上がる。完成していても不思議ではない。それに引き換え、ここは、、、ダメだ悲観的になるな。僕は、絶対に死ぬわけにはいかない。ツリー王国の魔物壁の完成にどれだけの猶予が残されているかは、わからない。だが、決して死ぬわけには行かない。自分の過去とこの国に何が起こったのか真実を知るために。死に物狂いで、働くカイル。そして5年が経過した。魔物壁はようやく後少しで完成する。そんな時、希望を打ち砕くかのように映像放送が流れる。そこには、オズモンド皇帝陛下の周りを滅ぼされた王国の王妃たちが取り囲み、オズモンド皇帝陛下が椅子に座り両足を乗せているのは、イーリス元王妃だ。

「レインクラウズクリア地区の国民たちよ。残念な知らせだ。ツリー王国の魔物壁は先程完成を迎えた。15年も経って、完成していない。ふざけるな。この牝豚の国は、国民たちの民意も低かったようだな。良いだろう。兵士たちには約束通り皆死を持って償ってもらうとして、補充の人員だが勿論居ない。あっ居たなぁ。レインクラウズクリア地区の国民たちから帝国市民権を剥奪し、奴隷手形を発行する」

「そんな、どうかそれだけは、やめてください。私なら何でもしますから」

「子どもを産めん、お前に期待などもうしていない。お前もお前の国の国民たちも俺の奴隷だ。自分の立場を理解しろ。お前は、俺に意見できる立場ではない。わかったか、この牝豚が。わかったら人間の言葉を喋るな」

「ブヒィ。ブヒブヒ」

「傑作だな。貴様らの愛した王妃は、滅ぼした男に媚びるためにとうとう人間をやめたぞ。もう全て遅いがな」

「ブヒィブヒィブヒブヒブヒィーーーー」

「煩いわ。この牝豚が、少し黙っていろ」

「ブヒッブヒッ」

「咥えながらでも抗議しおって」

「オズモンド皇帝陛下様〜、後で私たちも可愛がってくださいね」

「あぁ、わかっている。お前たちは、ワシの男児を産みし、可愛い妻たちじゃ。この牝豚のしつけをした後にたっぷりと次の種を植えてやろう」

「あぁん、オズモンド皇帝陛下様ーーーーーーーー。この牝豚、わかったらとっとと諦めるのよ」

「ブヒッブヒッブヒッ」

「フンフン。そうだなぁ。一方的な虐殺は俺も好まん。この牝豚に免じて、武器は支給してやろう。それで自分自身であなたを断つもよし。無理だというのなら近くの我が精鋭たちが介錯してくれよう。ハーッハッハッハッ」

 ブツンと映像が切れると元レインクラウズクリア王国の兵士たちに武器が投げ入れられる。国民たちは、手のひらを返したように元兵士たちを応援する。それもそうだ。彼らが負ければ今度こそ国民たちが奴隷となるのだ。元兵士たちは、武器を取るとオズマリア兵に襲いかかる。カイルは、この時までそう考えていた。しかし、彼らが武器を向けたのは、元国民たちだった。

「ヒィ〜。何を血迷っておるのじゃ」

「こりゃオモシレェ。俺たちに武器を向けるならすぐに殺してやろうと思ったがオズモンド皇帝陛下様からは、斬りかかられない限り手を出すなと厳命されているのでな」

「そんな、私たちが死ねば今度こそ魔物壁を作る人が居なくなるわよ。それで良いの?」

「あん、何言ってんだ。馬鹿女、じゃあ、どうしてツリー王国の魔物壁が経った5年で完成したんだろうなぁ」

「それは、他の国の奴隷が」

「奴隷だ?奴隷がいるのはここだけさ。他の国は、元兵士も元国民も永久帝国市民権が与えられてんだぜ。そりゃそうだよなぁ。我らが皇帝陛下様の男児を産んだんだからなぁ。そう、悪いのは、お前らのとこの王妃。そうとも知らずコイツら兵士に怒りをぶつけてたのは誰だっけ?自業自得ってことさ」

「そんな。私たちは何のために」

「お前さん、よくもワシに鞭を振るってくれたなあ。死を持って償え」

「キャアーーーーーー」

 そこら中から元国民たちの悲鳴が上がる。彼らが受けた仕打ちに対して、当然の報いと言えばそうなのかもしれない。だが、これはあまりにも悲惨な光景だ。自分たちの国をそこに住む国民たちを自分たちで殺し回る。こんな光景を映像放送越しでオズモンド皇帝陛下は、楽しんでいるのだろう。僕1人では、止めることすら叶わない。ルーカス爺ちゃん、この国は、自分たちの手で完全に滅んでしまったよ。この後、一通り国民たちを殺し終えた元兵士たちは、オズマリア兵に斬りかかるのでは無く仲間同士で介錯をし合って、僕以外死んでしまった。僕は魔物壁の隙間を抜け、魔物領へと逃げるのが精一杯だった。

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