ツリー王国の陥落

 レインクラウズクリア王国から始まり、フラワーリーフ王国、デザート王国、エンペラード王国、アダマイト王国と落とし、最後のツリー王国である。ここも他の国と同様内と外による攻撃により、陥落となるだろう。オズマリア王国側の兵士はそう考えていた。だが、一向に内乱が起こらない。もうすぐオズモンド王がこっちに来るとなり、それまでに門を開け放っていなければ、減俸処分は免れない。ここにきて、焦り出したオズマリア王国の兵は総攻撃を開始する。

「フハハ。今更遅いであろう。こちらの準備は整っているぞ。お前のおかげだギンコ」

「サイプレス様のお役に立てて、幸せですわ」

 この国には、王妃が居なかった。オズモンドの娘ギンコを一目見たサイプレス王が気に入り、嫁にした。しかも、ギンコの方もサイプレス王を気に入ったのだ。その日に結ばれた2人の間には、一人息子のシダー皇子がいる。絵に描いたようなシンデレラストーリーだ。それゆえ、本来は、オズマリア王国側のギンコが一切情報を外に漏らさない訳ではなく。オズモンドに疑われぬように、サイプレスに相談して流しても良い情報を流す事で、オズモンドを信頼させていたのである。それゆえ、このツリー王国では、作戦当日になっても反乱が起きなかった。そして今、それは身を結んだ。オズマリア側は、血みどろの攻城戦を余儀なくされ、そこにオズモンド王が来た。その様子を見たオズモンドは、笑みを浮かべていた。

「オズモンド様が来られる前に何としても、城を開放するのだ。凸撃〜」

「攻城兵器持ってきてて良かったですなぁ」

「あぁ、何故かオズモンド王がツリー王国にだけは、他の城の10倍の兵士を動員していた事も気になったが。今日になって合点が行った。これを見越していたのだ。流石我らが王よ」

「首尾の方はどうじゃ」

「オズモンド王様!思った以上に城方が硬く、住民たちも徹底抗戦の構え。指揮も行き届いていて、オマケに士気も高いといった具合です」

「成程のぅ。出来損ないの娘にしては、中々、やるではないか。褒めてやろうぞ。攻城兵器を三段構えにして、井蘭の中に、予め伏せておけ。橋がかかったと同時に城内へと雪崩れ込み。抵抗するものを捕らえよ」

「はっ」

「オズモンド様〜もっと〜ください」

「フン」

 この久々の感覚に下の方も滾り、あっという間にウォーターとキリンを気絶させ。鎧兜を着て、指揮へと戻る。その姿は、先ほどまでの闘将とは打って変わり知将である。その姿にルビーも少し見惚れてしまっていた。

「(アタイ、今、アイツに見惚れてた?アタイにはカルメルだけ。カルメルを生かしてもらう代わりに従っているだけ)」

 まるで自分の心に言い聞かせるようにそう何度も呟いていた。敵の攻撃が変わった事に気付いたツリー王国側も負けじと対応するがとうとう井蘭がかかり、城内へとオズマリア兵が雪崩れ込んできた。住民たちの必死の抵抗も虚しく。ある者は殺され。またある者は、捕まった。だが、徹底抗戦を止める者は、誰1人としていない。それこそ子供から老人まで一丸となって、ツリー王国を守ろうとオズマリア兵へと喰らい付いていた。それゆえ、オズマリア側の方が2倍多く死者を出していた。流石、オズモンドの血を引く娘だったという事だ。

「この王国がもう少し大きければ、オズマリア王国などはね返せたのだがすまないギンコ」

「いえ、多くの国が父の策略の前に手も足も出ずに滅ぼされたのです。その中で我が国は、相手に多大な被害を与えたと言えましょう」

「ギンコ、シダーを連れて、オズマリア王国に帰るのだ」

「いえ、帰ったところで今度は、また別のところに送られるだけです。それならば、最後まで愛するサイプレス様と共に」

「すまぬギンコ」

 サイプレスは、城内へと敵が雪崩れ込んだら住民たちに抵抗を止め降伏するように伝えていた。それにも関わらず住民たちは、誰1人、抵抗をやめず。オズマリア王国に抗い続けた。皆、口々に『サイプレス様とギンコ様には、手は出させねぇ』と言い。死をも恐れぬ突撃を繰り返し、オズマリア兵を大いに討ち取ったのである。死兵ほど恐ろしい者は居ない。そして、オズモンドが城内へと踏み込んだ時には、辺りには、オズマリア兵の死体の方が多かった。そして、その奥で肩を抱き寄せ向かい合って絶命する親子3人を見て、オズモンドは初めて涙を零し、笑いながら言った。

「流石、ワシの娘だ。シダーよ、見事であった。ワシの負けじゃ。家族と共にゆっくりと休むがいい」

 ツリー王国の国民は、皆悉く討ち死にし。オズマリア兵の被害も甚大となった。その総数実に100万ものオズマリア兵の死体。ツリー王国は、国民、兵士その全て、50万が亡くなった。実に150万もの屍の山がツリー王国に築かれたのだ。

「痛い敗戦であった」

 この言葉に疑問を持っていたルビー。

「敗戦?お前の思惑通り、人類国家を統一したではないか」

「確かにそうだ。だがな、ここで多くの兵を失い。魔物の住む北の大地へと派兵できなくなった。この遅れをどう取り返すか。また思案せねばなるまい」

「貴様は、あくまで人類のために統一したと言い切るのだな」

「あぁ、時には、痛みが必要なのだ。それが少し強引であろうとな。あんな足並みの揃わぬ連合軍では、魔物からの本格的な攻撃が始まれば誰1人守れぬ」

「そのためなら娘を魔物に差し出す事も厭わぬほどか」

「それで一時でも時間が稼げるのなら安いものだ。大事の中に小事無し。それがワシの生き方じゃ。どうじゃ惚れたかルビー」

「そんなわけないだろ」

「いずれその心もワシのものにしてくれるわ」

「(確かにコイツはアタイから大事なものを奪った男だ。でも、女将軍として、コイツの元でなら大きな事を成せるのではないかと思ったのもまた事実。いけないな。アタイは、カルメルの命のためにコイツに従っているだけだ。心までは、絶対に屈しない)」

 オズマリア王国へと帰ったオズモンド王は、すぐに次の手に移った。先ずは、人類国家の統一を表明。オズマリア王国からオズマリア帝国へと名を改める事。そして、各国の境界線を取り払い。行き来をスムーズにし、人の流れや物の流通を広げ、魔物領と接する境界線に大きな壁を作り上げ、魔物たちの攻め口を狭める。そのために各国の王宮に仕えていた兵を奴隷として、壁の築城を命じる。その中には、レインクラウズクリア王国、いや、6カ国のなかで恐らく最後の皇子である5歳のカイルの姿もあった。こうしてディスパラスト歴2006年、人類国家初の統一王国オズマリア帝国が建国されたのである。そして、物語はここから始まる。

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