7.捕まった人を助けるお話
ゴブリンを倒した洞窟の奥に、数人の男女が裸で囚われていた。
少年が一人。初老の男性が一人。奥に妙齢の女性が二人だ。
俺はブリンのことをあまり考えないよう、彼らのことを考える。
無理矢理嫌な思考を放棄して、冷静になる。
「あ、あの」
一番近くにいた少年が、震える声で俺に話しかける。
俺はどうすればいいか考えようとして、今回はやめた。
「助けるよ」
俺は試しに縛られている縄らしきものに触れる。
鞭術はしなるものはなんでも操れるみたいだ。
団子になっていた縄の縛りをほどいて彼を開放する。
少年は力が入らないのか、こちらにもたれかかるように倒れた。
「あっ……」
「大丈夫だよ……大丈夫だ……」
俺は思考が鈍っていたのか、その少年を慰めるよう抱きしめた。
少年は拒絶しないでいてくれた。
イルカ ♂ 9歳
貴族Lv6
裸だったせいか、へそにあった石に触れてしまう。
しばらく時間がたって、彼を介抱するように横に座らせた。
「すみません、遅れました」
「いえ……」
俺は残っていた初老の男性一人と女性二人を開放する。
全員裸なのは、おそらくゴブリンが追いはぎしたのだろう。
「あの、私はトルメと申します。差し出がましいようですが、あなたの生命石を確認させていただけますか?」
初老の男はトルメと名乗り、俺の知らない単語を求める。
俺は一度ピクリと固まるが、すっと落ち着く。
「えっと、俺はユイです。俺もあなたの生命石を先に確認したいのですが」
「そうですね、失礼しました。我々が先ですね。二人とも」
トルメは後ろにいた裸の女性二人に声をかける。
二人は互いのへそにある石に触れて、トルメも片方の女性の石に触れる。
「どうぞ」
トルメが両手を広げる。
生命石とはへそにある宝石だったみたいだ。
俺は指示通り触れてみる。
トルメ ♂ 42歳
執事Lv16
アン ♀ 17歳 イルカに隷属
使用人Lv5
ヤア ♀ 16歳 イルカに隷属
使用人Lv2
どうやら生命石に触れている人間同士の石に触れると一気に見れるらしい。
職業レベルが出ても、能力やスキルは表示されない。
「ありがとうございます。俺もどうぞ」
「確認しました、ユイ様ですね。助けていただきありがとうございます」
年齢やレベルからしても、トルメが彼等を仕切っているのだろう。
イルカはこの中で一番位が高そうだが、子供だ。
「そして魔法使いとお目見えします。あの、どうかイルカ様に水と食料を恵んでもらえないでしょうか」
「あ、はいわかりました」
俺は慌てて、壁に寄りかかっているイルカに保存食と水を与える。
そうだよ、囚われてたってことは食べ物もろくに与えられてないんだ。
「トルメ、もう大丈夫です。後は僕が話をします」
食事を済まし、ゴブリンたちの戦利品から着る布を見繕った後のことだ。
イルカは落ち着きのある少年だ。トルメにこなれた感じで指示を出す。
「申し遅れました。僕はイルカと申します。この度は助けていただきありがとうございます。ユイ様には感謝の言葉もありません。ここにはゴブリンの討伐に……?」
「そう……です」
「魔奥の森に、ですか」
「えっと、ここは魔奥の森って場所なんですか?」
「……?」
俺は会話がかみ合わないことにちょっと慌てる。
これはたぶん俺の知らない常識があるタイプだ。
リスクもあったが、あらかじめ考えていた言い訳を俺は口に出す。
「すみません。俺は産まれたときから山小屋で暮らしていたんです。両親が人嫌いでずっと森の中で生きてて、俺は山を下りてずっと森の中を彷徨っていただけだから、ここがどこかも知らないんです。家族以外の人間を見たのも初めてです。常識がない男と思われるかもしれませんが、俺は本当に何も知りません」
「そんな方が、いたんですね……」
イルカは俺のまくしたてる言葉をすぐに理解してくれた。
頭の回転は速いのかもしれない。
もちろん疑いの目もむけられているが、否定する材料もないだろう。
「じゃああなたは、たまたまゴブリンの集落に侵入して討伐。我々を助けてくれたんですね」
「はい」
「そうですか、そうですよね。確かにそうじゃないとこの状況はあり得ない……」
そして考えがまとまると、イルカは俺を見る。
どうやらイルカは、幼くともこのメンバーで一番権力が強い。
「お願いします。僕たちを街まで護衛していただけますでしょうか。報酬はもちろん払います。今は何もない状態ですが、街につけばあなたの欲しいと思うものを与えます」
「いいですよ。ただ俺も、この森のどの方角を進めば街にあるかはわかりませんが」
「ありがとうございます。では急いで準備をしましょう。トルメ、まず外の物の選別をユイ様と行うこと、運び辛いものは私が金銭を補償をしますので放棄していただきます」
話がまとまると、トルメたちはすぐに動いた。
俺も続いてゴブリンのいた場所にあった戦利品をあさることにする。
鉄塊みたいな武器とか、重いものは論外だ。
剣やナイフは執事が自分用に一本ずつ持っていった。
「金品は最優先として、これは……紙幣? まあいいや、それ以外は武器だけど……あれ」
足元に杖があった。俺の世界の指揮棒に似たタイプのやつだ。
土守りの杖 *スキル マシルド
「俺がイメージした感じと同じで、やっぱり呪文は杖が必要なんだな」
あと色々と見回してみたが、めぼしいものがあるのかも俺にはわからない。
補償してくれるのなら信用しよう。
俺はそう思いながら、あることを思いついて近づくが、
「トルメさん。俺は大体見ましたが……あれ、どうかしました?」
「あ、いえ」
トルメは冷や汗をかいていた。顔が青い。
というのもあの大型ゴブリンの死体から生命石を取っていたみたいだ。
俺に渡してくれる。
オウゴブリン Lv22
「やっぱりあいつ、別種だったんだな」
「ユイ様……いえ、それで何でしょう」
どうしたんだろう、この生命石が欲しいとかそんな理由じゃないとは思う。
ああ、あれだけ強かったから俺が勝てたことに疑問があるのか。
とはいえ弁明はできないので、話題を変える。
「さっき報酬の話をしてましたよね。少しだけ前払いということで道中俺にこの世界の常識を話してくれませんか」
前払いって言ったとき後ろにいた女性がちょっと怯えた。
そうじゃないよ。
「そういえば山育ちということでしたね。かまいませんよ」
「ならここはもういいです。くまなく探しても危険ですし、一緒に森を出ましょう」
「かしこまりました。イルカ様とすぐに出発いたします」
「トルメ様、アンが魔具の指針盤が見つけました。これなら大きな街に設置された宝珠を三つまで探索可能です。これで迷わず街に帰れます」
メイドと会話するトルメたちが少し離れたあと、
「まー」
「あ……そうだったマーチャンも言わなきゃ」
リュックの中で息をひそめていたマーチャンが、不満の声を上げた。
*アイテム解説
*宝珠
街や村の中心に設置されている特殊な魔石
これがあると周辺のモンスターは例外を除いて近寄らなくなる
*指針盤
コンパスの針が三つになった形状の魔具
街等に備え付けられた宝珠を探知して針がその方向を指し示す
一番大きな針は一番近くの宝珠を刺し、中、小と三つまで方向を教えてくれる
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