第十話「トレーダーのアネット」
Side リオ
私は別のトレーダーグループのアネットと話し込んでいた。
もっぱら話題はグレイヴフィールドに現れた新たな勢力、ジエイタイのことだ。
アネットは私達と同い年ぐらいで女性グループを私達よりも多く纏めている。
服装も黒いミニスカの長袖の衣装で茶色いロングブーツ。
頭も真っ黒な軍帽を被っている。
長い金髪でどこか育ちの良いお姫様然としていて羨ましかった。
後ろでは専用の大型トレーラーにアネットのグループ達がジエイタイから配られた水を飲んで大はしゃぎしていた。
「ふーん、あの方達はジエイタイと言うんですね」
と、言いつつ照れくさそうに500mlのペットボトルの美味しい水と銘打たれた飲料水を大切に飲んでいた。
ジエイタイから貰った情報料代わりにもらった大切な水である。
「うん。町と関わりを持ちたいらしいから案内している」
「信用できますの?」
「ヴァイパーズや野盗相手に戦ったりしてるからその辺は大丈夫だと思う」
「つまり、今の段階では敵ではないと――」
「遠からずウチにリビルドアーミーが接触してくると思うしそこで最終的に判断出来ると思う」
「アーミーの連中、騎士団とぶつかる事になるかと思いましたが――どうなるか分かりませんね」
騎士団。
鋼鉄の騎士団とも言う。
この世界の勢力の一つ。
言ってしまえば自警団だ。
リビルドアーミーとは違い、此方は住民達に好かれているのが最大の特徴だろうか。
「その前に先ずは町に案内してみる。依頼もあるしね」
町――シップタウンを見たらたジエイタイの人達はどう思うだろうかとちょっと気になった。
「これからどうするの?」
「たぶんここのトレーダーやキャラバンはジエイタイに接触したいと言う人は大勢出ると思いますわ。あの方達、リビルドアーミーよりお人好しそうですし・・・・・・違う世界から来たと言う話も信じてもいい気がしますわ」
と、呆れたように溜息をついた。
パメラと同じような事を言っている。
この世界は残酷だ。
お人好しほどバカを見る世界なのだ。
これからジエイタイの元に人の良さにつけ込んであれこれ企む人間が大勢押し寄せるだろうが、そこはジエイタイを信じるしかないだろう。
幸いにして彼達は勉強熱心だ。
この世界の事や私達の事を頑張って知ろうとしている。
そして酷い目に遭いながらも彼達はお人好しだった。
だからジエイタイの事を信じてもいい。
私はそう思っていた。
パメラにはまた呆れられそうだが。
☆
Side アネット
リオと別れて黒髪で活発な作業着姿のニッパがヒョコッと顔を出してきた。
「リオっち、もっとゆっくりしてきゃいいのに」
「まあリオさんにはリオさんの都合があるでしょうし、私達もグレイヴフィールドのジエイタイに会いにいきますわよ」
と、これからの方針を伝えた。
ニッパは特に驚いた様子は見せず、
「そう言うと思ってました。もうトレーダーやキャラバン、賞金稼ぎ連中の間でも噂になってるようですよ。遠目からジエイタイの人達見てきましたけど、身嗜みが整って装備も綺麗でしたね」
そう羨ましそうに言ってました。
「私も見ましたわ。リオさん身体も身嗜みも綺麗になってましたし。男女別のお風呂に入ったとかトイレが綺麗だったとか、空調が効いて涼しかったとか、料理が美味しかったとか・・・・・・」
正直私もとても羨ましい。
なにその天国みたいな場所!?
本当にそんなところあっていいの!?
「情報量の対価で水配っていく連中ですもんね。リビルドアーミーこんな事しませんし騎士団の連中もここまで気前よくありませんよ」
「と、とにかくレースは始まっていますわ――ジエイタイと接触して見極める必要がありますわね」
「お、やる気ですね、姉さん」
「当然ですわ――」
ジエイタイと言う謎の勢力の出現。
この停滞した一帯を引っ繰り返すかもしれない。
だがこの時代、お人好しは損をしやすいのが暗黙の了解。
子供向けのお伽話のような存在が実在いたとしたら間違いなくリビルドアーミーが絡んでくる。
あいつらはこの荒廃した世界の復興を謳いながら実態は野盗連中と変わらない。
選ばれた人間による優れた統治などと抜かして搾取、弾圧するのだ。
大半の兵士も見てくれだけの腑抜け連中が多い。
装備はいいだけ。
(ジエイタイはどうかしら。少なくとも見込みはあるようだけど――)
リオの様子や話を聞く限りでは信用してもいいかもしれないなどと思う反面。
支配者気取りのリビルドアーミーがどう絡んでくるかが心配だった。
(ここで心配しても仕方ありませんわね)「ニッパ、出発準備。各員には戦闘態勢を取らせなさい」
「分かりました姉さん」
「さて、吉と出るか凶と出るか……」
私は不思議と今のこの状況を楽しんでいた。
同時に嵐の予感を感じていた。
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