【女神のログインボーナスで毎日大金が振り込まれるんだがどうすればいい?】~無実の罪で職場を追放されたオッサンによる財力無双。非合法女子高生メイドと合法ロリ弁護士に挟まれながら送る夢のゴージャスライフ~

すぎモン/ 詩田門 文

第1話 異世界召喚ものが始まったと思ったんだが、現代チートものだったとはね……

「救世主ジュンイチ・カナオイよ。滅びゆく異世界を救ってください」


 


 俺の前で絶世の美女が、いきなりそう告げた。


 腰まで届く紫色の長髪に、紫色の瞳。

 女神様だと名乗っていた。


 少なくとも、人間じゃないんだろうな。

 こんな髪色と目の色をした人間なんて、聞いたことがない。


 女神は両手の平を組んだ祈りのポーズ。

 瞳をウルウルさせながら、俺を見つめてくる。




「あー、女神様? なんで俺なんです? 俺は今年で37になる、しがないオッサンですよ? 人選間違ってません?」


「間違っていません。ザックリ言うと、あなたの魂は私の加護を授けやすい形をしていたのです」


「なるほど」


 小説とか漫画でよくある、特別な能力。

 それを授けるのに、相性が良かったってわけか。




「見てください。剣と魔法の異世界ナロハイファンは、魔王によって滅亡寸前です」


 俺と女神様はのっぺりとした謎の空間にいたんだが、その空間に突然映像が浮かび上がった。


 真っ黒い巨大ドラゴンが、炎を吐きながら暴れ狂っている映像だ。


 あれが魔王?

 冗談じゃないぜ。

 あんなゴジラみたいな奴と戦えるか。


 映像の中で、若いイケメン剣士が魔王にぶっ飛ばされた。


 ありゃ多分、勇者ってやつだな。




「ごらんの通り、現地の勇者では歯が立ちません。なので女神の加護を授けた使徒を派遣し、世界を救わねばなりません」


「俺では荷が重すぎますので、もっと若くて能力のある奴を選んでください。じゃっ」


 くるりと振り返って、立ち去ろうとした俺。


 ところが女神様は、シャツを掴んで引きとめた。




「待ってください。もうあなたの魂は、異世界仕様に改造済みなのです。女神の加護も、ブチ込んじゃいました」


「何だそれ? 無断で酷くないですか? 訴えますよ?」


「ふふふふ……。大人しく異世界へ行くのです。その女神の加護があれば、いい目も見れますよ。男の夢であるハーレムだって、築けちゃいますよ」


「男がみんなハーレム好きだなんて、思わないでいただきたい」


 面倒だから、一夫多妻なんて絶対ゴメンだ。

 それに俺の夢は、剣と魔法の異世界なんかじゃ叶えられ……。




「ん? 女神様、映像見てください」


「え? どうしましたか? ……あっ!」


 一度はぶっ飛ばされた勇者くんだったけど、立ち上がって再び魔王に突進している。


 彼は剣に光を纏わせると、黒い巨竜を真っ二つにした。




「……魔王、やっつけちゃいましたね。もう俺が、異世界に行かなくていいのでは?」


「そ……そうですね。これはマズいです」


 一件落着かと思いきや、女神様はあたふたしている。


「とりあえず俺から女神の加護とやらを外して、地球に帰してくれません?」


「ええ。もちろん地球には帰しますが……。女神の加護は、外せません」


「何ですって? ……女神の加護って、どんなもんなんです? 地球での生活に、支障が出るような能力なんですか?」


「平たく言えば、ソシャゲのログインボーナスみたいなものです」


 ずいぶん平たく言ってくれる。

 女神様って、地球のゲームとかにも詳しいみたいだな。


 ログインボーナスってあれだろ?

 毎日ゲームを開始するたびに、何かもらえるってやつ。




「何をもらえるんです?」


「最初はたったの100キーンです」


 なんだキーンって?

 異世界の通貨単位か?

 日本円で言ってくれないと分からん。




「あの……絶対に主神様にはチクらないでくださいね。加護持ちを地球に帰したとバレたら、どんなお仕置きを受けることか……。かと言って、平和になった異世界に送るのはもっと不味いですし……」


 あ~。この女神様、やらかしちゃったわけだ。

 シュンとしちゃってるし、可哀想だな。

 黙っておいてやるか。


 そもそも主神様とやらへ密告する方法が、分からないからな。




「いいですよ。日常生活に支障はなさそうですし、黙っておきます」


 女神様の表情が、パアッと明るくなる。

 よっぽど主神様から怒られるのが、怖かったらしい。




「ありがとう、ジュンイチ・カナオイ。女神の加護を存分に使い、楽しい人生を送ってください。ログインボーナスの受け取りは、銀行で」


 そこまで聞いたところで、俺の意識は急激に遠のいていった。






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「変な……夢だったな……」


 目覚めた俺がいた場所は、剣と魔法の異世界なんかじゃなかった。


 せまっ苦しいボロアパートの一室だ。


 チャキチャキと布団を畳んで、出勤の準備をする。


 俺は派遣社員で工場勤め。

 女神様の使徒だとか、異世界から来た救世主であるわけがない。


 今日も地道に働くのみ。


 ログインボーナスとやらが本当に夢だったのか、銀行で確認したい気もする。


 だけど今は、職場へ行かなきゃな。


 俺はアパートの鍵を閉めると、自転車で派遣先の工場へと向かった。






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「……え? クビですか? どうして俺が?」


「自分の胸に聞いてみろよ、この無能!」


 ニヤニヤしながら吐き捨てたのは、工場正社員のさわ


 俺と同い年なんだが、こいつがまた嫌な野郎だ。


「俺の担当製造ラインは生産台数伸びていますし、特に問題だって……」


「嘘つけ。お前のミスで、溶接ロボットが壊れていたぞ。しかもそれを隠していたとは、とんでもない野郎だ」


「そんな馬鹿な。俺は昨日、有休でした。休みの日に壊せるわけが……」


「だから、休みの前日に壊したんだろ? ああ~、誰かさんがヘマしたせいで、昨日は大変だったんだぜ? ちっとは申し訳なさそうにしろよ」


 はは~ん。分かったぞ。

 壊した犯人は、美沢だな?


 昨日休みだった俺の代わりに、製造ラインに入ったのはこいつだったはずだ。


 しかし……、証拠はないな。




 周囲に居る工場の正社員達は、クスクスと笑っている。


 この状況じゃ、無実を訴えても無駄だろう。




「おっと、いいことを教えてやるぜ。派遣会社の方でも、お前をクビにするんだとよ。クライアントに迷惑をかける、役立たずは要らないそうだ」


 ……こいつ。

 俺の所属する派遣会社にも、手を回しやがったな?




「オラ! さっさと出て行けよ! 帰り支度を、手伝ってやるぜ!」


 美沢はロッカーから俺の荷物を取り出すと、床に放り投げた。


 施錠はしていたはずなんだが。




 俺はみんなが注目する中、床からリュックを拾って工場を後にした。






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「はぁ~。明日から、どうするかな?」


 俺は溜息をつきながら、銀行のATMを操作していた。

 通帳の書き込みだ。


 とりあえず、ハローワークに行って失業保険の手続きかな?


 よく分からないから、ネットで調べながらやるしかない。


 今までも無駄遣いはしてこなかったつもりだが、明日からはさらに財布の紐を締めていかないとな。


 なんせ給料がなくなるからな。


 む……?




 通帳に、妙な振込の記載があった。


 あり得ない額なので、眼鏡を拭いてからもういちど確認する。





『*1,000,000』


『ログインボーナス』




 ……え?


 100万円?





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