第4話 スライム式スパスパお料理
(声をはずませて)
ご主人様~
今日は一日ありがとうございます~
ご主人様の貴重な休日を
ラピスと一緒に過ごすことに使ってもらって……
きゅぴぃ~
いっしょにお買い物、とっても楽しかったです!
誰もラピスがスライムだって気づかなかったですね
八百屋のおばさんが
かわいいってたくさん褒めてくれましたっ
(少し気にする感じで)
でも、ご主人様……
あのとき、彼女だと誤解されて
嫌じゃなかったですか?
「むしろ光栄」ですか……?
(感激して)
ぴきゅううぅ!
なんて嬉しいお言葉っ
こちらこそです~
(元気よく)
はいっ、保冷剤をこっそり取り込んでおけば
お外も平気でした!
これがあれば、八時間くらいは保つと思います!
ぴきゅぅ~
新発見、ですっ!
(張りきって)
ではですね……
これより、ご主人様が買ってくださったレシピ本を参考に
お夕飯を作りたいと思います!
ぴきゅう
大丈夫です!
一人でもがんばって作りますので!
ご主人様はどうかオオブネに乗ったつもりで
どかん、と待っててください!
これもご恩返しですので!
きゅぴんっ
(恥ずかしそうに)
というかですね……
あの、ご飯を作っているときは
なるべくキッチンを覗かないでいただけますか?
はい、料理中もマッサージのときみたいに
部分的に変身するつもりですので……
(きょとんとして)
「ツルに変身」って……
ツルってなんですか?
はぁ、羽根が白い鳥の一種なんですね
でも、なんで鳥さんになるのでしょう?
もしかしてツルってお料理が得意なんですか?
「なんでもない」ですか?
はぁ、冗談だから気にしなくてよいことなんですね
(気を取り直して)
分かりましたっ
人間の世界のジョークも勉強したいので
あとで詳しく教えてください、ご主人様
では、キッチンお借りしますっ
SE:ドアを開ける音
(張りきって)
え~っと、まずはお野菜……
ニンジンさんとジャガイモさんとタマネギさんを洗って……
皮を剥いて、一口サイズに切りますっ!
ぴきゅう~
ではでは右腕を変形して、鋭いナイフ状に……
えいっ、へ~んしんっ!
いきますっ、とうっ!
SE:野菜をまな板の上で切る音
スパスパスパスパスパッ
きゅぴぃ~
お写真のとおり、切れました~
お次は鶏肉ですね……
人の世界のスーパーはすごいです
お肉が食べやすいように加工してあって……
ダンジョンにもスーパーがあればいいのに……
こっちは食べやすいサイズに……
スパパパパパッ
よしっ、です
切った具材はお鍋で煮込んで……
くつくつくつくつくつ
(楽しそうに)
ぴきゅう~
お水がぽこぽこ言って煮えてますぅ~
お次はルーを作らないとです
え~っと、これが……
ターメリック、クミン、コリアンダー、カルダモン……
おもしろい匂いです~
それにバターを混ぜ混ぜですね
さらにニンニクとショウガのチューブを少しずつ……
お塩を少々……
ホールトマトとヨーグルトも……
きゅぴぴ~
材料いっぱいで楽しいです~
(張りきって)
ではでは左腕をヘラの形にして~
ま~ぜまぜ、ま~ぜまぜ、ま~ぜまぜ
たぶんいい感じです~
こちらもお鍋に投入して~
とうっ
くつくつくつくつくつ……
きゅぴぴぃ、もっともっといい匂いになりました~
お次はナンですねっ
小麦粉と~
牛乳と~
お塩とお砂糖
それにオリーブオイルを混ぜて~
手でこねる……
う~ん
ではでは、両手を細かな触手状にして~
へ~んしんっ
うぅ、ご主人様、こっち見てないですよね?
こんなとこ見られたら、ラピス
恥ずかしくて死んでしまいます~
ぴきゅう……
気を取り直して
こねこねこねこねこねこね……
きゅぴぴぃ
このぐにゅぐにゅどろどろっと
触手にくっついてくる感じ……
なんだか親近感の湧いてくる感触ですぅ
だんだん固まってきました!
いい感じですっ
ではでは、この生地は少し冷蔵庫で寝かせておく、と……
おやすみなさいです~
カレーのほうはどうでしょう~
おお~、いい感じです~
ではではここにココナッツミルクをくわえまして~
バターも追加投入ですっ!
とろとろとろ~
あとは寝かせたナンの生地をごま油をしいて焼くだけですねっ
じゅうじゅうじゅうじゅうじゅう~
(嬉しそうに)
きゅぴぴぴぃっ!
バターチキンカレーの完成です~
ご主人様~
料理ができましたよ~
ぴきゅう~
(あわてて)
あっ、手をちゃんと戻しておかないと……
へんし~ん、ですっ
SE:ドアを開ける音
もうこっちを見ても平気です~
はい、お皿に盛りつけますね
SE:足音
SE:食器を用意する音
さあさあ、食べてみてくださいっ!
ぴきゅっ?
どうしたんですか?
「むちゃくちゃ本格的」ですか?
そうなのですか?
ラピス、カレーなら初心者でも失敗しないと聞きましたので
作ってみましたが……
(びっくりして)
きゅぴっ!?
「初心者はふつうカレールーを使う」?
そうだったんですか~!?
ラピス、間違えてしまいました~
「すごくおいしいから何も間違いじゃない」と?
(感激して)
ぴきゅきゅきゅぅ~
なんてお優しいお言葉~
おいしいですか、良かったです~
はいっ、たくさん食べてくださいっ!
(さぐりさぐり)
きゅぴぃ、ご主人様
よければラピス
ご主人様にあ~んして食べさせてあげたいですっ
お料理もですけど……
誰かにあ~んってするのも
人間の女の子になったらやってみたかった
憧れの一つなんですっ
いいですかっ?
ありがとうございます~
(勢いよく)
ではではいきますっ
ナンを一口サイズにちぎって
カレーをつけて……
あ~ん
……おいしいですか?
良かったです~
(きょとんとして)
えっ「ラピスも食べないのか」ですか?
はい、スライムの身体はいろんな栄養を吸収できるようになってますけど
ラピス、ご主人様に食べてほしくて作ったのに……
「まだたっぷりあるから平気」……
そう言われてみると……
まだまだ今日だけじゃ食べきれないくらいたっぷりですね!
(なっとくして)
分かりました
せっかく自分で作ったので……
では、いただきますっ
(びっくりして)
えっ、ご主人様が食べさせてくれるんですか?
ぴきゅうぅぅ!?
は、はいっ、緊張します~
ラピス、歯とかないので
もぐもぐできずに
お口に入れたあと
体の中に吸い込むみたいになっちゃいますけど……
笑わないでくれますか?
(嬉しそうに)
ぴきゅう
ありがとうございます~
(緊張しながら)
では、あ、あ~ん、ですっ
きゅぴぴいっ
(嬉しそうに)
ちょっとピリっとするけど
おいしいですぅ~
ダンジョンにこんなおいしいものはありませんでした~
ありがとうございます、ご主人様~
自分で作ったのはそうですけど~
でもでも、ご主人様と出会って
いっしょにお買い物して
レシピのご本も買っていただいて
いろいろいろいろ、ご主人様のおかげなんです~
だからやっぱり
ありがとうございます、ご主人様っ
ぴきゅっ!
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