第9話

「………オードリーと申します。どうぞよろしくお願い致します」


 宝石商として高位貴族を相手に叩き上げたスキルを用いて、わたしは出来うる最高のお辞儀をした。ほんの少しでも非礼がないように、必死だった。


 ここは誉高き歴史ある公爵邸。

 侍女とはいえ、多分わたしよりもマーサさんの方がずっとずっと良いお家の生まれのはずだ。


「まあまあ、ご丁寧にありがとうございます。ですが、わたくしみたいなおばばめに、そのような丁寧なことしなくても大丈夫ですわよ?さぁさ、お着替えしましょうね」


 ころころとお上品に笑ったマーサさんは、そう言ってパパッとわたしのお洋服を剥ぎ取って、あっという間に田の侍女に指示を飛ばして、わたしをお風呂に突っ込んで、つやっつやになるまでわたしを磨き上げた。


 うん、侍女さんすごい。

 というか、他の侍女さん今どこから出てきた?

 それに、全員顔が一緒だったような………。


「あ、あのっ!」


 水色の可愛いワンピースを着せてもらったわたしは、気配を押し殺して出て行こうとする焦茶の髪と瞳が可愛らしい侍女さんたちに待ったをかけた。


「「「「なんでしょうか」」」」


 4人のそっくりな侍女さんたちは、わたしに無表情を返す。

 全てを諦めたような表情に、わたしは何とも言えないものを感じながら微笑む。わたしもすごい顔色だからあまり人のことなんて言えないけれど………、

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