第5話
高順は并州の原野を黒騎兵と共に駆ける。背後から追ってきているのは并州騎馬隊最強の呂布率いる赤騎兵だ。
高順は部下に指示を出して背後を振り向きながら騎射をする。しかし、先頭の呂布は戟を一振りして飛んできた矢を叩き落とし、赤騎兵の兵士達も手馴れた様子で矢を払う。
高順も騎射で赤騎兵を倒せるとは思っていない、だからこそ射った時から騎馬の速度を上げて丘陵を駆け上がる。それと同時に曹性に片手で指示を出して別働隊とする。
機を図っていたのか高順が部隊を丘陵の頂上から転身した時に張遼率いる青騎兵が丘陵の先から現れ、赤騎兵に向かって疾駆する。丘陵の頂点からの逆落としの勢いに負けず呂布率いる赤騎兵は青騎兵に向かって駆ける。そして交錯した瞬間に青騎兵の半数が赤騎兵によって叩き落とされた。呂布だけでも九騎は落としている。
呂布の赤騎兵が丘陵の頂点で部隊を転身するために部隊を止めた瞬間を狙って高順は横合いから赤騎兵に突撃する。反対側からは曹性の別働隊が赤騎兵に突入してくる。そしてそのまま乱戦に突入する。
高順は赤騎兵を叩き落としながら呂布を探す。
見つけた。
呂布は黒騎兵の副長である曹性を叩き落としているところだった。左右には魏越と成廉もいる。高順は愛馬を呂布に向けて駆ける。その時に張遼率いる青騎兵も乱戦に突入してきた。張遼には魏越が向かい、高順には成廉が向かってくる。
「高順の旦那。今日こそ落とさせてもらいますよ」
高順の大刀を成廉は戟で受け止める。成廉の表情には獰猛な笑みが浮かんでいる。おそらくは高順も似たような表情を浮かべているのだろう。
「高順の旦那を仕留めたら酒三杯。張遼は酒一杯。魏越に張遼は盗られそうなんで俺は高順の旦那をいただきますよ」
「相変わらずよく喋る男だ」
「黒騎兵の曹性だってよく喋るでしょうよ」
会話をしながらも攻防は続く。横目で呂布を確認すると戟を肩に担いで楽しそうに高順と成廉の一騎討ちと張遼と魏越の一騎討ちを眺めている。
そこにあるのは圧倒的強者の余裕である。
「余所見とは余裕ですな」
成廉の渾身の一突きを高順は刹那で躱し、そこでできた隙に大刀を叩き込んだ。その一撃を受けた成廉は落馬した。
落馬した成廉には目もくれず、高順は呂布に向かって駆ける。高順の姿を確認した呂布は楽しそうに戟を構える。
「来たか兄弟」
「来たぞ呂布殿」
その会話と同時に二人による一騎討ちが行われる。呂布の一撃を高順は大刀で受け止めるが、あまりの勢いに愛馬ごと吹き飛ばされ落馬しかける。高順が態勢を立て直した時には既に眼前に呂布が来ている。
振り下ろされる戟を高順は受け流しながら、大刀の柄の部分で呂布を殴りかかる。だが呂布はそれを片手で受け止める。
渾身とは言わないまでも高順の一撃を片手で受け止める呂布に高順は冷や汗をかくと同時に、高揚感が身体を駆け巡る。
これだ。これこそが呂布殿だ。
圧倒的な武。他者から見れば恐怖しか抱かないであろう武勇。だが、そこに憧れを持つのが并州の武人達だ。呂布に並びたいと思っている魏越や成廉を筆頭にした赤騎兵。超えたいと思っている黒騎兵と青騎兵の兵士達。
高順も当然のように呂布を超えたいと思っている。幼少期から呂布の強さを見てきたのだから他の誰よりもそれは強い。
「呂布殿。勝負」
呂布と高順が二十合を超える打ち合いをしている時、張遼が横合いから突っ込んでくる。その背後からは魏越が追って来ている。おそらくは乱戦で逸れた一瞬の隙をついて張遼は呂布と高順のところに来たのだろう。
高順と張遼は打ち合わせもなしに呂布に同時に斬りかかる。二人の渾身の一撃を呂布は高順の大刀を戟で、張遼の矛の柄を素手で掴む。
驚愕している張遼を呂布はそのまま持った矛を振り回して張遼を落馬させる。そして返す一撃で高順に戟を叩き込んでくる。高順も大刀で一撃を防ぐが、大刀ごと吹き飛ばされて高順は落馬した。
呂布は落馬した二人を見ながら笑う。
「俺の勝ちだな」
今回の赤騎兵対黒騎兵・青騎兵連合の模擬戦は呂布率いる赤騎兵の勝利で終わったのであった。
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