第14話 運命を
「ふふっ……ごめんなさい。だって貴方たち、とっても息ピッタリの仲良しに見えるんだもの」
『はぁ!? こいつの影に目ぇやられちゃったんじゃないのアリシア!!』
「俺はそんなことしていないよ。……アリシアもこう言っていることだし、仲良くしてよ。光の大精霊さん」
『絶対に嫌!!!!』
ウィンクは鋭くフレドリックを睨みつけ、そして勢い良くそっぽを向いた。もう目も合わせたくない! とその行動が示している。
かと思えば、早く今後とやらを話し合いなさいよ、と話を先に進めることを促してくる。これは早くフレドリックを追い出したいだけか、なんてアリシアはすぐに思い至り、苦笑いを浮かべた。
フレドリックの方に視線を移すと、彼も同じようにアリシアを見つめていた。目が合ったことを少し気恥ずかしく思っていると、彼が微笑みながら口を開く。
「それじゃあ、お言葉に甘えて……アリス。俺たちは精霊王アニミメント様の祝福の
「……ええ」
肩の上に座る大精霊がより一層不機嫌になり、暴風雨が激しく窓を叩いているのを横目に、アリシアは頷いた。
「精霊王の祝福があるとなれば、精霊との協力によって発展していった国は、この結婚を認めざるを得ない。……でも、今度は婚姻関係になったとはいえあまり近づくなとか言われるかもしれないし、とにかく俺たちの関係にとやかく言われそうな予感がする。……まあ、そっちはどうとでもなるから、俺としては正直どうでもいいんだけど」
アリシアは思わず首を傾げる。そっち、という言い方は、まるでもう一個不安要素があるような印象を受けた。
ああ、ウィンクたちのことかしら。なんて予想を立てていると……フレドリックはふと、アリシアの手を取る。そして腰を低くしたままアリシアを見つめ……その瞳は、とても不安そうに震えていた。
「アリス……将来的に俺と結婚することが決まってしまったわけだけど……嫌じゃ、ない?」
思わずアリシアは、その橙色の双眸を何度か瞬かせてしまう。
呆気に取られてしまったのだ。まさか、国とか大精霊とか上級生とかを軽くいなしてしまうあのフレドリックが、自分の前で、そして自分のことで、ここまで自信がなさげになっているなど。
その顔は確かに、嫌だと言われたらどうしよう、と書いてあって……思わずアリシアは、彼の頭に手を置いた。
「……アリス?」
「ふふ、そこまでしょぼくれた貴方の顔を見られるのはとても貴重ね。……嫌なわけないじゃない。むしろ、とても嬉しいわ。……私とリックは、将来的にそういう関係になれないんじゃないかって……思っていたくらいなんだから……」
アリシアはフレドリックの頭を撫でつつ、そう告げる。後半の方は、小声になっていってしまったが。
一度は、もう二度と会わないことを選ぼうと思っていた。でも彼が自分を手放さないと誓ってくれて、自分もその覚悟を持った。……それでもやはり、それ以上を望んでしまうのはいけないことだと、心のどこかで自らを戒めていたのかもしれない。
──犬猿の仲でいなければいけない。でも彼と顔を合わせ、言葉を交わせる。それだけで、十分幸せじゃないか──。
きっと無意識に、それ以上高望みをしないように、していた。元の関係に戻ることを、諦めていたのだ。
だが再びフレドリックが、自分に手を伸ばしてくれた。決闘に打ち勝ち、将来的な婚姻関係を約束してくれた。
彼は何一つ諦めてなどいない。その結果、こうして一歩進んだのだ。
「……ありがとう、リック。貴方は本当にすごいわ」
アリシアの瞳から、一粒の涙が零れ落ちる。フレドリックは小さく目を見開くと、その涙を指先で掬った。
「……アリス。俺の思いは、ずっと変わらないよ。何を犠牲にしてでも、君の思いを守りたい。
……そして、強欲だけど、俺は君が欲しいんだ。本当は、誰の目にも晒したくない。誰にもあげたくない。俺とアリシアの仲を
真っ直ぐに見つめられて、重いまでの思いを吐露される。アリシアの髪を
そこまで愛してもらえているのが、嬉しい。もちろん、外に出してもらえなかったり他者を傷つけられては困るが……そこまで思われているということなら、こんなに嬉しいことはなかった。
「……リック、私一つ、謝らないといけないことがあるわ」
「……うん? なんだい?」
「私……貴方と共にいることを、心のどこかで諦めていたのだと思うの。私たちの運命は、ここで違えてしまったんだ、って……。でも貴方は違った。貴方は、そんな運命すら跳ねのける勢いで……もう、私、本当にびっくりしたのよ。私の知らないところで、私の婚約者の座を賭けた決闘が行われることになってるんだもの」
「はは……ごめんって……」
「ふふ、冗談よ。……貴方は、上位存在の決めた運命すらきっと変えてしまうんだって……そう思ったの。だからね、私も、信じてみたい」
婚約者になれたものの、考えることはまだまだ沢山ある。肩に乗って、不機嫌そうな顔をしつつも事の成り行きを見守っている大精霊たち。自分たちがこうして近づくだけで起こってしまう災害をどうするのか。国にどう説明するか。また何か口出しをされてしまったら。……この場で考えるだけでは、とても答えが出なそうだ。
それでも。
「貴方と共に、手を取って、笑い合って過ごせる、そんな未来を……私も、信じたい。望みたい……掴みたい」
出来るかしら? アリシアは、答えの分かりきった問いかけを投げかける。
フレドリックは微笑み、アリシアの手を取った。未来なんて待たない。今からやってみせる。……そう言った彼の声を、アリシアは聞いた気がした。
「もちろん。俺たち二人なら、向かうところ敵なしだよ」
アリシアも笑う。確かに、光の大精霊の加護と闇の大精霊の加護を受けている者が、ここに揃っているのだ。恐れるものはあまりないように思える。
……なんだか、今まで気にしていたことがちっぽけなものに思えてきた。もちろん、油断は禁物だけれど。……ずっと恐れて足踏みばかりしている必要は無い。
隣に、貴方がいるなら。
この先に何があるとしても、温かな未来が迎えられるような気がするのだ。
◆ ◇ ◆
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