第25話 全て明るみに
黒い靄はみるみるあの人達を飲み込んでいく。
(姿が見えなくなってしまいそう……)
クラウスやティルへ靄は吸い込まれていくが、出てくる量が多すぎてどんどんと黒い靄が留まり続けていく。
「クラウス、そろそろ終らせた方が良いのではないですか?」
「そうだな……そろそろ仕上げに入ろうか」
クラウスは何やら書類を取り出すと、ひらひらと目の前で振って見せた。
「子爵、残念ながら我々の結婚を無効にすることは出来ません。 貴方とカレンは絶縁したのです。これは法的拘束力があります。ほら」
父が焦ったように駆け寄ってきて、クラウスから書類を奪い取った。
そして目を通しているうちに、赤い顔がだんだんと青くなっていった。
「な、な、なんだと……? こんなの認めた覚えはない! デタラメだ!」
書類をビリビリと破いて地面に叩きつけた。
そんな様子を気にもせず、クラウスは皆に向かって優雅に話し始めた。
「皆様、どうしてカレンが社交界に顔を出さなかったか説明いたしましょう。彼女はこの者達から使用人として扱われていたのです。彼女は家族として扱われていなかった」
クラウスの話に皆は興味津々で聞き入った。
「学校へも通えず、給料ももらえず、不当に働かされていました。皆様がカレンの姿を見たことがなかったのは、これが理由です。そのため司法の力を借りて、家族との縁を切らせたのです。そして晴れて自由となったカレンと私は、結婚することになった……」
「まぁっ……そんなことが。なんて酷い家なの!」
「カレン様、お可哀想に」
「クラウス様の判断は素晴らしい。リドリー子爵家は貴族の恥だ!」
皆があの人達に向かって厳しい目を向けている。
自分達のしてきたことが明るみになってしまった三人は、開き直って皆に向かって叫んだ。
「黙れ! お前ら何も知らないくせにっ……我が家のことに口を出すな! こんな穀潰しを養ってやったんだ。感謝してほしいくらいだ! こいつが誰の金で生活してたと思ってるんだ!」
「そうよ! 私たちは息子が欲しかったのに、こんな役に立たない娘を何年も養ってあげたのよ!」
「私はカレンの出来が悪いから使ってやっただけなの。私は悪くないわ!」
(無茶苦茶言っていることに気がついていないのかしら……)
靄を吸われ過ぎると正の感情が暴走すると聞いたけれど、その状態に近いのだろう。
(まだあまり吸われていないはずなのに。この人達の性質なのでしょうね……)
今更失望したりしない。私はたまたまあの家に生まれただけ。その縁も切れた今、彼らがどうであろうと関係ない。
今はただこの状況を見守るだけだ。クラウスの言われた通り、私は隣にいればいいのだ。
クラウスは三人の暴走を至極楽しそうに見ていたが、「誰の金」という単語にピクリと眉をひそめた。
「子爵……あなたの言うお金とは、横領で稼いだ金のことですか?」
「何のことだ! 俺は横領なんか……」
「私が更迭した大臣の何人かは、貴方に金品を不正に譲渡していたようですね。こちらも証拠が揃っていますよ」
ティルがクラウスにさっと近づいて、分厚い封筒を渡す。どうやらその中にたくさんの証拠が入っているようだ。
「なっ……馬鹿な!」
「派手に稼いでらっしゃったようですね。その割に、家の財政状況は芳しくないようですが」
クラウスが封筒の中から書類の束を取り出し、パラパラとめくりながら我が家の財政状況を公開していく。
「……黙れ」
「ご家族そろって浪費三昧のようですね。これでは生活が苦しくても当然です」
「子爵家は羽振りが良いと聞いていたが、まさかそんな!」
「リドリー家はパーティーでもいつも華やかでしたのに……」
「使用人も雇えないのか?」
派手な金遣いをしていたリドリー家の財政状況に、皆が興味津々だ。
皆不思議だったのだろう。大した仕事もしていないのに、お金を湯水のように使うリドリー家のことが。
「あぁ、そういえばミシェルさんはもうすぐご結婚される予定だったとか」
クラウスが思い出したようにそう言うと、ミシェルが肩をビクリと震わせた。
「もうすぐお相手から破談の連絡があるでしょう。リドリー家の実態をご連絡したところ、大変感謝されました」
「そんなっ……」
「何てことを!」
母とミシェルの悲痛そうな声は誰にも届かない。
皆はどんどんと明るみになるリドリー家のスキャンダルに夢中になっていた。
「他にもまだお話しましょうか? 例えば……ミシェルさんのご成績に関する話とか」
「口を閉じろ!」
父が近くのテーブルにあったグラスを掴み、クラウスに向かって投げつけた。
グラスはクラウスの横を通り過ぎ、壁に当たってガシャンと音をたてて粉々に割れてしまった。
「……まだ分かりませんか? あなた方の悪事は全て調査済みです。口を閉じた方が良いのはあなた方ですよ?」
「っ……!」
父はさらに激高し、ワインの瓶を手に持った。
それを投げつけようとした時、低く落ち着いた声が聞こえてきた。
「双方そこまで」
口を開いたのは参列者の一人、国王の使者だった。
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