ひととき

「みなさん、これが最後の追い込みです。日の出まで残り十八分は己らの舞と技で確実にけものの動きを封じましょう」


 うむ、舞はできるが……こんな疲労状態で技を使える者はいるのか。ぼくは無理だ。


「と思いましたが、技を使える者は少ないでしょう」と総隊長殿が前言撤回してしまえば、しばらく荒い呼吸音だけが響いた。


 皆疲れている、作戦を立てるよりも呼吸を整えるのでいっぱいいっぱいだ。ならば男子として、そして新人隊長としてぼくが前線に立ちけものを引き付けましょう。


「――五属舞を使わせていただきます。技を使えるほどの体力は残っておりませんが、攻撃を避けつつ反撃はできると思います。夜明けまでぼくが頑張りましょう」


 型も使えなければ武器へ歌を乗せることもまだできていないけれど、型を使わない基本の五属舞であれば夜明けまでけものの動きを止められるはず。何よりぼくは長男坊だ、守らねばならぬものがたくさんある。


 と、総隊長殿はぼくの肩に手を置いてきた。どうやらぼくの作戦に乗ってくれるのだろう。


「十番隊長、いま冗談はおやめなさいな」と笑顔の総隊長殿は諭すように言う。


 あれ? ぼくの作戦を冗談で受け取ったのですか。あ、そうですよね、ぼくは隊長と言えど牡丹派での扱いは新人隊長でした、出しゃばってごめんなさい。


「向こうも死に物狂い、五属舞とて技無しに挑むとなれば死んでしまいます」と五番隊長殿。


「夜明け間近、フォルスの生成、この二つの条件でけものはさらに強くなる。前線に出てこなかった自分の隊員の分まで頑張ろうって気持ちは分かるけど、ここは牡丹派の夜禅であっていのち優先、いのちは無駄にできないのよ」と二番隊長殿。


 ですよね。うん、なんかぼく、告白して振られたような感覚を味わっているのだけど……いや、実際は振られていないのですけど振られているような感覚を初めて経験していますよ。ぼくの作戦は脳筋でしたか、そうですよね、ぼくはよくバカと言われるんですよ。


 と、ぼくは先ほどの隊長たちの言葉に何も言い返せなくなっていた。お恥ずかしい。


「では十番隊長、わたしがお供します」「ならわたしも」『わたしも』「わたし……いや、五属舞は五人いれば十分か」「途中で誰か限界迎えなければね」「五人なら技無しでも大丈夫でしょう」


 ぼくの挑戦に、木の股から生まれたようなぼくでも少々驚いた。牡丹派には五属舞を使える者が八人いるのか? もしや隊長の皆が五属舞を使えるのだろうか。


「あらそう。それでは五属舞を、一、三、四、七、十に頼みます。残りは五属舞の支援をいたしますので、存分に舞い踊ってください」


 そうこうしているうちに、けものはフォルスの生成を終えたようだ。


 ではけもの殿、日の出前のお食事は止めていただきますよ。その果実は現世界の人々の為に夜禅部隊がいただきます。

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