第18話 憂鬱

史乃先輩のくれたパンティー。おかげで久しぶりに一人で。

 どうしようか、先輩は好きだけど、だからこそ本気になると、いずれ伊都美のようになるかも。


 なるようにしかならないことで朝まで布団の中で悩んで。

 それが新学期一日目だ。


 始業式は、つまらない校長の話を聞いて、教室でホームルーム。あとは部活に行って、のはずだった。


 が、なぜかここで新任の先生の紹介があった。

 前の三年生男子がざわついた。


「おい、美人じゃないか」

 そんな声が交わされるのが聞こえてくる。つまり女性ということか。


「おはようございます、二学期から国語を担当する藤野薫です」

 亮は、耳を疑った。そして気が付いた。秋になったらわかるってこのことだったのかと気が付いた。


「おい、住谷、今日の昼、図書室にこいって、新任の先生が」

 ホームルームの最初に担任が言った。


「お前よく美人から呼びされるな」

 担任が冗談とも本気ともつかない口調で言った。


 クラスの特に男子の視線が亮に刺さる。

「小学校の時の担任だったんです、ついこの前まで、それで図書委員だったから」


「なあんだ、教師と生徒のとか思ったのに」

 女子の誰かがいい、クラスに笑いの渦が起こった。


 だれかしらないけど、さんきゅ、うるさい詮索はごめんだった。

 ただでさえ、亮は図書室ということで気が滅入りかけたのだ。


 問題はもう一件ある、こっちは亮の気持ち次第で楽しくなる、はずだった。

 始業式の日はホームルーム以外何もない。


 取りあえず昼までは、部活だ。

 そこまでの予定は変わらない。


 音楽室の扉を開けたら、先に来ていた上水流さんが無言で近寄ってきた。何か微妙に怒っているような。

 おはようございます、の挨拶をする暇もなく、いきなり、手をつかまれドア横のレコード保管室に連れこまれた。


「住谷君、昨日、史ちゃんとどこ行ったの」

 あちゃ見られていたか、そりゃそうだろう。二人の家は近所どころでなく間に三軒置いただけの位置にある。


「先輩に、お祭り連れていけって言われて」

「で、君はどうなの、史ちゃんのこと」


「どうって……」

「ごまかさないで。君、史ちゃんがずっと君のこと好きだったの知ってた?」


 え、ずっと?

「でもさ、伊都美ちゃんと付き合い始めたでしょ、だからあの子諦めてたんだ。でも伊都美ちゃんアメリカに行ったじゃない」


 そうだったのか、まったく気が付かずにいた自分に少しばかり腹が立った。

 みんなで帰るとき史乃先輩は、自分と伊都美をどんな思いで見ていたんだろうと。


「まだ君は、伊都美ちゃんのこと引きずっているよね、当たり前だけど。そんなホイホイ乗り換えれないのはわかるけど、史ちゃんのこと大事にしてあげて」


 そこで、上水流さんはちょっと深呼吸をした。

「ついでに言うと私も好きだったんだよ」


 亮は言葉を失った。

「冗談よ、ちょっといじめたくなっただけ」


「今日から、文化祭に向けての曲を本格的に練習します。今日はまずボギー大佐。

 中沢さんが転校されたので、フルートパートに、友達を頼みました。あと男子が3名新たに入部します。みんな明日から来ます」


 史乃先輩は、いつもと変わらない。ちょっと安心した。

 最近になって、亮も楽譜が読めるようになっている、どうも小学校の頃は食わず嫌いだったみたいで、読めるようになると一気に楽しくなった。

 考えてみればこれも伊都美のおかげだった。


 昼、気が重い。

 図書室が、遠い。


『都合により休館、ごめんね』

 扉にはしんこ先生の手書きの札がかかっていた。

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