第32話 迷惑系配信者さん、こんにちは

 それは換金のため、真白とともにギルドに行った時のことだった。


 オレたちはアイテムを提出し、鑑定を待っている時だった。


「お。最近人気のハルカちゃんじゃーん」

 軽薄そうな声が聞こえた。


 そこにいたのは、青色をベースに金を混ぜたような派手な髪形をした男だった。

 じゃらじゃらとアクセサリーをつけており、服装は見るからに高級そうなブランド物で固めている。

 視線は鋭く、常に他人を見定めるような目つきだ。


 一見瘦せ型に見えるが、腕やシャツから覗く胸元は筋肉質だった。

 腕にはタトゥーが入っている。


 まったく見覚えのない男だ。


「ハルカくん。知り合いですか?」


 真白が言うと、男はわざとらしく驚いてみせた。


「おいおいおい。マジィ? オレのこと知らないの? びっくりなんだけどォ?」


 男は手慣れた動作で髪をかきあげると、口を開いた。


「オレは蒼獅アオシ! 蒼獅子TVの探索者――蒼獅でっす! はい、っつーわけで、最近話題のハルカくんに突撃インタビューでぇっす!」


 いうと彼は配信機材でオレのことを映す。

 というか誰だ。

 蒼獅なんて、前回の世界線でも聞いたことないが……?


「え? マジで俺ちゃんのこと知らないの? 俺ちゃん登録者50万よ? 君、10万ちょっとでしょ? 先輩のこと、敬わなきゃだめでしょ」


 蒼獅は馬鹿にするように笑った。

 迷惑系ってやつか? かなり態度が悪いように見える。


「そんで君、短期間でバズったらしいじゃん? 俺ちゃんがコラボしてあげよーか?」


 もし変に会話などを切り抜かれたらめんどくさいな。

 オレは自衛のために配信機材を動かすことにした。


「そんで、コラボの報酬はそっちの子どもが手に入れてた火精霊でいいぜー?」


 真白がぎゅ、と自分を抱きしめるようにして身構えた。

 そして強く男を睨みつけている。


「だ、だめです!」


「子どもは黙っててね。今はお兄さんたちのお話し時間だからさぁ。で、どうかなハルカちゃん。悪い話じゃないと思うけど?」


「冗談だろ? 精霊をよこせって? できるわけがない。それに火精霊はオレのものじゃなくて、真白さんのものだよ」


「それこそ冗談じゃん? そんな子どもが精霊扱えるわけねーんだよなあ。はい論破っと。だから君が貸し与えたんだろ? 違うのかな? そんで俺ちゃんレベルの人間がコラボしてあげるっていってんだから、お礼にそういうのよこすのは、当然でしょ」


「ちょっと聞き捨てなりません」


 むん、と真白がハルカを守るように前に出る。


「わたし子どもじゃないです!」


「はいはい」と蒼獅が鼻で笑う。


「ハルカくんより、お姉さんなんですけど!?」


「は?」


「二十歳なんですけど! 高卒認定、持ってるんですけど!?」


 それを聞いて蒼獅が笑う。品性のない笑い方だ。


「ぎゃは。ハルカちゃん、君さあ。そんな幼女の後ろに隠れてて恥ずかしくないの? 二十歳なんて嘘つかせてさあ」


「うそ!? うそじゃないですよ!!」


「はいはい。それでハルカちゃんどーすんの? 俺ちゃんとコラボしようや」

 蒼獅はにやにやと笑いながらいう。


「する理由がない。なんでオレがあんたとコラボしなきゃならないんだ?」


 オレがそういうと、蒼獅は勝ち誇ったように口を開いた。


「する理由がないんじゃなくて、できないんだろ? なあ、ハルカちゃん。君さ、この前の精霊退治のやつCGでしょ。こんな子どもに倒せるわけないじゃん。だからさ、あの火精霊もCG。違うかぁ? 違わねえよな?」


「オレはCGなんて使ったことないし、真実しか配信してない。だが、あんたは聞く耳を持たないようだから、何言っても無駄みたいだな」


 蒼獅は配信機材がある方向に向かって、ビッと人差し指を立てた。


「はい! っつーことで俺ちゃんこと蒼獅の突撃TV! 今回の検証は想像通りだったね! ハルカちゃんねるのハルカ、彼はやらせとCGの可能性が非常に高い! 根拠は三つ! 一つ、火精霊を出して証明すればいいのにしない。二つ、幼女に守られて震えてる! あともう一つは――まあいいや。とにかく、クソ雑魚陰キャの目立ちたがりってことですね~」


 蒼獅は得意そうに言っているが、オレからしたらどうでもいいことだった。

 心にさざ波一つ立たない。


 だが『やらせ系配信者』というレッテルが貼られるのはよくないな。

 一度そういった印象がついてしまえば、これから何をやっても疑う人が増えるだろう。


 さて、どうするか――と考えていると、真白が何かをつぶやいていた。


「は、ハルカくんになんてことを……!」

 真白がぷるぷると震えている。


 そして空気とは違う何かが肌に触れたような感触。

 それは魔素だ。


 真白の精霊力の高まりを、感じた。


――こんなところでやる気か!?


「やってやりますよ! ひーちゃ――!」

 真白が地獄火蜥蜴を呼び出そうとした――ところで、オレは止めた。


「真白さん。だめだよ。こんなところで呼び出したら、問題になっちゃうからね。まだ探索者登録したばかりで立場も弱いから、ちょっとよくない」

――まだギルドと揉めたくはないからな。


 たしなめると真白は申し訳なさそうな顔をしながらいう。


「で、でも、ハルカくん――」


 その様子を蒼獅が笑う。


「見てるか? 視聴者の皆!? 彼らは演技まで完璧だな!」


「……えんぎ、ですか?」


「戦えない理由づくり、うまいねぇ~。役者だねえ~。『俺の力が暴走しちまう……! 強すぎて俺の力は使えねえ……。俺の力が使えなくて助かったなお前』ってやつだねえ。おもろ。演技系配信者ハルカを、嫌わないであげてねぇ?」


 活躍して絡まれることはよくある。それをめんどくさがる有望新人探索者という図はよく見てきたが、これがそれか?


――いいや、違うな。


 逆にラッキー・・・だ。


「なあ、蒼ナントカさん。あんたダンジョン探索者なんだよな? 腕に自信あるよな?」


「まあ当然だよな? なに? 俺ちゃんが探索者じゃない一般人ならボコっちゃおうって? こわいねぇ~。でも残念。俺ちゃん、中級レベルの探索者なんだよね。つまり探索者の上の方ってこと。ぼこれなくて残念だったなぁ~?」


「オレの実力が偽物だっていうならさ。勝負するか?」


「あー」

 蒼獅は少し考えるような仕草をする。


「もちろんタダじゃねぇ~よな?」


「ああ。あんたが欲しいもんを用意してやるよ」

 オレが言うと、蒼獅は手を打った。


「あ、なるほど。そういうコト!?」


「どういうことだ?」


「あーーー。でもなあ、俺ちゃんあんまりヤラセは好きじゃねーのよ。だからさ、金払うから負けてくれっていうならそれなりに大金積んでくれよー? あとカメラの外でやろうな。ってことで、視聴者のみんな! オレが負けたらお金いっぱい貰ってるかもしれない。負けたらメンゴ!」


 そう言って蒼獅は視聴者に手を合わせ謝罪のポーズをとる。


「お。蒼ナントカさんこそ負けたときの言い訳作りご苦労様。気づいてると思うけど、こっちも配信回してるんだよ。変に話し合いがあったと思われたくないから、お互いノーカットで行こうぜ? ってことです。視聴者の皆さん。ヤラセなし、ぶっつけ本番の突発バトル配信ですよ!」


「ずいぶんと吹くねぇ、ハルカちゃん。あんまり俺ちゃんのこと舐めてんじゃねーぞ? んで、俺ちゃんに欲しいもの用意してくれるって何よ」


「真白さんの火精霊と同等の精霊を用意してやるよ。蒼ナントカさんが勝ったらな」


「はぁ~~。なるほどねえ。同等のモノを賭けなきゃ戦わないよってことかぁ~。君頭回るねえ。どうしても戦いを回避したいんだ。存在しない高級品で賭け事しようってかァ」


「ああ。蒼ナントカさん。あんたは何も賭けなくていいよ。オレだけでいい」


「あ”?」


「だってさ。可哀相だろ。大人と幼児がかけっこすんのに、負けた幼児からモノとれないだろ? 絶対に勝てない蒼ナントカさん」


 オレが言うと蒼獅は額に青筋を浮かべた。


「てっめぇ……。精霊を用意すんの無理だったら俺ちゃんに賠償金払えよな。な、視聴者のみんな」


「いいぜ。払ってやるよ。ただあんたは何もしなくていいよ。負けるの確定してるから可哀想だもんな」


「ま、俺ちゃんが負けたらなんか罰ゲームとか受けてやるよ。視聴者のみんな、罰ゲーム考えといて?」


 心配そうに腕を引く真白にオレは「大丈夫だよ」と微笑んで見せる。


「おっけ~。じゃあいっちょ遊んでやろっかなぁ~」


――しかしこのまま戦うというのもつまらないな。

 オレが勝つのは当然だが、少しくらいいい勝負をしてほしいものだ。

 一秒足らずで終わったらオレの視聴者も楽しめないだろう。


「それで蒼ナントカさん、ハンデ戦でいいかな?」


 オレが言うと蒼獅は大笑いをした。


「ぎゃは。やっぱハンデ欲しいの? 俺ちゃんと戦うのにハンデ欲しいの? あげちゃおっかなぁ? ハルカちゃん弱そうだもんねぇ。でもや~~~っぱ、あげな~い。勝負だからねぇ」


「いやさ、そうじゃなくてね。蒼ナントカさん。ハンデどれだけほしい? 好きなだけやるよ」


「あ”?」


「あんたが一秒で沈んだら、視聴者の皆さんも楽しめないだろ?」


「んだとてめえ……」

 先ほどまでの軽薄なふざけた態度から、一転威圧的な態度になる。

 よほど怒っているのだろう。


「いらねえよんなもん」


 蒼獅はいらないという主張だった。

 だからオレは配信の視聴者の皆さんに聞いてみた。


「視聴者のみなさん、オレは彼にどれだけ上げたらいいと思う? ハンデ。あと蒼ナントカさんが負けたときの罰ゲームも考えといてくださいね」




「てっめえ……」




「ああ、そうだ。蒼ナントカさん。先に一つ言っておくことがあるんですけど……」


「もう謝っても許さねえぞ? こっちの視聴者だって、俺ちゃんに対する態度にキレてんだよなぁ~?」


「取れ高ありがとうございます! わざわざオレにやられるために出てきてくれて嬉しいです! じゃあお互いギルドで契約書作って、バトれる場所行きましょうか!」


「マジでぶっ殺してやんよ、てめえ」




   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆




【探索者対決契約書】


 本契約は、風見遥と大鳳蒼獅の間で、以下の条件に基づき締結される。


1.対決の内容

 風見遥と大鳳蒼獅は、ギルドの定める場所およびルールのもとで決闘を実施する。

 対決の結果に応じて、以下の条項に基づき、各者の義務が発生する。


2.対決の結果に基づく義務

 風見遥の勝利の場合:

 大鳳蒼獅は、視聴者から募集した内容に基づき、罰ゲームを実施する。

 大鳳蒼獅の勝利の場合:

 風見遥は、中級火精霊特殊固体と同等の精霊を大鳳蒼獅のために用意し、大鳳蒼獅がその精霊と契約できるよう最大限の努力を行うこと。

 風見遥の努力にかかわらず、大鳳蒼獅が契約できない場合、罰則は発生しない。

 風見遥が中級火精霊特殊固体と同等の精霊を用意できなかった場合、時価一億円(現状の価格として見積もり)を大鳳蒼獅に支払うこと。


3.その他

 本契約は、ギルドによる承認を得て、法的拘束力を有するものとする。

 本契約に基づく義務の不履行や違反に対しては、ギルドの定めるルールや制裁に従うものとする。


 以上の内容を確認し、両者は本契約に同意し、以下に署名する。


 風見遥: ________________   日付: //____


 大鳳蒼獅: ________________  日付: //____


 ギルド認証: ________________ 日付: //____


 ※場所、ルール、罰ゲーム等は別紙参照のこと。



   ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



名前: 大鳳 蒼獅(オオトリ アオシ)


年齢: 25歳


外見:

深い青をベースにした中途半端な長さの髪。一部は金色に染められている。

視線が鋭く、常に他者を計るような目つき。

ハイブランドのものを好み、派手なアクセサリーやネックレスを身につけている。

ブレスレットやリングも多用。

痩せ型だが筋肉質。

タトゥーが腕や首筋に施されている。


特技:

彼は軽薄な言動とは裏腹に、視聴者をなんとなく信じさせてしまう説得力がある。

一般的にみて嫌悪される態度をとるが、悪いとする相手にその態度をぶつけているため、ファンも多数いる。

やらせ野郎だから何やってもいい、詐欺師相手だから何やってもいい、そういった空気を作ることに長けている。

冤罪で相手を悪者に仕立て上げることすらする。

人の心の弱点や隠された秘密を見抜くのが得意。


性格:

自尊心が非常に高い。

自らを非常に高く評価しており、他者を低く見る傾向がある。

裏では策を弄したりするが、表向きは紳士的かつ魅力的に振る舞う。

負けず嫌いの短気で、思う通りにいかないといらだちを隠せない。

背景:

裕福な家庭で育ち、物心ついたときからネットやゲームに夢中。

家族との関係は良好でなく、自分の世界を築くために配信を始める。

20歳で配信を始め、一躍人気者となる。

しかし、その背後には他者を陥れる策略が多数。

そのため見る目があるものからの信用は薄い。






────────────────────────


あとがき


皆様、ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。

★、フォロー、応援コメント、おすすめレビューなど、とても嬉しいです!


あなた様のフォローと★が、この小説を書き進めるパワーになります!


すでにフォローや★でお力添えいただいている皆様には、重ね重ねの感謝を……!


これからも、皆様に喜んでいただけるような作品をお届けするために頑張りますので、今後ともよろしくお願いします!



もちぱん太郎

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