『やり直し』最強ダンジョン配信者! 突然10年前の世界に戻ったので全てをやり直す!

もちぱん太郎@やり直し配信者

第1話 10年前に戻ったからやり直す!

 死にたかった。


 オレは半ば自殺するような気持ちでダンジョンに潜っていた。

 オレは10年前からダンジョン配信者をしていた。

 しばらくして、一人の女性と婚約することになった。


 彼女の家族が病気になり、経済的な援助が必要だと知った時オレは自分自身を売り払うような契約を結んで、彼女に必要な金を得た。


 それからずっと他人のサポートや、替え玉をさせられていた。人気になることもない。

 しかし、お金はそこそこ得ることができた。

 これで婚約者と幸せに暮らせれば、それでいいと思っていた。


 しかし、それは全て詐欺だった。


 彼女に病気の家族などいなく、結婚資金や結婚後のための貯蓄を盗んで消えた。


 残されたのはオレを奴隷のように縛りつける契約だけだった。

 契約金は二千万だった。

 しかし、それは持ち逃げされてしまった。

 契約金の高さに、馬鹿なオレは騙された。

 内容がひどかったのだ。


『配信者契約』

 配信活動の全てを制御された。

 オレは許可されないと配信ができない。加えて内容や使用できる機器、スポンサーからの提供品を厳密に規定されている。


『収益分配契約』

 事務所やスポンサーが大部分の収益を持っていき、オレに残る収益はごくわずか。それでも契約を破棄すると高額な違約金が発生。


『専属契約』

 他の事務所やスポンサーとの契約、協力を禁止。オレが他のオファーを受けても、受け入れることは許されない。

 それ以外にも事務所の求めに応じて動画を作成する必要があった。


『ゴースト契約』

 オレは事務所の求めに応じて所属する他の配信者のふりをして、代わりに動画をとる必要がある。断れば莫大な違約金がある。


『違約金契約』: 契約を途中で破棄した場合の違約金が異常に高い。それによりオレは契約から逃れられない状況に陥っていた。


 これによってオレは休日もなく、早朝から深夜まで働き続けてきた。


 生きていても意味がない――。そう思って、オレは一人でダンジョンに潜った。



 おそらく、誰も到達したことのない深層まで潜れたと思う。

 死んでもいいと思っていたから階層など記憶していなかった。


 そこでオレは遺跡のようなものを見つけた。

 ダンジョン内に遺跡があることはたまにある。


 オレは遺跡の奥で光る玉を見つけた。

 それに触ると、玉がさらに強い光を発した。


 眩しくて目がつぶれそうになる。




『お前の望みはなんだ?』




 そう問われた気がした。


 反射的にオレは――。


――やり直したい。今度はオレが大人気配信者になって、とにかく楽しみつくしたい!


 反射的にそんなふうに思った。




 意識が、遠のいて、いく……。




 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ 




 目を開いた。

 明るい電灯の光がオレの目を刺すように刺激する。


 よく知っている天井だった。

 オレが住んでいる、狭いワンルームの部屋の天井だ。

 たった一部屋だけの、キッチンすら室内にあるだけの間取りの家。


 結婚資金などをためるために、引っ越しはしていない。

 オレが高校生のころからずっと昔から住んでいる安アパートだ。

 当時、父はおらず、母は海外で働いてた。


 いや、そんなことよりもオレはダンジョンにいたはず……。

 そう思ってから、一人で納得する。


――なんだ。夢だったのか。ダンジョンでトラップに引っかかる夢か。


 だがその夢には、どうにも強い現実感があった。


 コーヒーでも飲んで目を覚ますか。そう思って起き上がると、強い違和感を覚える。


 なぜか学生服がハンガーラックにかかっている。

 机には、ずっと以前使っていたパソコンだ。モニターも小さい。

 色のくすんでないソファ。

 壁紙も白い。


 ソファも、壁紙も、変色してしまったのをそのままの状態にしていたはずだった。

 自暴自棄になっていたオレは服も投げっぱなしにしていた覚えがある。


 机の上には、友達ととった写真が乗っていた。

 とっくに処分したはずの写真だった。


 それは高校生の頃の写真で、オレはまだ若々しい顔をしている。希望に満ちた瞳だ。

 夢破れ、恋人に騙され、死んだように生きていたオレとは違う、オレ。


 なんでこんな――? これも、夢か?


 そう思って自分の頬を引っ張るなどという古典的なことをやってみるが、痛みを感じた。


 オレは急いで鏡を見てみる。

 すると、そこには写真とほとんど同じ顔をしたオレがいた。


 高校生のオレだった。

 スマートフォンを見てみる。これも古い機種だ。

 そこに書いてあった日時は2013年の6月20日20時20分。


 オレの記憶にある日時から、ちょうど10年前だった。


 オレは意味の分からない状況に半ば混乱していた。


 だが。


「……もしかして、過去に戻ってきた、のか?」


 もし、本当にそうなら、それはすごいことだった。


 他人のために生き続けてきたオレ――。


 だけど。


 もし本当に過去に戻ったのなら、今度は自分のために生きるんだ。



 オレは頭の中で計算する。

 オレにあるもの、できること、オレの強みはいったいなんだ?


 未来で得た知識だ。


 これで前回とは違う、楽しい人生を送るんだ!









 オレはそのまま起き上がると早速パソコンを起動した。

 やること、思い付くことはいくつもある。


 オレは高校一年生に戻ったため、学業とダンジョン配信者の両立をする必要がある。

 またダンジョン配信者としての機材や、装備、スキルを購入するための資金を集めなければならないのだ。


 まずオレはYoutude(ユーチュード)に自分のチャンネルを作り上げた。

 他人のチャンネルの運営や動画編集などもさせられていたから、このあたりはお手の物だ。


 そして、他人の動画を見て漁る。

 このときの流行りは――っと。

 オレの知識より、かなり作り方が古く感じる。

 また、まだ配信者としての成功者がそこまでいなかったこともあり、配信活動をしている人間は少ない。

 ブルーオーシャン(競合がまったくいない)といえるほどではないが、決してレッドオーシャン(競合が多い)ではなかった。


 見てみると、まだ人気な動画はライブ配信というよりも、動画のほうが多いように感じる。

 ここから動画を作っていくか、今からライブ配信にするか。

 考えた末にオレは決断をする。

 少し時期は早いが、配信をしていこう。


 ここにオレは一足先にこれから流行っていく配信に乗り込むのだ。


 まずは収益化できるようにしていかないとな。

 そのためには、配信機材がいる。


 オレはそう考えて、机の奥に隠してあったお金を取り出す。

「あったあった」

 その額は二十万円ほどだ。


 オレは昔からずっと「お金は大事に」「こつこつ貯めるのが大事」だと教えられてきていた。

 それは親であり、両親であり、学校や社会からだ。


 だがそれは、無計画に使うのが間違いなだけだ。

――これをダンジョン配信者として成功するために使うのだ。


 この時代はまだダンジョンが現れてから五年程度だ。

 まだまだ成長中であり、これから大きく膨れ上がっていくダンジョン産業。

 オレが知っていて、世間には知られていないことはたくさんある。

 



 そんなことを考えていたら夜の一時を回っていた。

――明日は学校に行くから、そろそろ寝るか。

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