第28話 キツイ

 ※※※※

 それから数日後、私達はバラエティ夢見パレードの収録でテレビ局にいた。

 出番待ちをしていると、楽屋に共演の若手芸人、ハイトーン山口がやってきた。

「よお。今日もよろしくー」

「よろしくお願いします」

 私達は立ち上がって挨拶した。

「ねえ、LIPちゃん達って『スターライトブーケ』の花実雪名に役作りで会ってたんでしょ?」

 山口がニヤニヤしながら言ってきた。もしかして雪名さんのファンなのだろうか。

「その繋がりでさ、早川結音と友達だったりしない?」

「あー……」

 成る程。私達は思わず顔を見合わせた。

「えっと、花実さんから早川さんの繋がりは、無いです」

「あ、そっかぁ」

 あからさまにつまらなそうな顔をしてみせた。実際にあってもそんな下心丸出しの人に教えられないけど。

 早川結音とは、数年前、まだ一緒に同じステージに立っていた頃は知り合いではあったけど。もうほぼ他人で知り合いぶるなんて、さすがの私達だってプライドが許さない。

「山口さんって、早川結音のファンなんですか?」

 奈美穂が聞くと、山口は半笑いで答えた。

「いやいや、俺は花水木組のファンでさ。早川結音経由であわよくば、みたいな?」

「遠すぎますよー」

 茶化すように言いながらも、爽香なんかは完全にドン引きしている。

 気づかずに山口は続けた。

「花水木組ファンの中では早川結音は結構嫌われてんだよね。なんか、グループ踏み台にしてのし上がった感があってさ」

「え、そうなんですか?」

 思わずそう反応してしまった。山口は肩をすくめながら言った。

「ほら、売れ始めた途端にすぐにソロ曲だして、ちょっとドラマ出たらすぐに辞めて女優になるとか言い出してさ。なんかアイドルなんかやりたくなくて、知名度上げるためにアイドルなっただけみたいな発言も噂されたりしてさ、ファンの間では元メンバー顔もしてほしくないみたいな?」

「辛辣なんですね」

 思わず私は苦笑いした。

 先日、早川結音をネットで調べた時も、そんなコメントを見た。

『花実雪名より早川結音の方が主役向いてそう』

『結音に主演できる演技力無いと思います。アイドル役ってだけでしょ』

『原作では主役はキラキラしてるけど結構性格悪いアイドル。人殺す役だよ。花実雪名あってるけど、結音も性格悪いから合ってると思う』

『結音って裏で性格クソらしい。花実雪名が裏で性格いいのとは逆』

 本当の雪名さんは裏と表が逆なんだけど。まあこの評価に関しては雪名さんの努力の結晶だ。

 それにしても、早川結音はいつの間にこんなにアンチがついたんだろうか。確かに昔から結構気が強い人だったとは思うけど。

「山口さん、LIP-ステップさん、時間です」

 スタッフが呼びに来たので、この話はそれっきりになった。


「爽香、ちょっといい?」

 収録終わり、爽香が一人赤坂さんに呼ばれた。

「え、何?一人説教?」

「違うって。好葉と奈美穂は先に帰ってていいよ」

 赤坂さんに言われて、爽香は一人別室に行き、私と奈美穂は楽屋に残された。

「んじゃ、帰ろっか」

「あ、私爽香待ってます。今日この近くの美容室予約入れてたんですけど、まだ時間が余ってるんで」

「そっか。じゃあ私は先に帰るね。お疲れ様ー」

「お疲れ様!」

 私は奈美穂を置いて先に楽屋を出た。

 テレビ局内の廊下をダラダラ歩いていると、ふと、夢見パレードの知り合いのスタッフがいたので、声をかけようと近づいた時だった。

「LIPに新コーナ持たせるんだって?」

「ああ。ロケのやつな。今ちょっとキテるだろ?今のうちにちょっと出演多くしといたほうがいいって上の判断でな」

 ――もしかして私達の話をしてる?

 私は声をかけるのをやめて、少しだけ聞き耳をたてることにした。

「でも全員じゃなくてロケ行くの加美爽香だけなんだろ」

「ああ」

 さっきの赤坂さんに爽香だけ呼ばれたのはこの件だったのだろうか。成る程、爽香だけロケのコーナー持つんだ。……まあ爽香、夢見パレードで結構頑張って自分からグイグイ行くしな。爽香が選ばれるのは納得だ、うん。

 ちょっとだけショックを受けている自分の気持ちをグッと潰して私は一人頷いた。

 スタッフは私に気づかずに更に話を続けている。

「だってさ、加美爽香が一番若いじゃん?そりゃ加美にするに決まってるじゃん。売れてるならまだしも、売れてない地下アイドルなんて、10代超えたらキツイって」

 ……

 …………え。

 私は体が動かなくなった。なにそれ。そう思ってたの?爽香が選ばれたのは爽香が頑張ってたからじゃなくて……じゃあ私はもしかして、これからいくら頑張っても選ばれないってこと?もう遅いってこと……?

 私はふらふらと後退り、そしてスタッフの姿が見えなくなるまでぼんやりと立ち尽くした。





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