第46話 冒険者ギルドとVIP待遇
朝、アレク達と別れたオレオルは宿屋の受付で今晩も引き続き泊まるための手続きを終えた。
そして、その後すぐにクロに連れられて冒険者ギルドに来ていた。
なんでも、俺にあれこれ教え始める前に見ておきたい事があるから依頼を1つ受けさせたいらしい。
こうしてやってきた冒険者ギルド。
冒険者ギルドとは国公認の施設で、世界中にたくさんある。
その冒険者ギルドの役割は魔物や魔獣の討伐や商隊の護衛などの様々な依頼を集め、依頼主と受注者の仲介をする業務がメインだ。
だが、メインのその業務以外にも、街周辺の定期調査や街内美化などもあり冒険者ギルドの役割は多岐にわたる。
そしてそんな冒険者ギルドの建物を見て、オレオルはとうとう来てしまった…と思った。
「まずは雛鳥、お前の登録からだ」
「わ、わかった」
クロにそう言われ扉を開けて中に入ると中は結構混んでいた。
「体の大きい人が多い…」
クロの強者のオーラのせいで周囲の視線を一身に受けながらクロに連れられて冒険者ギルドの受け付けまで行くオレオル。
内心ではずっと『この日が来なければいいのに』とすら思っていた。
だが、ここまで来たことで『やらなきゃいけないならとっととすませてしまおう』と腹を括り、まっすぐ受け付けに向かうと職員の女性に話しかけた。
「冒険者登録に来ました…」
「登録ですね? かしこまりました、こちらの用紙の記入をお願いいたします。代筆も可能ですが必要ですか? 」
受け付けの女性はそう言ってオレオルに一枚の紙を差し出す。
「いえ、自分で書けます」
「かしこまりました、ご記入が終わりましたらこちらまでお持ちください。お手続き致します」
「わかりました」
オレオルは貰った紙を持って、記入用に設けられているスペースへと向かう。
記入用のテーブルで貰った紙を見ると、どうやら太枠の中の欄を自分で埋めるタイプの物の様で、すぐ終わりそうだった。
まぁ、冒険者ギルドは学校に行けない様な子も登録に来るし、登録は簡単にされてるか。
えーっと、名前は…オ、レ、オ、ル… よし。
次は…職業か。
商業ギルドなら薬師って書く所なんだろうけど…
えー…どうしよう。
冒険者ギルドでの職業って『あなたの戦闘スタイルは?』って聞かれてるのと同義だしなぁ。
それなら格闘家?
いやでも…俺って普段多い魔力に物言わせて結界張った上で逃げてるだけだしなぁ…
格闘家なんて書くのは本職の人に申し訳ない気もしてくる。
「なぁ、クロ…ここってなんて書けばいいと思う? 」
「その欄は空欄でいい」
「え、空欄でいいの?? 」
「お前、俺以外とパーティ組んで依頼受ける予定あるか? 」
「ない」
「なら、そこは書く必要が無い。そこに書いた職業が1番使われるのはパーティ募集や指名依頼の時だ」
「なるほど…そうなんだ…それなら俺にはいらないな! クロありがとう」
冒険者としてガッツリやるつもりなら大事なんだろうけど、パーティ組む気は無いし、冒険者としての俺に指名依頼が来るとも思えない。
指名依頼が来るとしたら商業ギルド経由で薬師ギルドの依頼とかだろう。
そして、そんな冒険者として活動する気のない俺をクロがわざわざ冒険者登録させようとしてる理由だが…
それはたぶん…俺がどこかで何かを討伐したりした時、俺が倒した事を知らない冒険者ギルドからの調査員が『ここにいたはずのヤツがどこにもいない』とかなんとかなって、冒険者ギルド側が混乱しないためだろう。
冒険者ギルド未登録の人がまじゅうや魔物を倒すとあれこれややこしい事になる事があるのだ。
それが無いなら極論、勝手に魔獣がいる所に行って勝手に倒せばいいだけだ。
正直…こんな事になる予定なんてなかったから、依頼を受ける側で登録なんてこれっぽっちもするつもりがなかった。
というか、しなくていいなら今からでもしたくない。
クロはクロなりに俺の事を心配してくれているからだという事にも昨日気づいたし、クロ以外に俺に魔法教えられる人がいるとも思えないから従うけど…本当に気が重い。
「えっと…年齢は17! 他は…『身分証となるものが他にない場合はご記入』…って事は俺には必要無いな」
俺には薬師証がある。それでいいだろう。
オレオルは記入の終わった用紙を受け付けに持っていき先程の女性に渡した。
「確認いたします」
そう言って記入済みの用紙を受けとった女性は魔道具にオレオルの情報を打ち込んでいる。
その魔導具は各ギルドにひとつある証明証を発行するためのものだ。
四角くて平べったい変わった形をしており様々な噂があるが、1番主流な噂はアーティファクトだという噂なので一般的にはそう言われている。
壊れた時はどうしてるんだろう…?
噂通りアーティファクトなら、今の技術力だともう作れないはず。
そして、作れないなら修理も出来ないはずだ。
オレオルがそんなくだらない事を考えている間に記入し終えた受付嬢がアーティファクトらしき魔導具の画面を見せてきた。
「オレオル様、お待たせいたしました…ご記入内容に間違いはございませんか? 」
女性にそう尋ねられたオレオルはその画面の内容を確認した。
「はい、ありません」
「ありがとうございます、それではこれより登録作業を行いますので身分証をご提示いただけますか? 」
「はい」
「お預かりいたします」
女性はそう言うと、預かったオレオルの薬師証を見て目を見張った。
そして、思わず…といった様子でオレオルの顔を見る。
受け付けの女性の目は『なぜこれを持ってるような方が冒険者登録を…? 』と雄弁に語っている。
そりゃあ、この女性からすれば、普通なら戦えないはずの薬師がなぜか危険な職業第1位である冒険者に登録しようとしているのだから、びっくりするだろう。
本来薬師は、依頼を出す側の人間だ。受ける側にはそうそうならないだろう。
混乱させて申し訳ありません。
でも、俺にはどうしょうもないんです。
「し、失礼いたしました…」
「い、いえ…大丈夫ですから」
気持ちはよくわかります。
その後すぐ、登録作業が終わった様で薬師証と共に薬師証と同じ大きさの銅色のプレートが手渡された。
冒険者ギルドから発行される冒険者証だ。
冒険者のランクは1部の例外を除いてGランクから始まる。
Gから徐々に、F、E、D、C、B、A、と上がり、そして最後にS…これが一般的には1番高ランクとなる。
G〜Eまでが初心者と言われ、DとCになれば中堅冒険者。
Bから上が高ランクと言われている。
Sともなればほとんどの者がちょっとした英雄扱いだ。
クロのESランクなどはもはや伝説扱いされている。
そんなクロが冒険者証を出せば──
「そ、それはっ!? 」
受け付けの女性が立ち上がった。
「E…E…E…ESランク冒険者証!!? 」
──こうなる。
「冒険者名変更の手続きをし…おい、おい? 」
「ギ、ギルド長を呼んでまいります!! 」
こうして、受け付けの女性は青い顔をしてそのまま奥へ引っ込んで行ってしまった。
「おい、今ミリーナちゃんESランクっつったか?」
「言った言った! 」
「あぁ、あの黒いやつだ…」
「ESランクって実在してたんだな…」
「オレも物語の中だけのやつかと思ってたよ」
ザワつく冒険者達の声を聞き、少し離れた所にいた為に事態を知らなかった者までもがクロがESランクだと知ってザワザワとし始めた頃。
「お待たせいたしましたっ…ギルド長がお会いになりたいとの事です。恐れ入りますがこちらへお越しくださいませんか? 」
見ているこちらまで緊張してきそうなほど緊張している女性からそう言われ案内されたのは、商業ギルドの時と同じ別室だった。
「ようこそお越くださいました!! お待ちしておりました!! 私はナスハワの街の冒険者ギル──」
「御託はいいからさっさと要件を話せ。俺は改名手続きに来ただけだ」
クロは冒険者ギルド長らしき人物の言葉をバッサリと切ると用意されていたソファにどかっと座り、そのすらりと長い足を組んだ。
え、偉そう…
いや、ESランクなら実際本当に偉いのか。
「も、申し訳ございません! ですがひとつだけ意見を聞きたい事がありましてっ…! 」
「話してみろ…」
だとしても態度がものすごく偉そう…
俺と話してる時と違って優しそうな感じも全くしてないし…
ギルドマスターが気の毒に思えてくる。
「は、はい…えーっとですね…今現在、帝国と国境を接している国の、帝国との国境沿いで起こっている植物の異常増殖と新種の突然発生に関して…その原因に何か心当たりがあるようならば聞いておきたいと…」
そういうギルド長の顔は真っ青だった。
「そりゃ帝国中から逃げてきた精霊共がそこにいるからだ、人間の難民と同じ様に精霊共が散り散りになればまた元に戻る」
「なっ、帝国領土内から精霊達が逃げ出している!?
それは本当ですか!? 」
「あぁ、やつら今回の戦争に新兵器とやらを導入するつもりらしいが、それを使うためとやらで国民からだけでなく、精霊からも魔素を奪い始めたようだ」
「し、正気か!? ヤツらはそうまでして魔素や魔力を集めて一体何をしようとしているんだ!? 」
ギルド長が自分の頭をかき乱してそう叫んだ。
「ねぇ、クロ。なぜなのかは一旦置いとくとしてもさ、精霊がいない土地とか魔物パラダイスにならない? 」
『精霊は魔物が天敵である』
これはこの世界の摂理だ。
だが同時に、『魔物は精霊が天敵である』
…これもこの世の摂理なのだ。
つまり、精霊がいれば魔素が淀んで魔物を生み出す事が減るし、その逆も然りだ。
「魔物の楽園…まぁ、そうなるだろうな」
だからこそクロは…あの日。
死ぬための準備中も欠かさず帝国を見張るためあの場所で自殺未遂を実行した。
というのも、クロはあの日あの洞窟で本気で死ぬつもりで準備して自殺を実行したが、同時に自分がここで死ぬ事がない事もわかっていた。
過去、未来から来ただろう自分が解決したとある事件を今の自分がまだ解決していないからだ。
だから…その事件を今の俺が解決するまではたぶん…自分は死なない。
いや、仮に死のうとしても…何らかの要因で死ねはしない。
死ねないのなら…これからもスピカの代わりに世界を守っていかないといけない。
それがスピカとの約束だ。
そして、世界を守っていくのなら、帝国から目は離せない。絶対に。
といっても、クロにかかれば世界のどこにいたとしても…どこか特定の場所を監視し続けるなど造作もない。
だが、距離が近い方が楽という点は他の人と何も変わらない。
だから…あの日、帝国領土内を最期の場所に選んだ。
まあ、帝国を見張るのとは別に…
クロがわざわざあの洞窟を広い帝国領土内の中から選んだのにはとある理由があるのだが…
それは今はいいだろう。
「魔物の楽園…!? 隣国がそんな事になったらこの街もとんでもない事になるぞ!? …魔神殿っ! この事は国に報告させていただいてもよろしいでしょうか!? 」
「好きにしろ」
「感謝いたします! 」
「要件はこれですんだな」
「は、はい! 」
「それならもう行く。この俺に時間をとらせたんだ、改名手続きは全部てめえがやっとけ」
クロは冒険者ギルドのギルドマスターにそう言うとオレオルに「行くぞ」と声をかけた。
「あ、お、お待ちくださいっ! 改名後のお名前をっ! 」
「改名後の名前は『クロ』でいい」
「「は? 」」
ギルドマスターとオレオルの声が重なった。
「あ、い、いえ…わかりました! このセーダンがたしかに手続きさせていただきます!! 」
え!?
改名って…そんな事までするの!?
もっとマシな名前ならともかく…"クロ"だぞ!?
「ちょ、クロ! 改名ってどういう事だよ!? 」
「……そんな事より雛鳥が受ける依頼見に行くぞ」
「そんな事ってお前! 」
オレオルの言葉に聞く耳を持たないクロはオレオルを引きずるようにして1階にある依頼ボードへと歩く。
「名前なんざ個人が分かればなんでもいい」
「な、なんでも? 」
「よほど変なのじゃなけりゃ文句は無い」
う、嘘だろ…おい。
見た目だけならめちゃくちゃ強そうでクールそうな大人の男って感じなのに…『クロ』って名前はそのよほどの中には入らないのか…
オレオルはようやく少しわかったような気がしたクロの気持ちが再びわからなくなった。
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お読み下さりありがとうございます!
※クロがやべえやつなのは標準です
VRMMOモノだと戦闘職が調薬スキル持ってたりは普通ですが、異世界生まれの現地人だといないだろうなぁ…と。
それと、クロの魔神殿という呼び名は二つ名みたいなものです。数話先で説明あります。
(その話を更新したらこの文は消すかも知れません)
最後に、現在『リセマラーの俺が転生したのはスマホのソシャゲ世界でした〜固有スキル【ラストアルカディア】と【リセット】で生き延びようと思います〜』
というタイトルの別作品を投稿しております
そちらが10万文字超えるまでは、こちらの更新頻度を週1より多く増やす事は難しそうなので念の為お知らせしておきます…
(メインはこの『生産チートな〜』の方という気持ちで書いてますのでご安心?ください。)
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