第39話 追加購入と宿屋

「『オレオル君、手続きはまだこれからだけど泊まれそうな宿屋を見つけたわ。少し高いけれど大丈夫でしょう? 』」


「はい、この人ですし安く泊まれるところは残ってないでしょうから大丈夫ですよ」


「『そう言って貰えて助かるわ…場所は──



 *



 リリアさんから宿屋の場所を聞いた俺は買い残していたフライドコッコを買いに来ていた。


 リリアさんが通話で『前に何組が手続き待ちがいる』と言っており、手続きにまだ時間がかかる様だった。


 そのため心置き無く、全てのフライドコッコ屋台で買い物が出来そうだった。


「おじさん! 12個入りを3つください…できますか? 」


 クロがここが1番良かったって言ってたからな…さっきみたいに食べ尽くされたくない。

 これだけあればさすがに大丈夫だろ。


 1番最初に買ったお店で注文するオレオル。


「お、さっきの坊主じゃねえか! 気に入ってくれてありがとうな! 大丈夫だ、量が多いから時間かかるがいいか? その代わり今揚げてる揚げたてをやるからよ! 」


「はい、大丈夫です! 」


 やった、揚げたてだ!


 オレオルは揚げたてを食べれる事に内心でワクワクしながら、衣のついた肉があがるのをぼんやりと見つめる。


 だが、人よりもいいオレオルの耳は肉のやける音よりも、それを遮る周囲の喧騒とした音の方を拾ってくる。


 そのためオレオルは揚がる肉から、周囲の人混みへと視線を移した。


 そうしてよく見てみると、周囲には自分達と同じ様な経緯でこの街に来ただろう人がいて、同じく屋台で食べ物を買っている者が多いと改めて思った。


 だが、帝国から財産巻き上げられて逃げてきた様には見えない人もいる。


 タリア以外から来てる人も多そうだ。


 というか、帝国から逃げてきた様に見える人の方が少ない…?


 オレオルは周囲を観察していて何となくこの事が引っかかった。


 なぜなら…帝国民だった人とここザリニアの人達はこれまで交流がなかったために近い距離のわりに文化がまるで違うからだ。


 そのため、着ている服のデザインの違いやその人の纏う雰囲気など…見れば何となくどちらかはわかってしまう。


「坊主どうかしたか? 」


 周囲を見て不思議そうにするオレオルを見て、店主の男が尋ねてきた。


「帝国から来た人の方が少ない様に見えるので気になってました」


「あぁ、それは帝国から来たヤツらは冒険者が多いからだなぁ…手持ちのお金が無くなる前に競争率の低い別の街に移動するヤツらが多いんだ」


「なるほど…でも冒険者じゃない人も居ますよね? 」


 オレオルは言っている途中で『この時期にここに来れている帝国民は皆そこそこ裕福な人だから、こんな所には来ない人達なのかも』と思った。


 だが、1度口にし始めてしまったので何となくそのまま聞くことにした。

 みんながみんな裕福な人ばかりでも無いだろうとも思ったからだ。


「少しはいるみたいだが…坊主も帝国から来たならわかるだろうが帝国は出国審査が厳しいんだろ? そういう奴らはここで飯買う余裕なんてないから、国が別で用意してる難民用のキャンプで別に支援受けてるからそもそもこの街の中には居ないんだよ」


 あぁ…

 なるほど、そういう事か。


「あそこには騎士団とかもいて、メシも街より質は落ちるがその分安くて、ほとんど無料タダみたいな状態らしい」


「……来る途中にあったあの広大な休憩広場は難民受け入れ用の土地にもなってたんですね」


 帝国を出る人で俺のようにお金に困ってない人はレアケースだろう。


 だから、関所をくぐった人の内、冒険者はとっくにこの街の外へ。


 そして、移住希望者は難民キャンプへ、それぞれ移動した後だったのだろう。


 引き返す人もいたから何故だろうとは思っていたが、あれは門で手続きを終えた人がキャンプへ向かっているからだったのだろう。


 何となく疑問に思っていた事が解決したオレオル。

 関所から広場までの間にも、何組か引き返す人がいた様な気がするのでそれも気になったが、それをこの店主が知っているとも思えないので、その事は口には出さなかった。


「帝国の人らしい格好の人が少ない理由はわかったんですが、この人の多さは何が原因なんですか? 」


 ちょうど祭りの時期だったとかかな…


「そりゃ難民歓迎のためだぜ、坊主」


 ん?


 難民はここにはいないのに難民を歓迎…?


「ちょいと長い話になるんだが…昔、何回目かの難民ウェーブの時、門から近いこの辺の場所で普段よりだいぶ安い値段で商売始めた人が居たらしい」


 普段より安い…?

 さっきから見た感じ値段が安いようには思えなかったけど。


 もう少し聞いてみよう。


「その最初に始めた人がよっぽどすごいやつだったんだろうなぁ…値段もそうだが、売っても売っても在庫が尽きなかったらしい」


 尽きない在庫…


「すごいですね、その人…」


「だろう? この国じゃ物語にもなってるんだぜ! 」


 物語…

 有名な人なんだ。


「それでその後どうなったんですか? 」


「それが、その人はその商売が終わった後、売上のほとんどを『難民の為に使って』と言って置いて姿を消し、それきり二度と現れることも無かったらしい」


 難民の為に食料なんかを安くたたき売りして、それで得た売上すら寄付…

 すごい善人なんだろうけど、以降戻ってないって事で謎も多いから物語にまでなってるんだろうなぁ…


「で、あれ…なんの話しだったか…あぁ、そうだ…難民がいないのに、この難民歓迎の祭りに人が多い理由だったな…それはな、坊主。さっき話したみたいな経験をすれば、誰だって誰かに話したくなって『こんなすごい人がいた』って話をするだろ? 」


「そうですね…なるほど…それで広まって真似する人が出てきた? 」


 店主の説明にじれたオレオルは少々強引かもしれないが、話を進めるために口を挟む事にした。


「そうだぞ坊主、よくわかったな! 」


 子どもに見られてるんだろうなぁ…

 少し話が回りくどいというかなんというか。


 オレオルは店主の反応に内心で少し微妙な気持ちになったが、訂正するタイミングを失っていたのでまあいいやと流すことにした。


「でもそれって問題がいろいろ出てきそうですよね…」


「あぁ、当時はかなりいろいろ問題が起きたらしいな…だがその分、今は法がしっかり整備されてるぜ」


「そうなんですね…値段が安値では無くなってるのもその影響ですか? 」


「そうだ、物語のせいで真似するヤツらが多いのが原因なんだが…それで広まるうちに、本読んでなくて元々が難民のためだったってのを知らないやつも参加するようになったり…戦争してないのに『次の開催いつですか』と要望がきて、祭りとして定期開催されはじめたり…まあ、色々な歴史があったらしくてな…結果、噂話が『売り上げが寄付されるナスハワの不定期開催屋台では色んな国のメシが食えるらしい』となったんだよ! 」


「それは…道理で人が多いわけですね…」


 売り上げが寄付されるなら商売人じゃない人でも誰かのためになる事ができると考える人が出てきてもおかしくない。


 そうでなくても、次の行先に悩んでいた時に『今ナスハワで色んな国の人が屋台やってるらしいぞ』と聞けば俺だって気になって行ってみるだろう。


 オレオルはぼんやりとだが、ここが今こんな事になってる背景がわかった気がした。


「坊主帝国から来たならびっくりしただろ。帝国とうちの国お偉いさん仲悪くてあんまり交流ないからなぁ…」


「確かに戦争から逃げてこちらに来たら祭りやってるのでびっくりはしましたけど、俺美味しいご飯は好きだから普通に嬉しいですよ」


「そうか! そりゃよかった! じゃあ坊主、こいつが注文の品だ。代金は大銀貨3枚な! 」


 オレオルは大銀貨3をちょうど取り出すとそれを店主の男に手渡した。


「ちょうどだな! 毎度あり! 」


「はい、ありがとうございました! 」


 オレオルはそう言ってその屋台を後にした。


 そしてその屋台を離れてすぐ──


「おい、雛鳥…」


「なに、クロ」


「さっき屋台の店主が話してた難民やその祭りに関する経緯についての話しだがな…」


「ん? うん」


「本来なら、入国審査の時にあれこれ聞かれたり話をしたりする内にだいたい知る事だ…それでもわからないやつには知らないと困る事もあるかもしれないって事で、お前みたいな審査素通りのやつにも説明して伝える決まりにもなってるはずだ」


「じゃあ、なんで俺の時は説明なんもなかったんだ…」


「そりゃ、俺がESランクの冒険者証出したからだな」


「おまえが原因か!? 」


「ESランク証持ってるような長命種はだいたいこれがリアルタイムで起こってた頃から生きてるからな…説明なんざ不要なんだよ…ESランク証持ってるやつはそういう意味でも特別扱いだからな」


「だ、だから俺は、クロから聞いてるもんだと思われて説明を省かれた? 」


「お前の薬師証が『ドロシー・ストークス』だったのも原因だとは思うぞ…あちらもまさか『SEランク冒険者と共にいて、あの有名なエルダードワーフの薬師…ドロシー・ストークスの弟子で、自身も長命種だろう見た目のお前がこの事を知らない』とは思わなかったんだろうな」


 なるほどなぁ…


 って──ん?


 待て。


 こいつ今なんてってた?

 確か俺の事、ドロシーばあちゃんがエルダードワーフとか俺が長命種とかって…


「え、エルダードワーフってあの長生きだと3000年は生きるって噂の…あのエルダードワーフ? ばあちゃん普通に人の見た目して…あ、人化薬使ってたのか…」


 そう言われて考えてみるとドロシーばあちゃんじいちゃんの家からあまり出たがらなかったな…


 それにクロはもう1つ気になる事も言ってた。


「……俺って、長命…種族? 」


 オレオルは突然与えられた情報に頭が混乱していた。


「この話聞いて気になるのがそこなのか…」


 クロはあまりのオレオルの無知さに思わず呆れた。

 ドロシーがエルダードワーフだという事まで知らないとは思わなかったのだ。


「あぁ、そういやあの娘…しばらく姿隠してて、ここ最近では人族と思ってる奴も多いんだったか…」


 クロはなるほどとは思ったが、オレオルに対する『無知すぎる』という感想は変わらなかった。教えていないのが原因ではあるだろうが、いい目を持っているのになぜ知らないのかがクロには理解出来なかった。



 *



 あの後、オレオルは他にもいつくか目星をつけていたフライドコッコ屋台で、それぞれフライドコッコを買った。


 そして全ての買い物を終え、リリアが言っていた宿屋へと向かっていた。


「リリアさんが言ってた宿屋はこの辺りだと思うんだけど…」


 リリアさんが言っていた宿屋の名前は"戦士の憩い場亭"という名前の宿屋。

 この街の北西方面へと向かう道を進んでいたら左手にすぐ見えてくるらしい。


 焦げ茶色の壁と屋根が目立つ建物で、この街では有名な宿屋と言う。

 だが、その分、宿泊費もそれなりにするとの事で…

 だからまだ部屋がギリギリ空いていたらしい。


 お!

 あれかな。


 見つけた宿屋の建物は黒に近い焦げ茶の壁をしており、周囲の建物よりも背が倍以上高いためにすごく目立っていた。


 入口の近くにある看板を見ると、そこには『戦士の憩い場亭』と書かれている。


「あった」


 オレオルは宿屋の重たいドアを押し、建物の中に入った。

 外観はこの街の他の建物と同じ塗り壁だったが、内部は石壁の様だ。


 その事から元は石造りの建物だったらしい事がわかる。


 重いドアを開けてすぐの場所は開けた空間になっていた。

 そして、その先突き当たりに受付が見える。

 通り側の壁沿いにはテーブルやソファもいくつか置かれており、少しくつろげる空間にもなっている。


「オレオル君こっちよ」


 広いロビーでオレオルがキョロキョロしていると左後方からリリアの声が聞こえた。


「あ、リリアさん! 」


 オレオルは後ろからクロが着いてきていることを確認してから4人の方へ向かった。


「宿の部屋を確保して頂き、ありがとうございました…」


「2人部屋にしたけれど問題なかったかしら? 」


「はい! クロもそれでいいよな? 」


「あぁ、かまわねえ」


 オレオル達が来たので、宿屋の受付へと揃った事を伝えに行ったアレク。

 少しして案内人と共にオレオル達の方へと戻ってきた。


「この度は当宿屋をご利用いただきありがとうございます。お客様方のお部屋へとご案内させていただきます、案内役のパムでございます。短い間ではありますがどうぞよろしくお願いいたします…」


 品のあるお仕着せに身を包んだ女性が丁寧に頭を下げた。


 広いロビーをぬけてエレベーターで5階へと上がる。

 この宿屋は12階建てで鍵は魔導錠を改良したタイプのものらしかった。


 オレオルとクロの泊まる部屋は504。アレクとアントンが泊まるのがその向かいの514。セレーナとリリアが泊まる部屋が同じ階の女性客専用スペースのエリアにある536だった。


 取れそうなら部屋は分けるという話はずっとしていたので、買ってきたお昼は初めはどこか1つの部屋に集まって取ろうと話していた。


 だが、実際に部屋に入って見ると、2人部屋だったので、6人が一緒に食事できそうな大きなテーブルもそのスペースもなかった。


 なので、先程案内人が『この期間中のみ持ち込みでの飲食が可能で常時解放している』と言ったバー併設のラウンジで昼食をとることになった。



 *



 エレベーターの前で女性二人と別れた後、今晩泊まる部屋を確認したオレオルとクロ。

 部屋の番号だけ忘れないように記憶すると鍵を持って10階にあるバーへと向かった。


『宿泊客以外は利用出来ない』と、説明を受けたバーラウンジでは、すでに数組の冒険者らしき男達が数組出来上がっていた。


 そのため、高級感のあるテーブルにだらしなく突っ伏していたり、ふかふかの長ソファで横になっていたりしている者もチラホラと目に入った。


 オレオル達は邪魔にならないようにラウンジの隅で買ってきたお昼ご飯を並べる事にした。


 山のように買ったフライドコッコを出していると、アレク達も来たので、クロにクロが買った分を出して欲しいとお願いする。


 あの店でクロが勝手に量を増やしたコナモン屋台の料理はクロが指パッチンひとつでどこかへしまったので、オレオルのリュックには入っていないのだ。


「クロ、コナモン屋台で買った分出して」


「そのリュックに一緒に入れたぞ」


「そのリュックって…まさか俺のこのリュック? 」


「あぁ」


「どうやって!? 」


【使用者登録】してる人にしか物の出し入れはできないはずでは?


「どうやってってお前…今まで気づいてなかったとか言わねえよな? 」


「気づいてないって何が? 」


「そのリュック…の見た目してるそれは──ってこんなとこで言う事じゃねえな…」


 クロは何かを言いかけたが、周囲を見て話すのを止めると「早く飯を出せ」と言ってオレオルを急かした。


「後で聞くからな? 」


 オレオルはじとっとした目でクロを見てそういうと半信半疑でリュックの中を探った。すると1つの袋がオレオルの手に飛び込んできた。


「この袋か…?」


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 載せ忘れてたのでこの世界の通貨価値の目安を置いておきます

 ふわっと見ててくれればそれでOKです!

 覚える必要とかありません(笑)


 大聖霊貨1枚        1億円

     聖霊貨1枚 1000万円

     大金貨1枚    100万円

         金貨1枚      10万円

     小金貨1枚         1万円

     大銀貨1枚      1000円

         銀貨1枚        100円

     小銀貨1枚           10円

         銅貨1枚             1円

      半銅貨1枚    現代では使用していない


 庶民のひと月の生活費

 金貨1~2枚

 下手に変えると書く私も読む皆様も混乱するだけだと思ったので、日本とまあそこまで変わらないくらいで設定してます。

^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─^─

 お読み下さりありがとうございます!


 この話はあとからちょい修正入るかも知れません。


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