第27話 蒼い炎と再生の力
ブルーテイルの子どもが目覚めたらすぐにでもその親を助けるために出発できるよう、アレク達と協力して広げていた荷物やテーブル、テントを片付けそれぞれバックの中に戻した。
こんなことになるならさっきテント広げなければよかったと若干後悔しつつもその片付け作業が一通り終わった頃。生命復活の火種作製のために放置していた壺からポンッという音がした。
様子を見に行って中を覗くと、中の様子もさっきとは違い綺麗な蒼色をしており、先程まであんなにガタガタピカピカと騒がしかったのにすっかり落ち着いていた。
オレオルはその中を見てレシピにあった通り最後の仕上げに取り掛かった。
「──レシピ通りだと、最後に魔法で火を…っおわ!? 」
オレオルが魔法で出した赤い火の玉を壺の中に放り込むと壺に蒼い火柱が上がった。
「あ、青い…火? 」
初めて見る色の炎にビクビクしながら様子を見守っていると次第に蒼い火柱が落ち着いてきて、壺の中には銀色に輝く綺麗な蒼い火を灯すブルーフェニックスの羽が一つだけポツンとあった。
「で、出来た…? 」
そっと手に取ってみると、錬金する前よりも羽が軽くなっている様に感じる。
見た目は錬金前より蒼色が鮮やかになっているのと、キラキラと銀色に輝く蒼い火が羽の先端に灯っているから、錬金術によって羽に何らかの変化をもたらしたのだろうと思う。
オレオルは色が鮮やかになった羽を手に持って、その先端に火のついた羽を【鑑定】した。
───────────
[聖命復活の火種]
この羽の先端に灯っている聖なる蒼い火で着火され燃やされたモノはその火に宿っている再生と復活の力によってその生命を復活させる。
その火はあらゆる異常のその原因となっている事象そのものに干渉し、原因となるその事象を燃やし尽くす事でその事象による影響を完全に消す事ができる。
全てを燃やし尽くされた生命はその生命の最も平常な頃の状態に戻される。
燃やせるものであれば、この世にこの聖なる火で復活できないものは存在しないとさえ言われている。
※先端に灯る聖なる炎が消えない限り何度でも使える。
※このアイテムは錬金釜でしか生み出す事が出来ない。
───────────
うおぉう…
思ってた以上にやっばいやつきた。
レシピでは"生"命復活の火種ってなってたのに"聖"命になってる…
水が急に変わった時も思ったけどその聖属性どこから来たんだよ…俺の魔力…変異でもした?
でも仮にそうだとしても現状知りようがないしなぁ。旅してたらそのうちわかったりするのかな。
「…しかも最後の『このアイテムは錬金釜でしか生み出す事が出来ない』ってこれ…絶対この壺の正式名称…お前『錬金釜』って言うのか…」
ちなみにオレオルのその言葉に当の壺からは〔そうなの? 僕錬金釜なの? 〕という感じのなんとも微妙な反応が伝わってきている。
なんで本人…いや、本壺? がわかってないんだ!?
最初に鑑定した時に絶対正式名称じゃないと思ってはいた。いたけどさ…まさかこんな形で正体不明な壺のちゃんとした名前が分かるとは…思わないよ。
それにようやくわかったその『"錬金"釜』って名前からして古代に失われたとされてる<ロストアイテム>っぽいし、なんか本格的にヤバそう。
今回たまたま持ってた素材で作れたこの羽も鑑定結果見た感じめっちゃヤバいんだよ。
何度も使えるとか薬要らなくなるし、癒せないものはないとかヤバすぎる。
事象を燃やすってなんじゃそりゃだし、あんな簡単に作れていいものじゃないでしょ絶対。
自分で使う分にはいいけど、人前では使えないな。これ。
…いや、この鑑定結果見た感じ、この羽の先に灯ってる火で着火しないと意味無いのか。
という事は燃えないモノは癒せないって事…なのか…?
いろいろ試してみる必要があるな。
そう思ったオレオルは何となく気になって、羽の先に灯る蒼い火に触れてみた。
すると何もしていないのに蒼い炎がオレオルの全身に燃え広がった。
おわっ!?
って…あれ?
熱くない…
「ちょっ、危ないじゃない!? 青い火は赤い火より温度が高いのよ!? 」
少し離れた所で小鳥の様子を見ていたリリアが全身が燃えているオレオルを見て慌てて駆け寄って来て、そのまま魔法で出した水をかけて消火させてきた。
慌てて羽本体の火は消えないように守れたので[聖命復活の火種]は無事だったが、かなりギリギリのタイミングだったためにオレオルはびしょ濡れになってしまった。
心配してくれたゆえの行動なのはわかるけどこれはちょっと水ぶっかける前にかけていいか聞いて欲しかった…。 もしも俺のガードが間に合ってなくて、貴重な素材を使って作った火がすぐ消えてしまって、羽も再錬金不可だったりしてたらシャレにならなかった。
「いえ、大丈夫です…この火全然熱くなかったので」
むしろあの火は暖かくて心地いい感じだった。
「熱くないってそんなわけ…」
「ほんとですよ? ほら」
俺はリリアさんに[聖命復活の火種]を見せた。
するとリリアさんは恐る恐るその火に指を近づけた。
「……確かに…熱くは無いようだけど…」
「不思議ですよね」
未だに疑いの目でその火を見ているリリアさんは火に触れてはいない。しかしそれでも火に近づけた指に火による熱さが全く感じられない事はわかったようで不思議そうにしている。
「ほ、本当に大丈夫なの? 魔法で防御してたり、実はどこか具合が悪くなってるとかない? 」
「俺、何も変わりないですよ? 」
「……………はあぁぁぁぁぁ」
リリアさんがものすごく安堵したという気持ちを隠してないままに息を吐き出した。
「あの…俺見た目はこんなですけどこれでも一応成人済みなので…」
護衛だと隠さなくて良くなったからかわからないが、あからさますぎるくらいの態度を隠さなくなってる気がする。
「それもわかってはいるのよ…でもね、あなたに何かあるとワタシ達がどうなるかわからないの…お願いだから無茶な事は控えて、ね? 」
やけに必死そうな表情でそう言われたオレオル。
「え…は、はい」
変だな…この人達、ガル爺に頼まれたから俺の護衛してるんじゃ…ない、の? それにしては様子が…あれ?
ガル爺は俺がちょっと怪我した所で別に何も言ってきたりしないと思うけど。
「そういえばブルーテイルの様子はどうですか? 」
オレオルは古の壺改め錬金釜をリュックに入れてブルーテイルの子どものそばにいる3人の方へと近寄った。
「命の危機からは脱したようだけど目覚めるにはまだまだかかりそうな様子だね…」
「俺の魔眼で見たところ、魔力の回復速度が遅いからこりゃ数日はかかるな 」
え、それじゃあ困る。
数日も待ってたらたぶんこの子の親が死んじゃう。
どこにいるかこの子に聞かないとわからないのに…
「あ、そうだ! この羽! 」
これを使えば元気になってくれるかもしれない!
オレオルは疲れはてて寝ている様子のブルーテイルの子どもに聖命復活の火種の燃料になると思われる聖属性の魔力を纏わせた。
そしてその状態で聖命復活の火種が先端に灯っているフェニックスの羽を近づける。すると、ボワッと蒼い炎が小鳥の全身に広がった。
正直魔力が回復すればと言うだけの状態だったので、事象を燃やすというよくわからない効果が今のブルーテイルの子どもに意味があるかは半信半疑だとオレオルは思っていた。
だが、アレクが目を見開いて驚いているのを見てきちんと効果があったんだと知り羽への認識を『やべえやつ』から『めちゃくちゃやべえやつ』へと改めたのだった。
そしてそのままキラキラと煌めく蒼い炎で包まれて燃やされているブルーテイルは燃やされ始めて数分。
とうとう目を開けた。
「ピ、ピィ…? 」
「あ、起きた! 」
目が覚めた青い小鳥は自分の全身が燃えてることにびっくりしてバタバタと羽を動かしてその場で転がった。
しかし、まだ暴れまわれるほどの体力は回復していなかったようですぐに疲れてコテンッと倒れてしまった。
「びっくりさせてごめんね」
オレオルは今もなお燃え続けている青い小鳥に魔力をそっと流した。
すると蒼い炎がさらにボワッと燃え上がった。
「ビィ!?」
強くなった炎に慌てた小鳥が飛び立とうとしたのでオレオルは慌てて魔力を流すのを辞めた。
「だ、大丈夫! 落ち着いて! その蒼い炎はフェニックスの力が宿った再生の炎だから熱くないよ! 」
「ピ、ピィ…? 」
あれ…なんか目の前の子から『体は元気になったけど気持ち的に起きる前より疲れた』って言う文句みたいな気持ちが伝わってきた…
「ご、ごめんね…」
こっちの方が早く元気になると思ったんだよ。悪気はなかったんだ。
「ピィ…ピ」
『ったく…しょうがない』という気持ちが小鳥から伝わってきた。
なんかニュアンス的には大人が小さな子どものイタズラを笑って許してあげるみたいな感じ。
こんな小さなブルーテイルの子どもにそんなふうに思われるって個人的にすっごい複雑なんだけど…
「ねぇ、君さ…倒れる前に親を助けて欲しいって言ってたよね? 」
俺がそう尋ねるとそのブルーテイルがピィピィと必死に鳴いて何かを伝えてきた。
「ごめんね…なんて言ってるかまではわからないんだよ」
オレオルがそう言って謝るとブルーテイルの子どもはピョンッとオレオルのアタマの上に飛び乗ってきてオレオルの頭をクチバシでつつきだした。
「痛い痛い痛い! わかった、わかったから! 」
*
あれからどうにかこうにかそのブルーテイルとコミュニケーションをとった結果ブルーテイルの親はここより北に進んだ所にいるらしい事がわかった。
「じゃあとりあえず北の方に進んで見ようぜ、な? 」
「そうだね」
「そうね」
「そうですね」
「はい!」
「ピィ! 」
それまで黙ってオレオルとブルーテイルの子どものやり取りを見守っていたアレク達の同意もあり、オレオルは急かすブルーテイルにつつかれながら夜の森を北に進むことになった。
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