第375話 丹羽長秀たちの帰還②
帰還した諸将は勲功者、傷病者、死者など、幕府の定めた基準に従い、厳正な名簿を作成。これに対し、幕府は功労金、見舞金、療養給付金、弔慰金などを支給する。
それらとは別に、出征者全員へ海外出征手当が決まっていた。これは、各家で定めた等級ごとに一律だ。出征地においても滞在手当は支給されていたし、それぞれの主君からの知行・俸禄もあったわけで、大盤振る舞いの類いといえよう。
知行や俸禄が大幅に加増される事は無くても働き損にはならない。また、寄親・寄子でいえば、寄子へ直接諸々支給される事により、末端の不満を取り除きつつ、家中単位から幕府と個々の関係構築が推進される。
幕府は膨大な名簿により、各家中をこれまで以上に可視化出来た。大きな副産物といえる。これまでも各家の重臣レベルはある程度把握出来ていたが、より家中の実態というか、解像度が増した。
さらに、金銭や感状以外にも勲章の授与も行なわれる予定だ。名誉勲章、功績勲章、戦功章、従軍章などである。松花江の戦い(対ウラ国)、満洲国征伐(対建州女直)、ホイファ征伐、ハダ国征伐、遼東征伐、天津の戦い、北京の戦い、朝鮮征伐、トメト部征伐、ハルハ部征伐、オイラト征伐、チベット征伐、ウズベク・ハン征伐、ヒヴァ・ハン征伐、ノガイ・オルダ征伐、カザフ・ハン征伐、シビル・ハン征伐、ロシア征伐、カザーク征伐、イスパニア征伐、サヴォイア公国征伐など幕府軍は無数の戦いを繰り広げた。
これらは後に天正の役と呼ばれる。名誉勲章受章者は直接信孝から授与されるという武士(足軽なども含む)にとって最高の名誉となった。
信孝が帰還将兵を出迎えたとき、一切幕府や織田の名を出さず、日本で通している。また、出迎えや帰還後初途上の際は関白二条昭実をはじめ五摂家当主が全て同席した。
ちなみに二条昭実の側室は織田信長の養女であり、継室は同じく信長の娘(羽柴秀吉側室三ノ丸殿)だ。つまり、将軍信孝とは義理の兄弟となる。
帰還諸将が初登城した際、書院(いわば執務室)や大広間には日章旗が翻っていた。また幸田広之も諸将を前に大日本国の政府たるべき幕府へ奉仕する者たち云々と念押しがなされのだ。
大名はもはや独立した存在でなく、日本政府の地方自治体という図式の一端が示された。名称だけ日本政府になっても意味がない。名実ともに武家や公家を廃した上での日本政府を作るのは長い時間とプロセスが必要だ。
その前に、緩やかな公武合体と健全なナショナリズムに基づく統一感が必要であろう。いくら織田家が最大勢力で絶大な権力を有していようと、意識改革無くしては先に進まない。
突然、戦国の世に、日本政府、日本国予算、省庁制、議会などを持ち込んでも、その時代の論理や思考で動く人たちへ簡単に浸透するかといえば、ほぼ不可能だろう。
日本の権力構造が大きく刷新されるのは破滅的な事態や対立による場合だったりする。白村江の敗戦により律令国家の完成が促進。朝廷や仏教勢力との対立から鎌倉幕府が成立。黒船来航から始まった明治維新。第二次世界大戦による大日本帝国の崩壊など……。
絶対的な権力あれば一気に体制や構造の改革が進むとは限らない。強引に進めばハレーションを引き起こす可能性がある。選挙で支配者を選ぶ国や欧州の政府機構などに接した諸将や公家たちの意識に多少なりとも変化の兆しが芽生えれば、後は進むべき方向を示すだけだ。
日本は、少しづつ新たな時代へ向かいつつあった。
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