追放王子の辺境開拓記~これからは自由に好き勝手に生きていきます~
おとら@五シリーズ商業化
一章
第1話 追放
……いよいよか。
国王である父上に玉座の間に呼び出された俺は、とあることを確信する。
「クレスよ、お主を辺境の地ナバールに追放する! 厳しい土地で、その性根を叩き直してくるがいい!」
「な、なぜです!? 俺が何をしたというのですか!?」
「何をだと? お前と来たら、来る日も来る日もダラダラと……たまに動くと思ったら、城下に出て遊んでくるわ、変な物を拾ってくるわ……我が国の第二王子としての自覚が足りん! 今年で十五歳になったというのに!」
「そ、そんな! そこをなんとか!」
「む、むぅ……いや、お主が生活態度を改めるなら私としても」
「いけません、父上」
「ロナードよ、しかし……」
「そういって、何度目ですか? これ以上甘やかしてはなりません。いくら、偉大なサラ様……母親を失っているからといって」
王太子である兄上が、父上の言葉を遮る。
これは王太子である兄上だから許されることだ。
他の者がやったら罰が下るだろう。
「う、うむ」
「せめて追放をしてください。その地で、根性を叩き直しましょう」
「……わかった。先ほどの言葉通り、お主は荷物をまとめてナバールに行くが良い! 護衛が来るまでは部屋で待機しておれ」
「ちぇ、わかりました。はいはい、追放されてあげますよー」
俺は不満そうな表情をしながら、玉座の間から出ていく。
無論、その場には貴族や大臣達がいる。
そんな俺の態度に、皆が失望している様子だ。
その表情を維持したまま、自分の部屋へと戻り……ベッドの上に飛び込む!
「いやっほー! 追放ダァァァ! ようやく念願が叶ったぞぉぉ!」
そう、今回の追放は俺が仕向けたことだ。
俺は、静かで庶民的な生活をしたい。
そのためには、この地位は邪魔である。
だから、あの手この手を使って追放されるように頑張ってきた。
「ふふふ、ようやく身を結んだぞ。これで、この窮屈な生活とはおさらばだ」
毎日毎日、城の中に閉じ込められて……退屈な授業、無駄なお稽古、冷たい食事、どれもが苦痛だ。
こちとら、前世では庶民をやっていた身なのだから。
ベッドの上でゴロゴロしながら、その時の記憶を思い出してみる。
◇
……うん? ここは……?
なにやら、目の前には大きな門がある。
辺りを見回すと、真っ白い空間のようだ。
「……ここはどこだ?」
「ここは死後の世界ですよ」
振り返ると、そこには六枚の翼を広げた綺麗な女性がいた。
その神々しい姿は、この世のものとは思えない。
「……天使? あっ……俺って、死んだのかな?」
「ふふ、惜しいですね。私は女神です。そして……残念ながら、貴方は死んでしまいました。貴方は先程、トラックに轢かれそうな子犬を助けましたね?」
「……ああ!」
その瞬間、俺の頭の中にある記憶が蘇る。
確か俺は、外回りの営業中に猛スピードで信号無視をするトラックを見て……そのすぐ側に子犬がいたのを発見したんだ。
その後の記憶はないが、おそらく無意識のうちに助けに入ったのだろう。
多分、その少し前にずっと飼っていた犬を亡くした事があったから。
「思い出したようですね?」
「え、ええ、一応。ただ、断片的にしか覚えてないですね」
「どうやら、トラックの運転手が飲酒して居眠り運転をしていたようです」
「なるほど……全く、迷惑な話ですね。それで、本人と子犬はどうなったのですか?」
「残念ながら、運転手も子犬も亡くなってしまいました」
「……では、無駄死にだったということですか」
むしろ、運転手には悪いことをしてしまったか。
俺が庇わなければ、結果は変わっていたとか。
「いえ、そんなことはありません。貴方に当たったから、進路が変わったのです。あのまま突っ込んでいたら、登下校中の小学生達に突っ込んでいましたから」
「そうなのですね。それなら良かったです」
「先程から思っていたのですが……随分と冷静ですね? これは夢ではありませんよ?」
……そういや、割と冷静だな。
まあ、これといって生きる希望があったわけじゃないし。
中学に上がる頃に両親は離婚したし、引き取った母親も中学を卒業した時に出て行った。
それから、たった一人で生きてきたから、身内と呼べる人はいなかった。
当然中卒の俺に選べる職などなく、毎日会社と家を行ったり来たりするだけの日々。
当然友人や恋人がいるわけでもなく……やめよ、悲しくなってきた。
「いや、死にたいと思ってたわけじゃないですけど……特に生きたいとも思ってなかったので」
「……そうですか」
「それで、俺は天国に行けるのでしょうか?」
もしこれで地獄行きとかだったら、流石に悲しすぎる。
せめて、天国で幸せに暮らしたい。
「ええ、天国には行けるので安心してください。ところで……一つ、私の提案を聞きますか?」
「はい? ……何でしょうか?」
「貴方は結果的に多くの命を救いました。故に、私個人から褒美を与えることができます……異世界転生をする気はありますか?」
「異世界転生……それって、魔法とかがある?」
「ええ、貴方が頭の中でイメージしたものと相違ないかと。人族意外にも、様々な種族がおります。魔物や魔法などがあり、冒険者がいたりダンジョンなんかもあります」
「そうですか……でも、命の危険とかもあるってことですよね? あと、使命とかあったら面倒です」
「命の危険ならどこでもありますし、使命は特にはないですね。あと一応褒美なので、そこそこの身分の者として生まれるようにはします。あとは特殊な才能付きで。なので、ある程度は安心して過ごせるかと」
なるほど……それなら、平穏な日々を送ることができそうだ。
正直言えば、そういう物語は読んできたから憧れはあるし。
「ありがとうございます。では、転生でお願いいたします」
「では、記憶の方はどうしますか? 思い出すタイプがいいのか、最初からあった方が良いかで選べますが……」
「記憶ですか……」
どうする? あった方が知識的には生きやすいし、俺自身も第二の人生を楽しめる。
ただ、最初からあるのは……どうにも抵抗がある。
「では、ある程度の年齢になったら取り戻すパターンでいいですか?」
「構いませんが、理由を聞いても?」
「理由は色々ありますが……赤ん坊から始めると……まあ、少し恥ずかしいというか」
それこそおっぱいを吸ったり、赤ちゃん言葉を使うことになる。
流石にそれは、アラフォーの身には辛いものがある。
「ふふ、それはそうですね。でも、幼少期からではないのですね?」
「それも良いんですけど……多分、違和感がある子供になってしまう気がします。生前の俺は不器用でしたし、そういうのを隠すことができないかと。そうすると、気味が悪い子供になる可能性が……嘘をついたり、わざと避けてみたり……新しい家族に嫌われたくありません」
「なるほどなるほど……ある程度歳を取ってからなら、上手く対応できるというわけですか」
「ええ、多分……怪しいですけど。少なくとも、赤ん坊から始めるよりはマシかと」
「わかりました。それでは、そのように転生させましょう」
「すみません、色々とお手数かけます」
「ふふ、良いんですよ。お礼を言うのはこちらの方ですから。それでは、良き転生生活を願っています」
すると、俺の足元が光になって消えていく。
「あの! ありがとうございました! 今度こそ、平穏な日々を過ごしたいと思います!」
◇
確か、こんな感じの会話だった気がする。
「というか、そこそこで第二王子っておかしくない? おかげで、色々と苦労する羽目に……」
十歳で記憶を取り戻した俺は、自分の立場に戦慄した。
第二王子は第一王子のスペア扱いだし、迂闊なことはできない。
才能を発揮したり、功績を挙げれば兄上と敵対することになってしまう。
結局、生まれ変わっても不器用なままで避けるしか方法がなかったけどね。
「……まあ、良いんだけどさ。俺は兄上と争いたくはないし……家族とは喧嘩したくないし、家族が争うのも見たくない」
記憶を取り戻す前は何も考えずに無邪気に過ごしていて、剣の鍛錬や魔法の鍛錬を始めた頃だった。
だが直後に記憶が蘇ったことで、それらをやめてダラダラすることを決めた。
まあ、そもそも魔法や戦いの才能は無かったら良いんだけど……神様は特殊な才能をくれるって言ってたんだけどなぁ。
「まあ、良いや……とりあえず、これからはのんびりと自由に過ごすとしようか」
もふもふに囲まれたり、だらだらと寝たり、美味しいの食べたり……。
つまりは——スローライフを!
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