第二十三話 多分何かを防ぐ盾(後編)
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次回からのあらすじ
誰か考えてください。
夜は明日を目指して今を去り、昨日のように日が昇る。
人の世界に朝が来た。
それから昼が来た。
「寝過ごした」
お寝坊さんの啓太はあくびをしながら街を歩く。
今日の予定は深淵の迷宮へと赴いて光の盾(笑)を手に入れ、正統派ファンタジーのレールに乗り王道展開で本格的な物語を紡ぐこと。
「無理」
今日の啓太はバッサリいった。
妖精はキラキラした鱗粉を振りまきながら周囲を飛んでいる。
『勇者よ、今回のミッションにおける目標をいい感じに数字で設定するのです……』
ふわふわと浮いている妖精は、ふわふわとした発言をした。
「目標設定するとどうなるの」
『次回からのノルマに反映されます』
「じゃあ0で」
『いいでしょう勇者よ、必ず達成するのです……』
「あー、うん。マイナスにしておけば良かったと思うけど頑張るよ」
モチベーションアップアップの二人は、昼の太陽が照らす街を出て、午後の風が吹き抜ける街道を歩いていく。
小高い丘を越えた先に見えるのは薄暗い森……そのはずだった。
「なにあれ」
『さあ……』
二人の視界に映るのは、なぎ倒された木々が転がり視認性が大幅に向上しちゃった深淵の迷宮への道のり。
陽の光にさらされる迷宮の入り口が遠くからでも見えてしまっている。昨日まで少しはあったなけなしの神秘性は倒木と一緒に地面に転がっていた。
「昨日はもうちょっと森っぽくなかった?」
『台風でしょうか』
「局地的すぎない?」
首をかしげながら迷宮に向かって歩く二人に、聞き覚えのある音が聞こえてきた。
「森の空気wwwww味がしないwwwwwブフォwwww」
深淵の迷宮に向かって歩く二人の足が止まる。彫像のように固まる二人の目に、迷宮の入り口からどすんばたんと出てくる古の知恵ある竜の姿が飛び込んできた。
不意をつかれ固まっていた二人は、よく分からない呪縛が解けると目を見合わせて呟く。
「……え、なんでいるの?」
『さあ』
二人の何やってんだこいつ的な視線を受けながら、知恵ある竜は大きく息を吸い込んだ。
「森w林w浴ww全開wwww」
そこら辺に転がる倒木の枝に顔を寄せて鼻から葉っぱを吸い込む伝説に語られる竜。
「やべwww鼻詰まりwwwwぶうえっくしょーいwwww」
オーガの群れを屠ったという火炎のブレスが、森林資源を炭に変えていく。
鼻をかんでプラズマ鼻水を垂れ流す竜の視界に、夢か幻と思い込もうとしている啓太と妖精の姿が映った。
「あwwwいたいたwwwwいwのwちwのw恩人wwww久しぶりゅーwwww」
古の知恵ある竜は口から炎を垂れ流しながら二人のもとに駆け寄ってきた。どすんばたんと暴れる尻尾は周囲を更地に変えている。
硬直しようとする表情筋と闘いながら啓太は口を開いた。
「お久し、ぶりです」
「ねえwねえw聞いてwww聞いてwww森の声をwwww聴いてwwww」
伝説に語られる偉大なる竜は耳のあるっぽいところに手をあててじっとしている。
「聞wこwえwなwいwwwwwプフーwwww」
啓太と妖精の精神に微妙な感じの負荷がかかった。
「あの、それで、どうしてここに?」
「ダークちゃんにwwwwお呼ばれされててwwwwキミwwww魔王wwww倒すんだって?wwww」
「はあ、まあ、一応そういうことみたいで」
「イケルwwwwイケルwwwwファイトwwww」
イラっときた。
「……それじゃそういう事で」
「あwwそうだwwww勇者君wwww」
伝説に語られる知恵ある偉大な竜は、そさくさと横を通り過ぎようとする啓太を呼び止めた。
「はい?」
「頑張ってね」
振り向いた啓太に竜は背を向けたままそう言うと、どすんばたんと騒がしく去っていく。
「……?」
『どうしました勇者』
「いや、別に」
二人は大分すっきりしてしまった、以前は森だった所を通って洞窟の入り口に着いた。
「そういえばさっきのは何してたんだろ」
『竜同士の頂上決戦なのでは』
「うーん」
陽の光にさらされて、大分湿度の下がった深淵の迷宮入り口。
おじゃましまーす、と中に足を踏み入れた啓太が見たのは、超短い通路に横たわるダークドラゴン(人間形態)
「え、本当に頂上決戦だったの?」
『勇者が倒すはずだったのに……』
妖精の言葉を聞き流した啓太は、地べたにうつ伏せの状態で動かない人間形態にゆっくりと近づいた。
「あの、大丈夫ですか」
「……た」
「?」
ゆっくりと顔を上げる青ざめた男。
「疲れた……死ぬほど疲れた……! もうあんな奴呼ばない……!」
なんかげっそりしてた。
「あの、次の機会にしましょうか」
「……いや、大丈夫、大丈夫。多分」
竜はよろよろと立ち上がる。昨日よりも目の下の隈が濃く、顔色は薄い。
「それで君が勇者、なんだよね?」
「はあ、一応そのようで」
『勇者よ、桜吹雪を見せて打ち首獄門にするのです!』
妖精の言葉に顔色悪い竜の顔が陰った。
「……何?」
「控訴しておくから大丈夫です」
『高裁で大岡裁きです勇者よ!』
暗い竜の顔がより陰鬱に染まる。
「……ずっとこんなのなの?」
「……はい」
啓太の顔も少し影を帯びた。
『勇者よ、そこの木の根を引っ張るのです!』
「やだ」
『根っこが嫌がると思い手を放す……勇者こそが本当の母親です!』
「それで君、魔王を倒しに行くんだよね」
「無理だと思うんですけどね」
『根っこを抱きしめてあげるのです』
竜と圭太は妖精の言葉を流し始めた。
竜はぼさぼさの頭をかきながらぼそぼそとしゃべる。
「まあ、うん、そうかもしれないけど。ええと……そう! マスタードラゴンっていうのがいてね、そいつに会えばすごい武器がもらえるはずだよ」
「はあ」
「いや、うん、その武器があれば君でも魔王が倒せるはず……だよね、そこの妖精……さん?」
『えっ?』
「えっ?」
「えっ?」
三人の心が意図しないところで一つになった。
「どういうことなの」
啓太は当然の疑問を口にする。
妖精は両手をポンと叩いた。
『……あー、そうですそうです。神剣と光の盾をマスタードラゴンに渡すと聖王の兜が手に入るのです』
「えっ?」
『えっ?』
「どういうことなの」
啓太は当然の疑問を口にする。
竜は両手をポンと叩いた。
「あー、そうそう、聖王の兜って武器なんだ」
『えっ?』
「えっ?」
「せめて打ち合わせくらいはして」
啓太は当然の要求をした。
竜と妖精の間で価値を失いつつある連携という言葉に意味を取り戻すため、二人は声をそろえる。
「えーと、とにかく! マスタードラゴンに会えばなんとかなるから」
『そうです勇者よ、マスタードラゴンに会うのです』
急造コンビの精一杯を見た啓太は、ため息と共に口を開いた。
「……それで、マスタードラゴンはどこにいるの」
『それはこのダークドラゴンが案内するそうです』
「えっ?」
『えっ?』
「意思の疎通をして」
啓太は改善点の指摘をした。
「えっ、僕が? なんで?」
『勇者に倒されて仲間になったあなたの役目です』
「倒してないよ」
『えっ?』
「倒されてない」
『えっ?』
よく分からない挟み撃ちにあった妖精は、ぷるぷると振動した後叫び声をあげた。
『ダークドラゴンを倒すのです勇者よ!』
「それで場所はどこですか」
「うーん……場所、かあ」
鱗粉をまき散らし始めた妖精を見なかったことにした竜は、啓太を見て少し考え込む。
「……よく考えたら頼まれてるし僕が案内するよ」
「あ、ありがとうございます」
『領域展開です勇者よ!』
妖精の領域から離れて出口へと歩く二人。
こうして物語は新たなステージに突入した。
魔王討伐のため、マスタードラゴンの元へと旅立つ啓太。授けられるという兜(武器?)はいったいどのようなものか。
次回「旅立ち即遭難。平地をナメるな」
お楽しみに。
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