未来と涙の二人は植物園の透明なドームの中心にある一番大きな植物のコーナー前にあるベンチから移動をして、ゆっくりとほかに誰も人がいない(本当に誰もいなかった。涙くんはいつもここはこんな風にすごく静かな場所なんだ、と未来に言った)植物園のほかの植物のコーナーを観察しながら、ゆっくりと歩いて、話をしながら見て回った。

 この世界にはこんなにたくさんの種類の植物があるんだ。全然知らなかった。

 未来は、緑色のいろんな形をした美しい植物たちを見ながら、そんなことを思った。


 未来は植物にまったく興味はなかったのだけど、今日は偶然、この場所にこれて本当によかったと思った。(涙くんにも会えたし、植物の美しさもわかったからだ)


「三上さんを見たとき、すごく僕の中で感じるものがあったんだ。あ、僕はこの人を描かなくてはいけない。いや、違うな。この人を描くことができれば、僕はもう一度、あのころのように、『僕が目指した、僕の理想の絵画』を描くことができるようになるって、そんなことを思ったんだ」

 黒ぶちのメガネの奥から、真剣な目をして、そんなことを涙くんは未来に言った。「……そんなことないよ。そんな『特別な力』なんて私にはないもん」

 顔を赤くしながら、照れ隠しに笑って、未来は言った。

(それにしても、大人しそうな顔をして、すごいことを言うな。涙くんは。初めて会ったばかりの、それも自分と同い年の異性の人(私のことだけど)に向かって、言ってみれば『君との運命を感じた』、なんてことが真顔で言えるなんて……。絵を描く人って、あるいは美術というか、芸術をやる人って、みんなこんな感じなのかな……)

 ずっと静かな目をして自分の隣を歩いている涙くんの顔を見ながら、そんなことを未来は思った。

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