第25話



 数年ぶりに耳に入るのは、あのとき愛していた人の声。少し上擦った、緊張感がこちらにも伝わる声。



「……久しぶり。なかなか連絡できなくてごめん。」



「前に住んでいた家に行ったら、梨奈が居なくてビックリした。引っ越したんだね。」



「今はどこにいるの?仕事は?」



「あの頃、酷いことしてごめん。だけどやっと自分の気持ちに気付いたんだ。」



「ねぇ、やっぱり俺たち、結婚しようよ。」



「俺、梨奈がいなきゃ駄目なんだ。梨奈がいないと生きていけないんだよ。」



「愛してる。今すぐに会いたい。」




 それは、確かにあの時、愛していた人の言葉。


 それは、確かにあの時、心から渇望して止まなかった言葉。


 それは、確かにあの時、私を喜ばせた言葉。




「……良い答え、待ってるから。」




 ぷつりと切れた電話を握り締める。私の耳に残る言葉たちが頭の中で何度も何度も繰り返される。ひとつひとつが心に染み込んでいく。


 私は携帯のロック画面を解除すると、電話アプリを開く。プルプルという待機音が酷くもどかしい。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る