3章 魔導司書、師弟となる

講義1:魔術と魔法

 王立魔導図書館のサービス課第四班が使用している事務室に、簡易的な講義スペースが誕生していた。沙彩が魔導図書館で働くにあたり、必要な知識を学ぶためのスペースである。

 本来なら来訪者向けに開催される講義もあるとのことだが、「沙彩を召喚した魔術師の所在も、その目的も判明していない以上、現状のままで受講させる危険」と魔導司書たちが判断したそうだ。

 ここで行われる簡易講義の講師はデイビットだ。

「魔力測定は今日の午後からってことなんで、ちょっと駆け足になる。わからなかったら後で聞いてくれ。今から始めるのは魔術とは何ぞや、という話だ」

 そう言って、彼はホワイトボードに単語や記号などを書き始める。

「そもそも魔術とは、“魔法を誰でも使えるようにしたもの”である」

 手持ちのルーズリーフに書き込んでいた沙彩は、その言葉に疑問を持った。

「魔法、ですか?」

「そう、魔法」

 キュ、キュ、とホワイトボードの上をペンが滑る。

「基本はほとんど同じものだと思ってもらってかまわない。どちらも魔力が必要になるからな。ただし、魔法は“何でもできる”」

 何でも、とはずいぶんと大きく出たものである。

「個人差はあるが、魔力の及ぼす範囲で大体のことはできる。それこそ地形を変えたり、ありえない現象を起こしたり」

 デイビットの話す内容は、沙彩が日本で親しんできた物語に登場する魔法と何ら変わらないようだ。

 しかし、魔法があるならば魔術があるのだろうか。どうも単純な言葉の違いとは言えなさそうである。

 そう尋ねると、デイビットは新たな文言をホワイトボードに書き出した。


 魔法の利点

 ・魔力次第で何でもできる

 魔法の欠点

 ・具体的な想像がないと発動に時間がかかる

 ・燃費が悪い


「燃費……?」

「魔力の消費量だな」

 曰く、魔法を発動する際には“何をするか”という目的をしっかり持った状態でないと、上手く使えない。例えば火を起こすという行為をするにしても、ロウソクに灯せる程度なのか、住宅を燃やし尽くす程度なのかで火の強さは変わってくる。

 そして、特に何もないところで魔法を使う場合、魔力がより必要になる。無から有を生み出すのは、すでにある何かを発展させるより難しいらしい。

「詳細は後で説明するが、かつてのライオネル王国では国民全員が魔法を使うことは難しかった。そんな魔法をギルバート王と初代宮廷魔導師長が改良したのが、現在俺たちが使用する魔術というわけだ」

 今では魔術は王国全体に広まっている、と借りている本に書いてあったことも踏まえると、かの魔術王と初代宮廷魔導師長は王国中興の祖と言えるだろう。

 では改めて、魔術とは何なのか。

「魔法との大きな違いは、魔術には呪文や術式が必要という点だな。もう何度か経験しているはずだけど」

 確かにカイリは魔術を使用する時に何か言葉を言っていたし、書類にも必要項目以外にも別の何かが書かれていた。あれらが呪文であり、術式だろう。

「呪文や術式は、“魔力と結果を結びつけるための道具ツール”という認識でいい。『これを使えば、この結果になる』ということをイメージしやすくするための物だ」

「なるほど。魔法の欠点を呪文や術式で補った、ということですね」

「だが、やはり欠点もある」

 デイビットは先ほどの文言の隣に、新たな文言を書き加えた。


 魔術の利点

 ・魔力の消費量が少ない

 魔術の欠点

 ・できる範囲が決まっている

 ・呪文や術式が必要


「結果をイメージしやすくした分、魔力の消費は抑えられる。その反面、一つの魔術でできることは単純化されて、それ以上のことを起こすには魔術を複数使用する必要が出てきた」

 何でもできるが魔力の消費量が激しい魔法と、少ない魔力でも使用できるが限度がある魔術。何事も一長一短だということか。

 そして、沙彩にも魔力があるらしいということは昨日判明している。呪文や術式を覚えれば、魔術の一つや二つは使えるかもしれない。

 そこまで考えて、ふと疑問が生まれた。

「あの、今でも魔法ってあるんですか?」

「あるぞ」

 デイビットが即答する。

「魔術の発展で魔法が淘汰されたわけじゃない。むしろ魔術を嫌う奴らもいて、そいつらはかたくなに魔法だけを使う」

「そうなんですね……」

「中には魔法と魔術を時と場合で使い分ける奴もいるぞ」

「そういうのは有りなんですか」

「個人的は有り。俺は魔法を使おうとは思わないけど」

 そこは個人の好みでどうにでもなるらしい。

 難しい、と沙彩は内心で唸った。

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