第17話 ファンタジーと現実主義を引き合わせるとこうなる
SIDE:ロンドン
ロンドンの外務大臣は真夜中に呼び出されて恐ろしい事を聞かされた。
何も聞かなかったことにして家に帰ってもう一度眠りたい衝動に駆られるも理性で押し留め、改めて詳細を聞くことにする。
十数分後、問題の動画と市民達によって捕まえられた配信者の証言などを確認し終えた頃には顔が完全に老け込んでいた。
「───すると何かね。ソイツのバカな行動と周りのロクデモナイ思考に妖精は怒ってこの国を敵と認定すると…よもやドラゴンのような事にはならんとは…いや、それは希望的観測か」
外務大臣は頭を抱える。
そんな中、扉が開き他の閣僚達が入ってきた。
全員険しい顔をしており、簡単な情報は得ているようだった。
そしてそこからの話し合いはかなり酷いものだった。
相手の要求は何なのか、日本が仕掛けたものではないのか、ただの悪戯だ等々…
しまいには集団幻覚なのだから無視しろとまで言い出す状況だった。
日本政府への打診に関しては直ぐに行っているものの、相手側は妖精と聞いた瞬間に党のお偉いさんが応対すると言ってきたと報告を受け困惑する。
そして妖精のことを聞き更に頭を抱える事となった。
妖精達は独自の価値観を持ち嘘を見抜き思考を読み取ることができるらしい。
そしてあのドラゴン達とは関係はしているもののそこまで親しいわけではないらしい…という事だった。
それを信じて良いのかは疑問ではあるが、自国をドラゴンに荒らされた国でもある以上全てが嘘というわけでもないのだろう。
だからと言って全てを信じる訳ではないが。
むしろ疑ってかかる訳で───
何故ドラゴンを攻撃しなかったのかなどについての問いに対し回答が、
「あのようなモノに対するマニュアルが無かったために情報収集に終始した」
というふざけているのかと言いたくなるような回答だった。
結果、より一層日本に対して疑いを持つ結果になってしまう。
同日 11:49
「お昼は冷やし蕎麦ですよ」
「ほおおおお…」
「暑い時に最高って配信のおじさんが言ってた!」
「農業系配信者と名乗っているあのおじさんは信用に値します。農業に関してのみですが」
「心の奥底は結構ドロドロだし」
画面越しでも分かるのか…煩悩まみれで配信とかどうなんだろうか…というか他の種族も分かるのか…パッシブではなさそうだけど。
なんて事を思いながらテーブルの上に山盛りの蕎麦を置く。
みんな揃って頂きますの号令と共に食べ始めた。
私は今茹でている物が終わったら食べようと思う。
…現在11袋目、なんですよね…200グラムの11袋…ぶっちゃけ22人分かぁ…妖精の皆さんは半数はどこか行ってるみたいだけど、それでも大勢いるからこれでギリギリの可能性が…足りないかも?。
既にあんなに山盛りだった蕎麦が半分以上なくなっているし。
「…わんこ蕎麦に連れて行きてぇ」
一発で出禁くらいそうですけどね!
そんな時代になれば良いなぁ…私がこんなに大量に作らなくてもいい時代に。
作るのは苦痛ではないんですけど、量がね…
4、5人分であればまだ良いんですけどこの人数はね…妖精の皆さんは小さい状態であれば半人前どころか三分の一人前って感じですが。
苦笑しながら茹で上がった蕎麦を冷水で締めて滑りをとる。
そして自分の分を少し確保して残りをテーブルの大皿に盛り付けた。
「いいの?」
「自分の分は確保してあるのでどうぞ」
ぞ、の部分でみんな再び食べ始めたんですけどぉ?
…まあ、良いけど。
同日 16:42
「全く…なんなの!?馬鹿にするのも限度があるでしょ!」
「馬鹿にしすぎよね…アレは」
「あーあ、もう知らない!」
どこかから帰ってきた妖精の皆さんがなんだか酷くご立腹なんだけど?
これは…一応避けられる悲劇はある程度緩和しないとまずいかな?
夕食のメニューを一品変更する。
スーパーで売っていたチーズインハンバーグ10個セットを3つ開封し、それを解凍する。
実は、今日の夕飯はレトルトシリーズの開封です。
現在カレー2種類、ハヤシライスソース3種類、パスタソース2種類をぐつぐつとね…
すでにご飯とパスタは用意できているので…トッピングですよ、トッピング。
さあて、そのまま一緒にでも構わないけど、少しだけソースを作るかな。
焼肉のタレとケチャップ、醤油と砂糖塩少々。
焼肉のタレとケチャップというソースベースは出来上がっているので楽だ。
ハンバーグの解凍のためにレンチンを6回繰り返して出来上がり!
「はいはい、イライラは食べてスッキリさせてください。カレーは2種類の辛口・中辛・甘口の3つ、ハヤシライスは辛さはないのでそのまま2種類、パスタソースはミートソースとカルボナーラ、和風の3種類を用意してあるので食べ比べてください」
全員が食卓に集まる。
びっくりするくらいのスピードだったよ。
「そして…トッピングとしてチーズインハンバーグを用意してあるので専用ソースをかけて食べるもよし、それらのソースをつけて食べるもよし…自由にどうぞ」
全員が思い思いのパックを取り、ご飯やパスタに掛けて食べ始め…悶えている。
「辛いけど、美味しい!」
「昨日のものよりも辛味が強いが、うん。優しい味…かっら!後から辛味が!?」
「和風のソースと麺が…ああっ、これはいけません!」
「うまうまうまうまうまうまああああっっ!」
「ハンバーグにチーズ入ってる!カレーとバッチリだし、専用ソースもおいしー!」
ははははは…見ているだけでお腹いっぱいになりますねぇ…
とはいえ私も食べないといけないのでカップ食品を…そう、カップのカレーです。
おっと、私の方にロックオンされる前にいくつかお酒をバリケード代わりにしておかなければ…
カリフォルニア産の赤ワインと、日本酒は宮城県の寒梅さんから2種類用意。
あとは…おや、こんなところにイギリス産のミードが…これも置いて、ビールも並べておきましょうかね。
「お酒もどうぞ」
みなさん良い子と良い大人なので「はーい」と言いながら飲みたいお酒に手を伸ばしてます。
ミードはあと2種類か…ドイツと日本と。
こちらも追加で置いておきますかね。
当然といえば当然ですが、そのまま酒宴となってしまいました。
妖精の皆さんはミードも気に入ってくれましたが…何故か日本酒に戻って…しかも冷蔵庫から貴釀酒を取り出してきたし…
まあ、冷蔵庫のものは共用なので良いんですが。
「このハチミツのお酒、あの国なんだ〜…うーん…あの街の周辺だけってできるかなぁ…姉様?」
「良いんじゃない?威嚇みたいな感じで。あの街の周辺一帯にって…私そう伝えてくるわ」
「いってらっしゃーい」
「おじさん、お酒何か持っていって良い?」
「冷蔵庫のものであれば共用なのでどれでも良いですよ」
彼女は冷蔵庫から日本酒の夏酒を取り出すと姿を消した。
………んっ?
あの街の周辺一帯?
ええっと、もしロンドンだった場合その周辺一帯って…金融や総合産業もですけど、穀倉地帯もあったような…
まあ、全域がどうにかなるわけでないのなら諦めてください。
現地時間午前9時
ロンドンを中心とした各都市で突如けたたましいラッパのような音が響き渡る。
その音は屋内外問わず全ての生命体の脳裏に響き、全員が何事かと動きを止めた。
そしてその後、その地域にいた全員の脳裏に何かの声が聞こえた。
───我が許可を出しこの地に汝らと友好を深めんと降り立った妖精族に対し不敬を働き、欲情の目で見、偽りの存在と暴言を吐いた事、許し難し。
まずは警告としてその地域一帯全ての草木を枯らすとしよう。
直後、ロンドンを中心としたイギリス南東部および東部の穀物含め全ての植物が完全に枯死していく。
異変を感じ取ったのは花屋や公園など、植物が身近にあった人々であった。
目の前で植物達だけが高速再生しているように枯れていく姿を見、慌てて警察へと連絡するのだった。
その件数は何十件、何百件と増えていき…あの声の件も幻聴だと笑い飛ばしながら対応していたが、物理的な問題がしかも広範囲で起きてしまった以上警察も動かざるを得ない。
テロの可能性が高いと判断し、捜査を開始する。が、直後に恐ろしい報告を受け民衆はパニックに陥った。
穀倉地帯の壊滅。
東部地域一帯の全ての植物が瞬時に枯れ果てたとの報告だった。
たとえ枯葉剤を撒いたとしても撒いたことを気付かれずに都市を含めた広範囲で瞬時に植物を駆らせることなど不可能と判断した国は…
これを妖精の仕業であり悪魔の仕業と断じ、日本政府に引き渡しを要求した。
つまり、最悪の悪手をしてしまったのだ。
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