雑談

「お前らが生きていておれは嬉しくもあり哀しくもある。良いヒトは先に死ぬと言うらしいが、お前らが今も生きているってことはお前らみんな悪いヒトだったってことだ。おれはお前らが良いヒトだと思っていたのに裏切られたぜ」


『だったらお前も悪いヒトのひとりだろ』と声を揃える三人。息の合うことは素晴らしいではないか、息が合うからこそお前らは戦場で生き残ってきたんだぞ。


「戦場で隊列を乱す悪い奴は必要とされず、日頃の行いすら悪い奴は戦場で惨殺されるか逃げるかだ。つまり結晶人の中でおれだけがサノバビッチのゴミクズ野郎だったわけだな」


「わかったわかった、こっちが哀しくなるから自虐ネタはやめてくれ」


 そう言ったケントは三次元出力された料理品目に目を通し、自分のお気に入り料理であろう十数品を選択、そして特大盛りに設定して最後に注文確定ボタンを押した。食べられもしない量の注文は店からしたら間違いなく迷惑客なのだが、ここにおられる御方は第四世代結晶人でして、出された料理を残されると思わないでくださいませ。それと三世代と五世代のおれたちの注文も忘れないでくれよ。


「この店も今までよくやった方だ」とおれは話題を提供する。


「今まで……これからもやるだろ」とケント。


「昔より飲み食いしに来る番なし結晶人ネームドほだしとが減った今は、この店の売り上げは全盛期以下になっただろ。結晶人の黄金期同様にこの店もそろそろ終わりだ」


「ネームドの入店が減ったところでエーテルナンバー1の飲食店だぞ、潰れるはずがない」


 結晶人のナンバー1が考案した店なんだからナンバー1じゃなきゃ困るだろ。そのナンバー1が落ち込んでいるんじゃある意味終わりだ。番なし結晶人のケント殿ともあろう御方が現実を受け止めきれませんかな?


「そんなことはどうでもいいが、今日の式典に来なかった理由はなんだ……」


 とケントが唐突に訊いてきた。


 おいおい、せっかくおれがつまらん同期会に来てやったのにそれか……まあいい、簡単な理由――おれはニレンが大嫌いだから行かなかっただけだ。加えて、ニレン以外にも嫌いな奴が山ほどいる場所に己から行くはずないだろ。おれは結晶人だぞ、猿人のような昔の人間共らしく、嫌いな奴と一緒の企業やら学校やらを共有するなんて罰当たりな行いをするはずないだろ。今の人間共でさえ『昔の人間は猿人ではなく、進化しない猿だ。まだ土くれの人間の方が進化している人間と言える』てな感じで先代を悪く言うくらいだ。


 とまあ、式典に来なかった理由を嘘で教えてやろうではなか。


「おれは求職中の身なんだ。つまり、仕事探しやらバイト探しやらで忙しいんだよ」


「仕事探し? そんな急ぐことないだろ、結晶人ならどこでも簡単に雇ってくれる」


「いいや、良い求人はすぐに取られる。残っている求人は未経験歓迎やら学歴不問って書いてあるよく分からん求人くらいだ。『貴公の実力を見せてみろ』くらい書かれてないとダメダメだ」


「じゃあその未経験歓迎とか書かれているよく分からん求人でいいだろ」


 ケント、お前はアホ野郎だ。結晶人が何のために生まれてきたのか忘れたのか? 神生国と戦うためだろ。それなのにどうしておれが、よりによって未経験歓迎などと宣う求人に応募しなくてはならないんだ、もしおれが使えない奴と判断されたらサンドバッグにされちまうよ。


「未経験歓迎とか書いてある求人は学歴厨と実力主義の詐欺求人だぞ。大昔は<偏差値>って言葉があってだな、未経験歓迎って求人はその偏差値が二百以上の奴とか実績を持った奴を歓迎しているんだよ。悪いがおれは偏差値二十以下の実力を持たない結晶人だ、分かるか?」


「いいや、お前の偏差値は一あれば良い方だ」


『うん、ケントの言う通り』とケントの発言に同意を示してくれるアランとクルー。


 なんて失礼な奴らだ、おれでも偏差値二くらいはあるぞ。それと、一と二では絶対的に超えられない壁があるのをご存じか? 一はニレンで、二は第一世代ゴートから第四世代ノヴァまでの結晶人総数、頭使っても束になっても馬鹿なニレンに勝てないのは残酷なことで、偏差値って言葉が死語になった理由でもある。

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