天地日種ノものがたり<Strife>

笑満史

大序曲

/*おれは生きている。生きているだけで十分だ。生きているだけで十二分に偉いとさえ思う。




 おれにとって生きることは逃げることだ。戦場では逃げて、あいつからも逃げて、自分からも逃げて……おれの人生は逃げ続けることでしか成り立たなかった。




「神託――建御雷神たけみかづちのかみノ平手、十束剣とつかのつるぎ」と、おれの目の前にいる男子は結晶の剣を生成した。




(逃げ続けたおれとはまったくの逆で、お前はいつも立ち向かっていくよな。相手が悪魔だろうと神だろうと自分だろうと、いつもお前は全力で立ち向かって生き抜いてきた)




 生まれた時の景色はおれもあいつも同じはずだ。人工子宮の中で目覚めて、人工子宮から取り出されて……とは言ってみたがあまり憶えていない。しかしあの音楽だけは憶えている――布にくるまれたおれに聞こえてきたのは鐘の音だ。旅立ちを祝う鐘の音か闘争を祝う鐘の音なのか判断できないが、おれが好む心地よい鐘の音なのは確かだった。




 始まりは同じだったはずなのに、いつからおれたちの間に差が生まれたんだろうな。




「おれには分からないことばかりだ――だから教えてくれ」




 この物語は《騎士道物語》……などと呼ばれる大層なものではなく、騎士が恋愛する話でも武勲を称える話でも修行する話でもない――この物語は、持つ者のニレンあいつと持たざる者のアザミおれが、持つ者と持たざる者であり続ける大序曲だ。*/






 おれは人間に造られたヒト――【結晶人族シシ】または【結晶人ほだしと】。そのおれはいつの日かバベルの塔の頂上に立って、神々の王と決闘する……そして勝ち残る。




 と、物語はいつも唐突な妄想で始まる。誰が何と言おうと、物語は唐突な妄想に始まり唐突な妄想に終わる。起承転結? そんな言葉は物語の鑑賞者の人生そのものだ。起き上がって、いろいろあって、はい死んだ、これが人生という物語、起承転結のハレ日ハレ日。




 しかし、残念ながらおれの人生は意識の目覚めから事件だ。事件は解決しなければならないのだが、どうやらおれは捜査というより操作をされてしまったのだろう。結果に結びつかない辺りがおれの起承転結というものだ。




「どうもどもう、お兄さん方、会話に投げる物が無いならおれの話を聞いてくれないか?」




 そう言ったおれの言葉は未来に置くとして…………今は結晶人について知ってもらいたい。『知りたくもない』とは言わないでくれ、おれは結晶人なんだ。




『ただの語り手だろう』だって? 悪いがこの物語の主人公は結晶人のおれだ。『いいから結晶人について教えろ』って? まったく、おれを困らせる良い生徒さんたちだ。




 ではでは、熱心な生徒さんたちが多いようなので、舞台は今おれがいるこの場所、【クリティアス帝国】――結晶に守護された土地――からお送りいたしましょう。


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