初めての妹とゲームセンター

 それから先は特に問題なく昼食をとり、玲奈さんの分の食器は念のため俺が片付けてフードコートを離れた。


「私たちはこれから洋服買いに行くけど、あんたどうする?」


 パーカーのポケットに両手を突っ込んで、フードを深く被った朝見あみがそう聞いてくる。


「俺たちも玲奈さんの服を見に来たんだけど……どうだろう玲奈さん。たぶん俺より朝見あみ星座むすびの方が女の人の服については知識があると思うんだ。玲奈さんの服も見てもらわない?」

「うん、そうしてもらえるなら嬉しいけど……お二人は大丈夫ですか?」

「私は大丈夫だよ」

「もちろん私も玲奈ちゃんのためなら頑張るよ!」


 俺の提案に玲奈さんが頷き、朝見あみ星座むすびも了承する。


「じゃあ、どうやらファッション担当としては戦力外らしい私は、らい兄と一緒に遊んできま~す!」

「え? 流星すすみ?」


 なんとなくの流れが定まった頃、流星すすみが俺の腕に抱き着きながらそんなことを言ってきた。


「いや、俺も玲奈さんのところに……」

「まあまあ、玲奈さんのことは私たちに任せてよ。びっくりするほど可愛くコーデしてあげる」

「うんうん! 流星すすみと久しぶりに遊んできて! 玲奈ちゃんのことはお任せ~」

「え、あの! ちょっと待ってください!」


 星座むすびが玲奈さんの手を取ってそのまま引っ張って行き、朝見あみもひらひらと片手を振ってからその後ろをついて行った。


「じゃあ私たちも行こうか、お兄ちゃん!」

「……お、おう」


 玲奈さんの僅かな抵抗悲しくどこかへ行ってしまったのを茫然と見送った後で、取り残された俺も流星すすみに腕を引かれて広いショッピングモールへと繰り出した。


「あ、あれ見て! ぬいぐるみ可愛い!」

「可愛い……のか?」


 流星すすみが指差したぬいぐるみは、かばの顔と竜の体が合体したような何か。あれは果たして可愛いのだろうか。


「う~ん、お兄ちゃんとこういう買い物は無理か~」

「少女心が分からなくて悪かったな」

夜姉よるねえとはよく一緒にデートしてたんじゃないの?」

「あいつも少女心が分からないやつだったから」

「ああ、うん。確かに」


 それで納得してやるな。夜見よみが可哀そうだろ。


「じゃあさ、ゲームセンター行こうよ」

「やりたいものでもあるのか?」

「男の子が好きそうなだから」

「その男の子に恐らく俺は含まれてないな」


 ゲームセンターなんて、それこそ数回程度しか行ったことないしな。


「まあ、とにかくレッツゴー!」

「ごー」


 ハイテンションな流星すすみに何とか合わせ、俺も片手を顔くらいの高さまで上げた。


「おお~、ここがゲームセンター!」

「いや、流星すすみも見たことないのか」

「そりゃそうだよ。毎日練習で忙しいし、その前までみんなで遊んでれば満足だったし」

「……まあ、そうだな」


 時々昔を懐かしむ流星すすみの言葉に、思うところがないわけではない。でもそれは俺個人の不満でしかなく流星すすみにぶつけるのは違うよな。


 ほんのちょっと顔が歪むのを自覚して辺りを見渡す。

 喧騒に包まれたゲームセンターは、休日の午後と言うこともあって大分賑わっていた。歩く隙間もないくらいに混雑している。


「迷子にならないようにくっついとくね」

「元からくっついてただろ」

「もっとだよ、お兄ちゃん」


 ぎゅっ、と先程まで以上に強く腕にしがみついて来た流星すすみを引き剥がすことは出来ない。

 俺としてはこんなに混雑しているのなら無理してここにいる必要はないと思うのだが、楽しそうに笑っている横顔が見えているのにそれを止めるのもどうかと思ってしまう。別に、他に行こうと言えばそれに従ってはくれるのだろうが……あまり気乗りしなかった。


「じゃあさっそく、あそこ行こ!」

「どこだよ……って、プリクラかよ」

「私がゲームするとでも?」

「まあ、そりゃそうだよな」


 流星すすみは一度もゲームらしいゲームをしたことがないだろうし、ゲームセンターも初めてなのだろう。やりたいゲームがあって来たわけがなく、目的はプリクラだったらしい。


「お兄ちゃんと久しぶりに遊んだ日記念だし、記録しておかなきゃね」

「ま、そうだな」

「うん! じゃあさっそく行こっか!」


 腕ごと引っ張られて人二人くらいなら余裕で収まる箱の中へと入り込む。

 

「で? 写真を撮るってことくらいは分かるけど何するんだ?」

「えっとね、アナウンスに従って色んなポーズとってみたり、撮った写真を加工してみたりするの」

「なるほど」


 一度も使った経験はないが、意外と普通に写真を撮るだけなんだな。


『それでは、モードを選択してください』

「はい、恋人!」

「いやちょま」


 モード選択画面に映っていたのは友達、恋人、家族、みたいな感じだったと思う。あまりに流星すすみの選択が早すぎて確証はないのだが、それくらいの速度で選択できるって、こいつさてはゲーセンどころかプリクラも初めてじゃないだろ。

 手つきが玄人のそれだった。


「まあまあ、私たちの関係性はどれでもなかったから」

「……強いて言うなら家族じゃないのか? 兄妹の方が近そうだろ。友達、かと言われると疑問だし」

「だったら恋人が一番だよ。だって家族じゃないし友達じゃない。そして同年代の男女なんだもん!」

「いや、もうなんでもいいけど」


 どうせどれにしたって写真を撮るだけなんだし。

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