4-8
商会の裏口前でダスティンは、そわそわしながら冒険者くずれを待っていた。
約束の時間は、もうすぐだ。
ゲス勇者の娘は死んだのか、それともアクアリーフを盗ってきたのか。
どちらにしても、喜ばしいことなので、報告が待ち遠しかった。
ノックの音がしたので、ウキウキしながら扉を開けると、
「遅い……」
「おらあ!」
靴の裏が顔面に入ってきた。
◇
なんとかヴィオレをまいた後に、コウスケは冒険者崩れを叩き起こし色々なことを聞きだしていた。
今回の一件を仕組んだのは、このハゲ豚のだと聞いた時は驚いた。
予想外のことではあったが、例の探し物の為に、元々ここには近々来る予定だったので好都合だ。
(財産を出来るだけ多くむしり取って、その後は捕まえて手柄にして。このハゲ豚、俺にとってマジで福の神だわ)
「ゲス勇者、貴様……ワシをどこまでも舐め腐って」
「うるせえ! これ見てみろ!」
煌剣団の修練所で手に入れた、帳簿を開いて見せつけた。
このハゲ豚、かなりあくどい事に手を染めていたようだ。
「お前の豚箱送りは決定だ。商会も潰れる。だからもう媚びへつらう必要はねえ!」
「いつお前がワシに媚びへつらったのだ。しかし……ガハハハ。ワシが捕まり牢屋にいくだと!? 無知すぎて腹が痛いわ。ワシは王室御用達の商人だ! ワシの財力と権力を持ってすれば……」
ハゲ豚は自分のことを勘違いしている自惚れ馬鹿だという事を忘れていた。
コウスケは脅しのアプローチを変えることにする。
「あーそうですか。じゃあ、今のうちにお前ぶっ殺して口塞がなきゃな」
「な?」
「だってそうだろ? そんなにカネと権力を持ってんなら、このままだと、俺はお前に消されちまうじゃん。そうならない為には、この場でお前の息の根止めるのが一番良いだろ」
「ま、待て! カネなら好きなだけやるぞ。他に必要なものがあるなら……」
「この帳簿を作った奴が、なにかお前に預けてねえか?」
「そ、それは……」
「預けてんだな。じゃあ、保管されている場所まで案内してくれや」
「い、いいぞ。こっちだ。ついてこい」
「あと、カネも好きなだけくれて、他にも色々くれるんだよな?」
商人の顔を見ながらコウスケは、ほくそ笑んだ。
◇
(違う。これも違う)
ハゲ豚が言うには、この蔵の中にあるのは、全てアイツから預かっている物らしい。
広くは無いが、びっしり荷物が敷き詰められており、お目当ての例の物は中々見つからない。
(でも、これは金目のものだから貰っとくか)
物品を一つ一つ丁寧に探し続け時、仰々しい封印魔法が施されている木の箱を見つけた。
(こりゃ、もしかして)
だが、封印魔法が施されていた場合、それを解除しなければ蓋は開けられない。解除するためには封印の術式を解析して、それに見合った解除魔法を施さなければならない。
(術式なんて分かんねえよ。それに俺は魔術師じゃねえから、解除魔法なんて使えねえよ)
なので、力任せに蓋をこじ開けた。
箱の中身は、背中に翼をもつ異様なくるみ割り人形。
面立ちは醜く、不気味だ。
さらに、呪い封じの札が、何重にも巻き付けられている。
(これだ、間違いねえ!)
帳簿に書かれた個人や団体をしらみ潰しに当たるつもりだったが、一発目でお目当てのものを引き当てるとは運がいい。
強い達成感と安堵を感じたその時、
「そこまでだゲス勇者!」
ハゲ豚の大声が耳を突いた。
何事かと思い振り向くと、30人にはなろうかという衛兵と、自信満々に腕を組みしたハゲ豚が自分を取り囲んでいた。
「ガハハ。残念だったな! 貴様が探している間に連絡させてもらったぞ!」
探し物に夢中で気配や物音には、全く気をまわさなかった。
しかし、この衛兵たち、殺気を放っているが、自分には向かっていない。
理由は見当がつく。
この案件を調べる上で予想していた最悪のシナリオの1つだ。
「おい、お前ら! この下衆は、強盗、暴行、名誉棄損と高尚な大商人であるワシ……」
偉そうに喋るハゲ豚の腹を衛兵の一人が剣で突き、
「ガフ……ッなにを……」
床に転がったハゲ豚の首を別の衛兵が槍で貫いた。
もう絶対に助からないだろう。
(やっぱり衛兵隊の中にも手がまわっていやがったか)
この後、衛兵たちが何を言うかも想像がつく。
「ゲス勇者、いや、ヒセキ・コウスケ。強盗殺人の現行犯でお前を拘束する」
一字一句、自分の想像通りの言葉を言った事に少し浮かれながら、これからどう行動するかを考えた。
衛兵たちをボコボコにして逃げたら更に余罪が増えてしまう。
(違う、問題はそこじゃねえ。ボコってこいつらが身に着けている武器や防具を壊したら、無実が証明された時に、弁償しろとか言われるかも知れねえ。そんなのは嫌だ)
だが、素直に投降したとしても、コウスケの殺人をしたと虚偽の証言をする証人が30人もいる。証拠も既に捏造しているかも知れない。
傷つけずに逃げるというのが一番いい選択だろう。
それにはこの魔法が一番だ。
コウスケは衛兵に向かって手の平を広げた。
「グ……なんだ、この臭いは!?」
「屁だ! 屁の臭いだ!」
「だが、それにしては、ゴホゴホ……」
(今のうちだ)
屁の臭いを出す魔法の強烈な臭いで、衛兵たちがパニックを起こしている隙に、持てるだけの荷物をもって、素早くこの場を後にした。
ボコボコにして逃げる。
投降する。
人生をあきらめていた気ままな独り身の時ならば、どちらも悪い選択肢ではないだろう。
だが今は扶養家族がいるので、どちらもできない。
罪を重ねずに自分の無実を証明し、アイツとの決着をつけなければいけない。
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