3-11

「クソ、俺のおかげに試験に合格できたのに、なんだこの扱いは!」


 ボコボコにされたうえに、家からも叩き出されてしまったコウスケは、ジャッロを誘って常連の酒場に行き、声を荒げていた。


「まあまあ、相棒」


 そんなコウスケをジャッロはなだめ、


「当然の結果だと思うわ」


 マーヴィ―は煽った。


「ってか、なんでてめえ、ここにいんだ!」


「でも、相棒、勢いで僕が教えるって言っちゃったけどさあ。本当にそれで良いの?」

「ママ! エールもう一杯だ!」


 ジャッロの言葉を遮るように、酒を催促する。


「相棒はあの子にサムライソードを使って欲しいんじゃないの? サムライソード使い方は、僕はよく知らないよ」

「だから俺が教えろってか?」

「うん、その方が……」

「なんで俺が、そんなめんどくせえ事しなきゃいけねえんだ」


 差し出されたエールを一気に飲み干した後、


「っち、気分が悪りい。外の空気吸ってくるわ」


 店の外にいる奴らを、ぶん殴ってストレス解消をするために席を立った。



 10年ぶりに会っても変わらないジャッロに、マーヴィ―は大きくため息をついた。


「相変わらず鈍いわね」

「え?」

「仲間が強かっただけのゲス勇者とS級冒険者パーティーを率いる剣聖、どっちから剣を教わった人を社会は評価するかしら?」

「確かに相棒は衰えてるけど、それでも……」

「実際の強さではないわ。周囲がどう見るかよ。煌剣団のジュニアチームに所属した人材だったら、他の冒険者チームからも引っ張りだこだし、冒険者にならなくても、色んなの騎士団が目の色を変えて欲しがるはずよ」

「そんなの僕は納得いかないな」

「そう? 私は良い判断だと思うけど」


 飲みながら話し続けていると、大きな物音と声が聞こえてきた。


「おらー! 死ねこらあ!」


 コウスケが乱闘を始めたようだ。

 おそらく相手は、50人くらいだろうか。この酒場を取り囲んでいるのが、気配で伝わってきていた。


「ぷぷぷ……コウスケも本心では割り切れてないみたい」

「でも、あの人たち何なんだろうなあ。全く身に覚えがないや」


「ママさん、ラム酒もらえるかな?」

「私には赤ワインをお願い」


 酒がなくって来たので、次のものを注文した


「でも、まだアナタを不意打ちできるほど強かったのね。驚いたわ」

「ホント、あの場で止めなきゃ、どうなっていたか分からないよ。皆、噂を簡単に信じすぎさ」

「プププ……あんなことされたら周りの人は、そりゃ激怒するわよ」

「そうなのかな? 僕は相棒の言ってることが、正しいように感じたけど」


 一口ラム酒を飲んだ後、ジャッロが辛そうに呟いた。


「あんな事が無かったらなあ」


 今、コウスケが調べているあの事について言っているのだろう。

 その頃、マーヴィ―は現在の職についたばかりで、昼夜問わず論文の作成に追われていた。


「かなり悲惨だったみたいね。私は随分たってから、話を聞いただけだけど」

「僕は、近くで仕事があったから、会う約束をしてたんだ。そしたらあんな事があって……」


 突如、大きな音がして、窓と玄関から火の手が上がる。

 発火効果のある魔道具を、外の奴らが店に投げたようだ。


「アハハ! 度を知らないようね」

「ヒックッこの店どこか分かってないのかな?」


 2人は自分たちが泥酔している事に気づいていなかった。



 殺気だったバカ共をぶん殴るのは、良いストレス発散になった。

 だが、ある人物がいることに気づき、その手を止める。


「ゲス勇者! よくもワシら親子に恥をかかせてくれたな!」


 試験会場でうんこを漏らした金持ち商人が凄まじい形相で、怒鳴ってきた。

 どうやら、こいつらは、この商人に雇われたようだ。

 金持ちと権力者は敵にまわしたくないので、証拠は残さないように色々やったはずである。どうしてバレたのだろうか?


「はあ、なんの事でございましょうか?」

「とぼけるな! 一緒にワシらをはめた剣聖共々、なぶり殺しにしてやるわ!」


 この親子にしたことと、ジャッロとはなんの関係もないはずである。

 勝手に変な妄想をして、それを事実だと思い込んでいる様だった。

 コウスケが呆れる中、チンピラ達が発火性タリスマンを酒場に投げ始める。


「貴様なんぞに酒を飲ませるこの店も重罪だ!」

 

 人を殺すために、人通りが多い夜の飲み屋街に大勢で押し寄せる。

 殺したい相手が飲んでいたというだけで、酒場に放火する。

 無茶苦茶である。こんな派手なことをやれば、行政機構が整った王都では、どんな権力者も無事では済まない。


「あのう、その様なことをされては……」

「黙れ! ワシは王室御用達の大商人だから何をしても許されるんだ!」


 こんな馬鹿が、自分の力でカネと権力を持てるとは到底思えなかった。


(誰かコイツの後ろ盾になってる奴がいるな)


 だが、後ろ盾の人間も、今回の件で間違いなく、このバカを切り捨てる。

 なので普段ならば、おかまいなしに殴るのだが……。


(王室御用達ってことは、背後にいるのは、もしかして、あの女か。そうなら、ここで騒ぎをおこせば、あの件を調べてることが、めくれるかも知れねえ。そうなったらヤベえ)


 1人のバカがコウスケに飛び掛かってきた。

 が、横から誰かに殴れて意識を失う。


「ヒックッ」


 殴ったのはジャッロのようだ。


「ハハ。大丈夫だよ。剣は使わずに、殴ってるから、問題にはならない。ヒックッ」


 千鳥足で顔を真っ赤にしながら、聞いてもいない事を勝手に答えている。

同時に背後から、複数の火炎球がこちらに向かって飛んできた。


 バカ共が火炎球で吹き飛ぶ中、何事かと思い飛んできた方向を向くと、 


「アハハハ! アハハハ!」


 玄関前で、顔を真っ赤にしたマーヴィ―が、スティックを構えて火炎球を無作為に投げ続けていた。


「てめえ、危ねえだろ!」


(こいつら完全に悪酔いしてやがる。めんどくせえ)


 だが、ここでコウスケは素晴らしい方法を思いつく。


(これはチャンスだ。責任は酔ってるコイツらに全部押し付けちまおう! ギャハハ、お前らも俺と同じ所まで堕ちてきやがれ!)


「くそおおお! 王室御用達商人であるワシを馬鹿にしおって! おい貴様ら! まとめて血祭りにあげろ!」


 商人は息巻いた。だが……


「おい、剣聖と賢者がいるぞ!」

「ゲス勇者を殺るだけだって聞いたから俺たちは来たんだぞ!」

「逃げろ! こっちが殺されちまう!」


 ジャッロとマーヴィ―を見て、他のバカ共は一斉に逃げ出し始めた。


 逃げている奴らと、このバカ親父に地獄を見せて、適当なところで逃げる。

 その後、全ての責任をジャッロとマーヴィ―に押し付けて、知らぬ、存ぜぬで通す。

 完璧な方法を思いついたコウスケは、ウキウキしながら、目の前の奴らを片っ端から殴り始めた。

 


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