3-6
トーナメントの組み合わせ発表が発表された。
これに優勝すれば憧れている煌剣団のジュニアチームに入団することができる。
少年は強い期待と緊張にかられながら、試合会場に向かって力強く歩き出した。
「いた!」
足の裏に激痛が走った。
下を見ると、沢山のマキビシがばらまかれていた。
卑劣な行為に怒る間もなく、身体にある変化が起こり始めた。
(え?……頭がふらふらする)
意識を失い地面に倒れ込んだ。
◇
「やったねパパ!」
1回戦の対戦相手が倒れた事を確認し、ラットは、はしゃぐ。
「ガハハッ眠り薬を塗った特製のマキビシだからな」
「次の相手はコイツだね。でも、勘が良さそうな奴だからこういう手は通じそうにないね。どうしよう?」
「心配ない。チンピラ共に小遣いを渡して、はしたガネを持っていかせているところだ」
「流石パパ!」
「断れば、意識を失うような怪我をしてもらえばいい。なにしろジャッロ公認だからな。なんの問題にもならん」
魔力が付与された木剣の使用が許されず、渡したカネを返された時は、本当に腹が立った。
だが、ジャッロが王室御用達の商人である自分の息子を、是が非でもジュニアチームに入団させたい思っていることは間違いない。
しかし、立場というものがある。
だから、こういった些細なことを黙認するのが、関の山なのだろう。
(S級冒険者の癖に腰抜けだとは思うが、ここは金持ちらしく、寛大に許してやろうではないか)
輝かしい息子の未来を思い浮かべながら、ダスティンはニヤリと笑った。
◇
「で、で、で、出番は次の試合だよね……」
「スカーレット、落ち着いて」
スカーレットはガチガチに緊張していた。
「あー! パパ! アイツらだよ! いきなりこの前、俺を汚い方法でいじめてカネをとった奴ら」
アホなボンボンとその父親が、こっちに気づいて向かって来た。
「貴様らか! ワシの可愛い息子にふざけた真似をしたクズ共は!」
「うっざいモンペね。あっち行ってくれない?」
「なんだと! 貴様らの親はどこだ!?」
「たかが、子どもの喧嘩に熱くなって、馬鹿じゃないの」
脂ぎったハゲ親父をスカーレットは適当に流した。
ここでヴィオレも口を開く。
「あなたの息子は女に負けたのよ。お・ん・な、に♪ 汚い手を使われたとしても、男として、その時点でゴミよ」
「きいいいい!」
父親が発狂した直後、ボンボンはスカーレットを見て笑い始めた。
「ぷッなんだ、その変な木剣、そんなの使って恥ずかしくねえのか」
「ガハハハッただの棒きれかと思ったぞ! ラット、もっと言ってやれ」
「……」
「しかもお前の対戦相手、ショットじゃねえか! アイツは俺を除けば、参加者の中で一番強いぞ! ギャハハハ……」
「しかもよく見たら、お前ら魔族とエルフか。こんな所に来て恥ずかしくないのか? ガハハハ」
「……」
うざったい親子だ。だが、バカに付き合ったおかげで、不本意だが緊張がとれた。
「182番、スカーレット・ヒセキさん」
「はい! 今行きます!」
バカ親子の笑い声は耳に入り続けていた。
他にも木剣を見て見ぬふりをしながら、冷笑する参加者や、保護者もちらほらいる。
だが、一切気にはならなかった。
試合場に入る前に対戦相手を確認する。
(確かに、強そう)
だが、不思議と負ける気はしなかった。
◇
「団長、あれがショット君です」
剣術の盛んなサンベリア地方の少年剣術大会で、圧倒的な強さを誇り優勝を総なめ。
大人が混じった剣術大会でも無敗。
今回の試験でも優勝候補の大本命。
見て少年ながらオーラの様なものを感じた。
(あー、あれは強いなあ)
だが、ジャッロが気になっていたのは、ショット君ではなく対戦相手のハーフ鬼の女の子だった。
「あの子……」
雰囲気や佇まいが、一緒に旅をしていた頃の同じ姓の友人に、そっくりなのだ。
「ああ、珍しいですね。この辺りで木刀を使うなんて」
この西側地域で、サムライソードの使い手は皆無だった。
それを木で模した木刀を見ることもまずない。
ジャッロもサムライソードを使う人間は、国外に出るまで、1人しか見たことがなかった。
「はじめ!」
試合が始まった。
女の子は、背をかがませながら、凄い速さで、ショット君の右懐にまわり込む。
ショット君はなんとか目で動きを追えてはいるようだ。
しかし、身体は反応できてない。
女の子はショット君の右わき腹を薙ぎ払う。
大きな音が響き、ショット君は地面に膝をついた。
たったの一撃で勝敗は決した。
皆、女の子が勝つなどと思っていなかったのだろう。
会場は静まりかえっている。
(技は無茶苦茶だな。でも、それをものともしないほどフィジカルと反応がいい。それになんというか戦い方が……)
早く終わって欲しかったジュニアチーム入団試験が、思わぬ形で楽しくなった。
自然と口もとに、微笑が浮かんだ。
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