3-6

トーナメントの組み合わせ発表が発表された。

これに優勝すれば憧れている煌剣団のジュニアチームに入団することができる。

少年は強い期待と緊張にかられながら、試合会場に向かって力強く歩き出した。


「いた!」


 足の裏に激痛が走った。

 下を見ると、沢山のマキビシがばらまかれていた。

 卑劣な行為に怒る間もなく、身体にある変化が起こり始めた。


(え?……頭がふらふらする)


 意識を失い地面に倒れ込んだ。



「やったねパパ!」


 1回戦の対戦相手が倒れた事を確認し、ラットは、はしゃぐ。


「ガハハッ眠り薬を塗った特製のマキビシだからな」

「次の相手はコイツだね。でも、勘が良さそうな奴だからこういう手は通じそうにないね。どうしよう?」

「心配ない。チンピラ共に小遣いを渡して、はしたガネを持っていかせているところだ」

「流石パパ!」

「断れば、意識を失うような怪我をしてもらえばいい。なにしろジャッロ公認だからな。なんの問題にもならん」


 魔力が付与された木剣の使用が許されず、渡したカネを返された時は、本当に腹が立った。

 だが、ジャッロが王室御用達の商人である自分の息子を、是が非でもジュニアチームに入団させたい思っていることは間違いない。

 しかし、立場というものがある。

 だから、こういった些細なことを黙認するのが、関の山なのだろう。


(S級冒険者の癖に腰抜けだとは思うが、ここは金持ちらしく、寛大に許してやろうではないか)

 

 輝かしい息子の未来を思い浮かべながら、ダスティンはニヤリと笑った。



「で、で、で、出番は次の試合だよね……」

「スカーレット、落ち着いて」


 スカーレットはガチガチに緊張していた。


「あー! パパ! アイツらだよ! いきなりこの前、俺を汚い方法でいじめてカネをとった奴ら」


 アホなボンボンとその父親が、こっちに気づいて向かって来た。


「貴様らか! ワシの可愛い息子にふざけた真似をしたクズ共は!」

「うっざいモンペね。あっち行ってくれない?」

「なんだと! 貴様らの親はどこだ!?」

「たかが、子どもの喧嘩に熱くなって、馬鹿じゃないの」


 脂ぎったハゲ親父をスカーレットは適当に流した。

 ここでヴィオレも口を開く。


「あなたの息子は女に負けたのよ。お・ん・な、に♪ 汚い手を使われたとしても、男として、その時点でゴミよ」

「きいいいい!」


 父親が発狂した直後、ボンボンはスカーレットを見て笑い始めた。


「ぷッなんだ、その変な木剣、そんなの使って恥ずかしくねえのか」

「ガハハハッただの棒きれかと思ったぞ! ラット、もっと言ってやれ」

「……」

「しかもお前の対戦相手、ショットじゃねえか! アイツは俺を除けば、参加者の中で一番強いぞ! ギャハハハ……」

「しかもよく見たら、お前ら魔族とエルフか。こんな所に来て恥ずかしくないのか? ガハハハ」

「……」


 うざったい親子だ。だが、バカに付き合ったおかげで、不本意だが緊張がとれた。


「182番、スカーレット・ヒセキさん」

「はい! 今行きます!」


 バカ親子の笑い声は耳に入り続けていた。

 他にも木剣を見て見ぬふりをしながら、冷笑する参加者や、保護者もちらほらいる。

 だが、一切気にはならなかった。

 試合場に入る前に対戦相手を確認する。


(確かに、強そう)


 だが、不思議と負ける気はしなかった。



「団長、あれがショット君です」


 剣術の盛んなサンベリア地方の少年剣術大会で、圧倒的な強さを誇り優勝を総なめ。

 大人が混じった剣術大会でも無敗。

 今回の試験でも優勝候補の大本命。

 見て少年ながらオーラの様なものを感じた。


(あー、あれは強いなあ)


 だが、ジャッロが気になっていたのは、ショット君ではなく対戦相手のハーフ鬼の女の子だった。


「あの子……」


 雰囲気や佇まいが、一緒に旅をしていた頃の同じ姓の友人に、そっくりなのだ。


「ああ、珍しいですね。この辺りで木刀を使うなんて」


 この西側地域で、サムライソードの使い手は皆無だった。

 それを木で模した木刀を見ることもまずない。

 ジャッロもサムライソードを使う人間は、国外に出るまで、1人しか見たことがなかった。


「はじめ!」


 試合が始まった。

 女の子は、背をかがませながら、凄い速さで、ショット君の右懐にまわり込む。

 ショット君はなんとか目で動きを追えてはいるようだ。

 しかし、身体は反応できてない。

 女の子はショット君の右わき腹を薙ぎ払う。

 大きな音が響き、ショット君は地面に膝をついた。

 たったの一撃で勝敗は決した。

 皆、女の子が勝つなどと思っていなかったのだろう。

 会場は静まりかえっている。


(技は無茶苦茶だな。でも、それをものともしないほどフィジカルと反応がいい。それになんというか戦い方が……)


 早く終わって欲しかったジュニアチーム入団試験が、思わぬ形で楽しくなった。

自然と口もとに、微笑が浮かんだ。


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