2-3
「こちらが先生のご自宅です」
「どうしてご存じなんですか?」
「自警団は守るべき市民の住所は全て把握しております」
道案内をしてくれたことには感謝したが、態度の変わりようや粗暴な言動の数々にヴィオレは強い嫌悪感と不信感を抱いていた。
一刻も早くこの男から離れたい。
いや、この男より今はマーヴィ―先生だ。
憧れの人に会えるかも知れないと思うと緊張が止まらない。
振るえた手でドアをノックした。
「すいません」
反応がなかった。
何回か同じことを繰り返したがやはり反応がない。
「おい! マーヴィ―! 俺だ!」
しばらくして男が声を張り上げた。
恥ずかしいのでやめてほしい。
「居留守使ってんじゃねえぞ!」
男はドアを蹴り始めた。
「ざけんじゃねえぞ! クソ女!」
大きな声を出しながらドアを何度も足蹴にした。
大きな音が周囲に響く。
信じられない光景にヴィオレは呆然とした。
しかし、すぐに我に返り、怒りの言葉をあげる。
「なにやってるのアナタ!」
だが男の耳にヴィオレの言葉は届いてないようだった。
「へへ、お前がその気なら考えがあらあ」
男は扉に背を向けると、大きく息を吸い込んだ。
「ご近所の皆さま! ここに住んでいる賢者とか呼ばれて調子こいているクソ女マーヴィ―・キュアノスには人間との間にできたハーフエルフの隠し子がおります!」
口元に手をあてて大声を出し始めた男に、愕然とする。
「今、ご立派な賢者様に捨てられた隠し子をここに連れてきたのですが、居留守を使って会おうとしません!」
とんでもない勘違いだ。
聞いていて恥ずかしいどころではない。
「お腹を痛めて産んだ我が子に対して余りにも冷酷な仕打ちです! この様なものを賢者などと称賛をして本当に良いのでしょうか!?」
「いい加減にしなさいよ! それに私はハーフエルフじゃなくてエルフよ!」
普段からハーフエルフに間違えられることに強いコンプレックスを抱いていたヴィオレは、大声で否定したが、男は聞かない。
「こんなもんじゃ終わんねえぞ」
男はポケットから筆とインクを取り出してマーヴィ―先生の家に卑猥な絵や言葉を落書きし始めた。
先日の大会で自分の受けたことを思い出し、男に強い怒りと嫌悪感がわいた。
「ヒャハハハ! ヒャハ……」
何としてでも男を止めなくてはと思った時、突然男が氷漬けになった。
「ここが特定されていたなんて……うかつだったわ」
ドアが開きステッキを構えたエルフの女性がでてきた。
髪は青のショートボブ、メガネをかけた鋭い目つき。
ヴィオレはその女性を本や新聞で何度も見たことがあった。
「マーヴィ―先生!」
マーヴィ―先生がステッキを頭上にあげて振り下ろすと、
男が描いた落書きが一瞬のうちに消え去った。
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